慶應義塾大学
法学研究会サイト
法学
研究
教養
論叢
大学院法学
研究科論文集
法学政治学
論究
学生
論文集
ホーム
管理用記事
管理用記事
※本文が空の記事のみ
未分類
裏表紙
ISSN O389→〔)538Vol.71 December1998 No.12HOGAKU KENKYUJoumalofLaw,Politic8andS㏄io1㎎yCONTENTS、4漉6」6sA Study of the Local Fiscal Autonomy in Japan WithComparativeReferenceto SouthKorea andtheUnitedStates ・KOBAYASHI,Yoshiaki…(1) P7⑳5307αPoJi漉0!Sαθ解60ffentliches Recht und Privatrecht im Wasserrecht,2.Tei1 -Insbesondere im JBGB一 ・SHICHINOHE,Katsuhiko…(29) ・4εso6磁6P7碗sso70ゾCガ躍LαωPO6Z4〃Z6n云STwo Acts related to Countermeasures against Domestic Violence in Korea ・OTA,Tatsuya…(61) ・4sso6~α’6P7ψsso7(ゾCηηzガ綴」ノκs’ゴ66αn4∠4s勿πLαωAdaptation of the Indian People in the New Mexican Environmental Legislation ・ALCANTARA,Carlos Durand…(83) P7⑫sso70ゾLα躍 Chの3㎎o U勉泥欝め translated by ISHII,Yoichi P7碗sso7qプS〕旋zη該shα雇」L‘z々ηノ1ηzθη6θηZ,‘zz〃 κ召nα即磁uη2泥名sめComments on“The Points to be Reviewed in the Japanese Bankruptcy Laws”(3) ・Civil Procedure Law Research Group…(99)C召s6Noぷ召s……・…・………・…・……9一一…………・…………・……・・……・(131)Rω乞6ωsHIRAMA,Yoichi/1S!z64夕σ%7」4 慨z71召媚!h61”z1尼7批zJ/4かzn6s6ノ〉とzzノッJ L吻肋96δ6如66麗∠)ゆJo〃3召6ツα窺!〃iげ1吻η0惚鵤渉ぎo郷 ・MASUDA,Hiroshi…(155) P7碗SSO7げ血勿彫S60ゆJo脚ごκ研S!0η Toツo顔掘恥吻6ガs U勉泥名sめ EditedbyHOGAKU-K瓢YU一:K心(The A8soci8tion for the Study of Law and PoUtic8) Faculty of Law,KEIO Unive炬ity Mita,Minato-ku,Tokyo108-8345
未分類
奥付
法学研究編集委員会委員長委員同 同 同 同 同 同 同 同 同 同 同法学部教授法学部教授法学部教授法学部教授法学部教授法学部教授法学部教授法学部教授法学部教授法学部助教授法学部助教授法学部専任講師法学部専任講師三木北萩玉大林横井迫宮霜根瓶俣居原井森 手田村島野岸愼 能 正 慎 純 寿一章功久清仁茂二良男司亮毅平成十年十二月二十日 印刷 第七十一巻平成十年十二月二十八日 発行 第十二号 定価一〇五〇円(本体δ○○円) 東京都港区三田二丁目一五番四五号 慶慮義塾大学法学研究会朋礁嫌印 印刷 刷所 者 代表者根 岸 毅 電話〇三-三四五三-四五二東京都港区高輪一丁目三番二二号 前 田 伸 治東京都港区高輪一丁目三番二二号 図書印刷株式会社本誌の入手・予約購読につきましては左記、慶慮義塾大学出版会までお申込みください。予約購読料蒲費税・送料含む) 半ヵ年 五五〇〇円 一ヵ年 一一〇〇〇円〒一〇八-八三四六東京都港区三田二丁目一九番三〇号 発売所慶磨義塾大学出版会 振替口座 ○〇一九〇1八ー↓五五四九七 電話〇三⊥一一四五一⊥二五八四
未分類
執筆者紹介・第71巻第11号目次
、・董◆も◆奪◆一一弩◆一亀胃◆・も一◆轟一マ◆三τ◆一…,◆一一一マ◆・一層=◆‘弓◆も◆一一警◆一-弓膨噌劃ゆ梱卜1ゆφII障劇φII静ゆ瀞ゆ融ψ網剛◆瀞◆轟φ個”φ弾ψ一博小ひ“◆個帥r9・ll博・かψ“◎串φ瀞φ φかψ太七小執筆者紹介林 良 彰戸 克 彦田 達也カルロス・H・ドゥラン・アルカンタラ増坂渋三綾石田原谷木 井 正光浩克陽弘夫義一己一法学部教授法学部助教授法学部助教授チャピンゴ大学教授神奈川大学教授弁 護 士法学部教授法学研究科後期博士課程法学部教授東洋英和女学院大 学 教 授博鞭ゆ“φ“◆脚φ伺}“障“φ1陣網}◆砂◎帝φ“◆硝φ榊引一φ1陣一ゆ梱酬M騨φゆφ1陣岬ゆ ゆ“ψド等◆≒◆冒;も,薗‘富‘も◆も◆も◆妻◆垂◆奪◆も◆も◆鮎第七十一巻 第十一号 目次 論 説水法における公法と私法(一) 1民法における水法関係規定を中心にー現代日本農村社会における組織体について(二・完) 資 料韓国における共謀共同正犯論 -現状と展望1「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三) 判例研究〔商法〕三八五蔀融鵬轟駄雛蟻鞍陛て〔最高裁民訴事例研究 三四三〕 特別記事大石裕君学位請求論文審査報告伊藤高史君学位請求論文審査報告七 戸克 彦宮崎俊行金 容世民事訴訟法研究会商法研究会民事訴訟法研究会
未分類
黒沢文貴君学位請求論文審査報告
特別記事特別記事 黒沢文貴君学位請求論文審査報告 黒沢文貴氏提出による学位請求論文「大戦間期の日本陸軍」の構成は次の通りである。 序 章 一 課題と視角 二 本論文の構成 三 史料について 第一部第一次世界大戦の衝撃と日本陸軍 第一章日本陸軍の第一次大戦研究 はじめに 一 調査委員の成立と組織 二 調査委員の活動 1 資料の収集 2 陸軍内外への活動 三 調査委員と田中軍政 おわりに 第二章 日本陸軍の総力戦構想 はじめに 一 経済力の育成 - 三つの課題 2 生産力の拡大 3 自給自足と自由貿易 二 政軍関係 三 挙国一致と自発性の喚起 おわりに第三章 日本陸軍の「大正デモクラシー」認識 はじめに ﹈ 状況としての「大正デモクラシー」認識 1 一般社会をめぐる「大正デモクラシー」 2 軍をめぐる「大正デモクラシー」 3第一次世界大戦の教訓 二 思想としての「大正デモクラシー」認識 三 制度としての「大正デモクラシー」認識 おわりに第四章 日本陸軍のアメリカ認識 はじめに 一 アメリカ研究の動機 二 国民軍事教育と国民性 おわりに第五章 日本陸軍の軍近代化論159法学研究71巻12号(’98:12) はじめに 一 精神強調論 二 装備・精神論 おわりに第二部 「満州事変への道」と日本陸軍 第六章 田中外交と日本陸軍 はじめに 一 総力戦の衝撃と「大正デモクラシー期」の陸軍 二 』九二五年体制」と田中外交 三 田中・宇垣と陸軍中堅層 おわりに 第七章 満蒙侵略と国家改造 はじめに 一 統帥権干犯問題と陸軍「革新」派 二 三月事件1「内先外後」主義から「外先内後」主義 へ1 三 石原構想と関東軍 四 満蒙武力解決と軍制改革 おわりに第三部 「太平洋戦争への道」と日本陸軍 第八章 両大戦間期の体制変動と日本陸軍 はじめに 一 日本陸軍の総力戦構想と』九二五年体制」の成立 二「一九二五年体制」の動揺 三』九二五年体制」の崩壊 四コ九四〇年体制」の構築 おわりにー「一九二五年体制」から』九四〇年体制」へ1第九章「一九四〇年体制」と総力戦研究所 はじめに 一 総力戦研究所の設立にいたる経緯 1 陸軍内の動向 2 一九三〇年代日本政治の動向 3 第二次近衛内閣と総力戦研究所の設立 二 総力戦研究所設置の理由 おわりに1総力戦研究所と総力戦論1 本論文は両大戦間期の陸軍に焦点をあて、次の三つの課題に答えようとしている。第一に一般的に「保守」的な存在と見られていた「大正デモクラシー期」の陸軍がいかなる理由で「革新」化し、「昭和ファシズム期」の陸軍へと変質したのか。第二に、何故陸軍が一九三〇年代の日本政治の主役となり、「太平洋戦争への道」の起動力となったのか。第三にいわゆる「大正デモクラシー」から「昭和ファシズム」への転換とは、どのような歴史的事象として理解しうるのかである。そして次の四つの視角から分析がな160特別記事されている。第一は両大戦間期の歴史を、第一次世界大戦の衝撃を受けて、流動化した日本をとりまく内外体制の再編成の時期としてとらえる視角である。第二は、第一次大戦の衝撃のうち、特に総力戦の衝撃の意味を重視するということである。第三は、「大正デモクラシー」と陸軍との関連性に注目するということである。そして最後の視角は、近代化過程の国家における軍として陸軍(軍部)を理解するということである。 本論文は三部九章から構成されているが、その内容について紹介していきたい。まず第↓部では、「大正デモクラシー期」の陸軍が直面したさまざまな問題に焦点があてられるが、それらの分析を通して、その時期陸軍の持っていた政策や、認識の幅が提示されている。いわば両大戦問期の陸軍の思想と行動の原型が示される。 第一章「日本陸軍の第一次大戦研究」は、一九二二年三月に作成された「臨時軍事調査委員解散顛末書」を中心に、調査委員の組織と活動の実態を明らかにするとともに、田中軍政との関係についても考察を試みる。第一次大戦は予想に反し未曾有の大戦争となり、従来の戦争とは全く異なる様相を呈した。日本政府はその実態を把握するため、主要官庁に臨時調査局を設け、中でも陸海軍は大戦の推移に強い関心を抱き、一九一五年秋、それぞれ臨時軍事調査委員、臨時海軍調査会を組織し、それまで部内各機関で行っていた調査研究を】本化した。本章は、これまでほとんど検討がなされてこなかった陸軍に重点を置き、調査委員の成立と組織、調査委員の活動を、資料の収集、陸軍部内と部外への働きかけを分析し、第一次大戦後の陸軍は、田中義一陸相の強い指導力の下で国軍の改善に取り組んだことを指摘している。 第二章「日本陸軍の総力戦構想」は、永田鉄山少佐が執筆したとされる『意見』を中心に「大正デモクラシー期」の陸軍の総力戦構想を、理論的側面から検討したものである。総力戦体制を確立するためには、五つの課題がある。第一に軍の編成装備の合理化、近代化、第二に経済力、特に軍需物資生産力の育成、第三に国民の精神力、心理的結合力、第四に軍の一元的統制、そして第五に国務と統帥の一元化である。このうち、第一と第四は軍固有の問題であるため、検討を後章にゆだね、ここでは残りの三つの課題に則して検討している。総力戦は、経済と軍備の関係に対する認識の変化をもたらした。軍備充実の前提としての経済力を位置づけるという認識である。すなわち①生産力の拡充のため国内体制を効率化し、統制経済と自由主義経済161法学研究71巻12号(’98:12)のバランスに考慮するという構想を打ち出す。⑭不足資源の補填であるが、この点については陸軍部内に自給圏をより強く志向する自給圏強調論と、自由貿易との両立をも志向する自由・自給圏論とも呼び得る二つの流れが生まれていった。さらに政軍関係については、国家総動員機関とその要員がいかなる方針のもとに構想されたかが分析される。それは文武官民の融和協調、相互理解を基本的態度とするものであるが、軍内外における教育の改善が切実な問題として考えられ、また政府による強制権設定の方法が構想される。現代戦の本質を「国民戦」と見抜き、挙国一致、自発性の喚起のため、第一に軍内外にわたる教育を改善し、第二に情報宣伝の世論指導を行い、第三に議会を活用することが提唱された。 本章のまとめとして、陸軍の総力戦構想の特徴を次のように要約している。第一に、問題のとらえ方が幅広く柔軟であること、第二に国家総動員のために効率化を追求する姿勢である、第一次大戦以後、一九二〇年代は軍部(軍事)と政党(政治)との協調による総力戦体制準備期とも位置づけることができる。いわば「国家安全保障」と「民主主義」のそれぞれの担い手が緊密化したとの指摘がなされる。そして、陸軍が総力戦体制構築への志向性を有していたという事実こそ、一九三〇年代以降、軍部を日本政治の中心に登場させる最大の要因となったことが指摘されている。 第三章「日本陸軍の「大正デモクラシー」認識」は、この時期の時代思潮となった大正デモクラシーに衝撃を受けた軍部、特に陸軍がどのようにこれに対応し、軍の立場を守ろうとしたのか分析したものである。当時の陸軍軍人の著作物、特に『借行社紀事』を丹念に集めて分析したものである。第一次大戦後の大正デモクラシー運動の発展は、軍にとっての受難期であるとともに、「開国」にも比すべき重大な衝撃であった。本章は陸軍の大正デモクラシーへの認識を状況・思想・制度についての認識としてとらえ考察する。多くの陸軍軍人は、予想以上に時代潮流を是認し、自己改革によって軍の存立を守ろうとした。すなわち自由主義、民主主義、社会主義等々の「新思想」の流入、横行から生じるマイナス面を認識しながら、それを全面的に否定するのではなく、そうした状況に対応しようとする柔軟な姿勢もみせた。大正デモクラシーの発展による国民と軍の乖離による孤立を恐れ軍内部における軍紀、風紀の弛緩・退廃をもたらすことを恐れながら、軍人のこれまでの「超社会的態度」を白省し、国民とともにある軍隊の方向162特別記事を求めようとした。軍紀に関しても従来の強制的服従ではなく、自覚した兵による自発的な服従が見られた。第一次大戦における総力戦の展開は、軍と国民との協力関係維持の必要性を感じさせ、軍紀厳正と見えたドイツとロシアの軍隊が軟弱に見えた英米仏の軍隊に敗れ崩壊したことも、「自覚的服従」への脱皮の必要を感じさせたのである。思想としてのデモクラシーについても、天皇主権の国体に抵触しない限りデモクラシーの「民本主義的解釈」は是認しようとして、その他、一定限度での軍部内での自由権の承認、軍内部の超階級、平等性の主張等によって、軍も大正デモクラシー思想を受け入れようとしたのである。また、政治体制としても、デモクラシーは天皇制と矛盾するものではなく、天皇制に見合う制度変革U新秩序形成の必要性を認識し、普通選挙や政党政治をも認めようとしたことが指摘されている。こうした主張の中には、概念が十分明確でなかったり、曲解に近いように思われるものも見られる。本章は豊富な史料を駆使し、軍が大旨現実主義的な柔軟な姿勢を示したことを指摘している。本章は、大正デモクラシー期の日本陸軍の実態分析を大きく前進させ、一九二〇年代の政軍関係を、軍人の意識の側面から鋭くとらえた点が高く評価できる。 第四章「日本陸軍のアメリカ認識」は、陸軍の対米認識を一九二〇年代を中心に考察したものである。二〇年代は陸軍の本格的なアメリカ研究の草創期にあたり、また軍縮や移民問題など多少日米間に緊張状態があったとはいえ、現実的な日米戦争の可能性の低い協調を基調とする時代であったため、比較的冷静かつ客観的なアメリカ分析が可能であり、さらに大衆レベルの対米イメージと、重ね合わせることができる時期との指摘がなされる。陸軍軍人のアメリカに対する関心は、第一次大戦へのアメリカの参戦によって呼び起こされ、徴兵制を敷いたアメリカ陸軍に着目し、最大の欠点は戦時急増で教育が不十分な将校が多いが、自発性に裏打ちされた「進取的英気」に富む軍隊であり、驚くべき戦力を持ち、また第一次大戦後国際政治上の重要な地位を占め、東アジア、太平洋方面において日本と衝突する可能性がある、さらに日本陸軍及び日本人の覚醒を促すひとつの材料にもなるとの理由から研究が熱心に行われた。そして、アメリカを研究・理解するに際し、日本の尺度を以ってするのではなく、他の立場を理解しようとする態度、さらには感情を離れた冷静な総合的観察の必要性を説いたのである。特に陸軍が注目したのは、国民の軍事教育と国民性についてであった。日本陸軍がアメリカの国民軍事教163法学研究71巻12号(’98:12)育を高く評価したのは、いずれも「大正デモクラシー期」の日本陸軍が真剣に取り組み、実現しなければならないと認識した重要課題であり、アメリカは「絶対的敵」としても「現実的敵」としても「敵」意識が希薄な存在であり、それが陸軍の国内における「大正デモクラシー」認識と表裏一体の関係にあったことが指摘される。 第五章「日本陸軍の軍近代化論」は第一次大戦後の状況に直面した日本陸軍が、その課題、特に「国軍ノ整備充実」をどのような戦術、戦略論、編成装備観、総力戦体制像などに基づき行おうとしていたのかを、明らかにしたものである。そして、大戦終結前後から宇垣軍縮頃までの期間における軍近代化をめぐる陸軍部内の対立の幅を再検討することによって、大正後期から昭和初期にわたる陸軍部内の権力状況を一貫した視点から理解するための一試論を提示した。第一次大戦に対し、日本陸軍内部には、大別して二つの対応を生み出した。一つは大戦の教訓をできる限り特殊なものとする見方、他の一つはより一般的なものとしてとらえる見方である。便宜上、前者を精神強調論、後者を装備・精神論と名付ける。精神強調論は、将来の戦争が総力戦段階にあり、軍近代化の必要性を認めながらも、それ故ことさら日本経済の後進性が強く認識され、またそれを所与のものとしたが故に、「堅確ナル軍人精神」「真ノ攻撃精神」を身につけた歩兵を主体とする短期戦戦略により強いアクセントを置く主張を展開したといえる。一方、装備・精神論は、長期的な視野に立つ柔軟な幅のある議論であり、総力戦の観点からいえば、産業動員と精神動員、そして国民動員にアクセントを置く総力戦体制像を描いていたのである。精神強調論と装備・精神論とが異なる理論体系を持つことは間違いないが、同質的な面もあり、両者の関係はより柔軟な装備・精神論が精神強調論を含む形で、同心円を形成していたことを考えるべきであるとする。すなわち、実際上の相違は、結局その程度・方法の如何にあったといえる。そして、宇垣軍縮の実現は、装備・精神論がとりあえず陸軍部内の主流的な考えとなったことが明らかにされている。 続いて、第二部と第三部においては、第一部で提示した陸軍の政策的幅や、認識の幅がどのように展開して、満州事変と太平洋戦争とつながることになったのかについての考察を行っている。 第六章「田中外交と日本陸軍」は、内政・外政の統一的把握とソ連要因に留意しつつ、陸軍を中心に「満州事変と十月事件への道」に関する一つの視点を提示したものであ164特別記事る。本章の分析に際しては、陸軍の総力戦構想との関連性、大戦を契機に流動化した日本をとりまく内外秩序の収束過程、田中義一内閣とりわけ田中外交の意味に着目している。従来満州事変は田中外交に起因するものと見られがちであるが、大戦後の内外秩序収束過程との関連性を検討すると、そうした見方は必ずしも正しくない。何故なら、内外政の統一的視点を総力戦の衝撃をもとに政策化しようとした田中の構想は、陸軍中堅層のそれとは明らかに異なるビジョンに立つものであったからである。さて、総力戦の衝撃は、陸軍に三つの課題を提起した。第一は産業力、特に工業生産力の全面的増強の要求であり、第二に国民の精神力・心理的結合力の問題、第三に強力な戦争指導に不可欠な国務(政治)と統帥(軍事)の】元化であった。総力戦の衝撃は、対外的には資源獲得と自給自足圏の形成、対内的には人的・物的資源の総動員を可能にする国家再編成という内外二つの課題を提起し、その後の陸軍の行動と思想の基準となっていく。このように、「大正デモクラシー期」の陸軍には柔軟主義的な現実性を見てとることができるが、その意味で当時の政軍関係は宇垣軍縮に象徴されるように、対立的であるよりはむしろ協調的・相互依存的状況にあったのである。それは日本をとりまく内外秩序の相対的安定によって裏打ちされていた。さて、第一次大戦の衝撃を受けて流動化した東アジア国際秩序は、中国本土・南満州をめぐる日英米関係(ワシントン体制)と北満州をめぐる日中ソ関係という二つの枠組みにより規定されることになった。特に日本の立場からいえば、ワシントン体制ー満州親日政権(張作森)1日中ソ関係という枠組みによる東アジア秩序の安定が可能になったのである。また、国内秩序も収束の方向に向いていた。「憲政の常道」体制と、普選H治安維持法体制の成立である。こうした内外秩序の枠組みをコ九二五年体制」と呼ぶ。この体制の安定化を根底から揺り動かしたのが、排外主義的ナショナリズムを強めていた中国であった。中国ナショナリズムの台頭を前に、列国は動揺し、日英米三国の協調に亀裂が生じる。また満州においても、日本とソ連の利権に対する回収運動が強まっていた。こうした中で登場したのが田中内閣である。田中首相兼外相の構想は①中国本土は蒋介石に任せ、ワシントン体制を維持する、⑭張作森を支持して満州の秩序維持及び権益の確保・伸張をはかる、㈹北満州における日中ソ関係の安定化を促進することであった。「一九二五年体制」の実体化こそが田中構想の狙いであった。しかし陸軍の出先による張爆殺は、統一中国の成立により親日政権を通じ165法学研究71巻12号(98:12)て満蒙権益を確保するという基本的な政策が崩壊したことを意味した。一方陸軍中堅層は、田中外交の展開を注目しながら、独自の満蒙政策を模索しはじめていた。それは、満蒙領有であり、それが張爆殺を引き起こしたのである。陸軍中堅層は、昭和初期の日本をとりまく内外秩序の動揺に対する危機感から、「大正デモクラシー期」に有していた柔軟性の幅をせばめることになり、二五年体制を否定する中で「革新」化していったとの結論が導かれる。 第七章「満蒙侵略と国家改造」は、「一九二五年体制」の崩壊に決定的役割を果たした満州事変と十月事件が、いかなる形で勃発したかを分析したものである。一九三〇年のロンドン海軍条約をめぐるいわゆる統帥権間題は、「大正デモクラシi」下の平和ムードの中で長く問題とされてきた陸相文官問題と合わせ、陸軍中堅者の政軍関係の動揺に対する危機感と政党政治に対する不満を一挙に顕在化させた。こうして政党政治の打倒を中核とする国家改造運動が陸軍内に発生する。第一次大戦にみられる総力戦が提起した内外二つの課題、国家再編成とそれを支える資源確保、自給自足圏形成の間題は、陸軍中堅層の国家改造論を満蒙領有論に凝結させる。当時陸軍「革新」派内には、「革新」の実行方法をめぐり二つの考え方が存在していたことが示される。国家改造を先に行い、強力な政府を樹立し、しかるのち満蒙問題を解決しようという「内先外後」主義と、まず対外戦争を起こしそれをてことして国家改造を断行しようという「外先内後」主義である。いわゆる三月事件と呼ばれる陸軍のクーデター計画は失敗したが、「革新」実現の力点は「内先外後」主義から「外先内後」主義へと移ったのである。石原莞爾は、将来の戦争を世界最終戦争としての日米戦争と位置付け、そのためには食糧問題を解決し重工業の基礎を確立し、さらに日本の失業者を救うため満蒙領有を主張した。こうした状況の下、日中共存共栄による満蒙間題の平和的解決を図ろうとする第二次幣原外交は行き詰まり、陸軍は国際協調外交と軍縮政策を推進する政党政府を打倒し、軍部主導体制を自給自足圏の形成による総力戦体制の構築に向け遭進することになった。特に宇垣一成に代わる南次郎陸相の登場以降「革新」的勢力は陸軍内部で力を占めるに至り、満州事変と十月事件の衝撃をてことして』九二五年体制」に代わる新たな総力戦体制の創出に向け突き進むようになったことが指摘されている。 第八章「両大戦間期の体制変動と日本陸軍」は、「太平洋戦争への道」の出発点を第一次大戦後に置き、戦間期の日本における歴史的変動を一貫した視点から説明しようと166特別記事するものである。そして戦間期における主要な政治主体であった日本陸軍の総力構想に注目し、第一次大戦以降の日本がいかにして太平洋戦争に突入したかを明らかにしている。日本陸軍が総力戦構想を考えはじめたのは、第一次大戦の衝撃によるものであるが、その衝撃とは、第一に大量生産、大量消費に耐えられる経済力の育成、第二に国民統合の問題、第三に強力な戦争指導に不可欠な政治と軍事の一元化であった。このように純軍事的分野に限定されない総力戦の衝撃は、対外的には資源の獲得と自給自足圏の形成、対内的には人的物的資源の総動員を可能にする国家再編成という二つの課題を提起し、その後の陸軍の思想の行動引照基準となった。対外的には北伐の進展に伴う中国ナショナリズムの高揚と第一次五力年計画に着手したソ連の脅威化とが、日本の満蒙権益を脅かし、国内的にはロンドン条約締結による統帥権干渉論が政党と軍の協調路線に深刻な疑問を投げかけた。ここにおいて』九二五年体制」に代わる新たな内外体制を再構築しない限り総力戦時代にふさわしい国防体制の創出や自給自足圏の確立は不可能と認識された。こうした陸軍「革新派」の挑戦がはじまるのだがその中で構想されたのが、内閣の政策遂行を支える国策統合機関の設置であり、それは内閣調査局←企画庁←企画院として実現されることになる。陸軍は国家革新を目指す他省の文官官僚グループとの提携に取り組んだのである。国策統合機関設置の試みは、陸軍のパートナーが政党から官僚に変化したことを示す好例である。二・二六事件は、統制派の勝利により派閥対立が解消され、同時に中堅幕僚層の影響力が飛躍的に増大することになった。日中戦争の勃発は、昭和戦前期の国家体制の大きな節目となるものであった。すなわち、内外体制とも穏健路線へ復帰する可能性が完全に絶たれ、石原グループの没落により陸軍内部に体系的、整合的な政策体系を持ち、その実現を陸軍内外に保障し得るような、権力核の消滅を意味したのである。こうして、第二次近衛内閣のもとで、』九二五年体制」に代わる』九四〇年体制」の構築が目指された。』九四〇年体制」は、統制経済、自給自足圏、「上からの国民統合」、軍部の合法的間接支配下における有効な政治統合主体のない多元的諸機関の連合による「国策統合」などに力点をおいた体制であり、対外関係についていえば、大東亜共栄圏という英米依存からの脱却を目指す地域主義的国際秩序であった。そして、コ九四〇年体制」下の日本の悲劇は、いずれの政治勢力も体系的、整合的体系を持った政治統合主体たり得なくなっており、それ故状況追従的、か167法学研究71巻12号(’98:12)つ機会主義的な「官僚政治」に陥っていたという点にある。そして、その下での対米開戦は、有効なリーダーシップも、グランドデザインもない「ネガティブ・チョイス」であったことが指摘される。 第九章「』九四〇年体制」と総力戦研究所」は、一九四〇年に展開された近衛新体制運動下で生まれた総力戦研究所に焦点を当て、その設立に至る経緯と設立理由を明らかにすることによって、日本の一九三〇年代、四〇年代における「戦争」と「政治」問題を考察しようとするものである。総力戦研究所は、一九四〇年九月、内閣直属の機関として設置されたが、陸軍内における動きは、一九三〇年代半ばにさかのぽる。イギリス、トルコ、フランスなど海外駐在を経験した軍人は、国防大学設立の構想を持った。その理由は、①一九三〇年代の日本政治、軍事におけるセクショナリズムの弊害に対する危機感。③日中戦争が長期化し、総力戦の様相を呈する中で、あらためて総力戦の研究と総力戦遂行のための要員養成、さらに総力戦思想の国民への啓蒙・普及が必要とされたことであった。そして総力戦研究所は内外体制の刷新を目指す近衛内閣の下、「新政治体制ノ確立」のため主として陸軍と企画院を中心に構想・設置されたものであり、新体制樹立の推進力であった企画院の拡大強化構想と関連させながら、その実現がはかられていった。総力戦研究所設置の理由は、総力戦段階に入った日中戦争に対応するためには、総力戦体制の構築が必要であり、政戦両略の一致、セクショナリズムの打破が求められるが、その一助として設置が位置付けられたものである。総力戦研究所は、一九四〇年一〇月に発足するが、その作動が活発化するのは四一年一月以降のことであった。では、総力戦概念はどのような特徴があったのか。第一は、総力戦の「泉源」を「国体」に求め、天皇親裁は、天皇への帰一を理想の姿とした点にある。第二は、総力戦の特質を有機的な人間関係、つまり人の「和」に求めている点である。だがそこには、目的合理性が貫徹されておらず、基本的には国体イデオロギーの影響があり、そのため一元的な総力戦体制を創出することが制度的に困難となり、研究所の設置にもかかわらず、総力戦体制の構築は一層至難の技となったと指摘されている。 以上で本論文の内容の紹介は終わるが、本論文の評価すべき点は次のようである。 第一にこれまでほとんど未開拓の状態にあった「大正デモクラシー期」の陸軍に関して分析のメスを入れた点である。そしてそこから長期的視点、歴史的連続性の観点から、168特別記事昭和ファシズム期へとつなげていった点である。すなわち、最初に提起した三つの課題に答えている点である。 第二は、日本をとりまく内外情勢を分析することによって、』九二五年体制」の成立・動揺・崩壊、そして』九四〇年体制」の構築という新しい視点を提起したことである。従来のベルサイユ体制、ワシントン体制といった欧米からの視点ではなく、日本からの視点によるこの二つの「体制」の指摘はきわめて斬新である。 第三は、使用した史料とその利用方法である。中心的史料として用いている『階行社紀事』は、陸軍の半公的機関としての階行社の機関誌であり、軍の許容し得る範囲内の議論や軍の望む方向での議論が多く掲載されたものであり、軍の政策決定や政策形成をとりまく環境としての軍内の空気や、思想的背景の一端をうかがい知るには格好の史料である。さらに、防衛庁戦史研究部、国立国会図書館憲政資料室等の一次資料を用いると同時に、これまでの先行業績に丹念にあたり、それを踏まえた上で新たな議論を展開している点である。 本論分の各章は、『上智史学』、『軍事史学』、三輪公忠、戸部良一編『日本の岐路と松岡外交』等に発表されたものを徹底的に加筆・訂正したものであり、各論文は例えば第六章として収録された「田中外交と日本陸軍」が『軍事史学』に掲載されたその年の最優秀論文に与えられる阿南賞を受賞したことにも示されるように、学界できわめて高い評価を受けている。 以上の点から審査員一同、黒沢文貴君に法学博士(慶慮義塾大学)を授与するのにふさわしいと一致して判断するものである。平成一〇年五月一五日主査副査副査慶慮義塾大学法学部教授法学研究科委員法学博士慶慮義塾大学法学部教授法学研究科委員法学博士慶鷹義塾大学法学部教授法学研究科委員法学博士池井 優寺崎 修笠原英彦169
未分類
平間洋一著 『第一次世界大戦と日本海軍―外交と軍事との連接―』
紹介と批評平間洋一著『第一次世界大戦と日本海軍 外交と軍事との連接1』 、.oo巳き象αき血口注o≦貰、.、これは米西戦争(ω冨亭一警->ヨR8き≦震)の別称であるが、もし日本近代史にこれと近似する戦争を探すならば、それは第一次世界大戦となるだろう。なぜなら、この戦争で日本は、わずか数か月間のドイツ軍との戦闘の末、中国山東半島および赤道以北の太平洋諸島のドイツ権益をすべて獲得したばかりか、戦争好景気を背景に輸出を急進させて債務国から債権国へと転じ、さらにパリ平和会議では世界五大国の一国に列せられる栄誉に浴したからである。まさしく日本にとって第一次大戦は、軍事的にも政治・外交・経済的にも、「濡れ手に粟」の「天佑」にほかならなかった。 しかしながら史実を詳細に紐解けば、日清戦争や日露戦争がそうであったように、日本はこの戦争の過程で決して容易な勝ち方をしていたわけではなかった。陸海軍は軍事作戦に全エネルギーを集中して勝利を掌中に収めたわけであるし、外務省を中心とする政府は、列強間の水面下の外交的攻防に神経をすり減らす努力を重ねた結果、大きな国益を獲得したのである。日本は、もしも軍事作戦を一手間違えば手痛い打撃を被り、外交政策を一つ間違えば国際的孤立を招く恐れが十分あった。実にきわどい線上を歩んでいたのである。 本書は、従来顧慮されることがなかった第一次世界大戦期の日本海軍の行動を丹念に追い、上記のような薄氷を踏む状況を第一次資料を縦横に駆使して明らかにすると同時に、軍事と外交がどのような同心円を描くのかを究明した本格的研究書である。本書の構成は次のとおりである。序 章第一章研究の視角と内容参戦と日英米関係155法学研究71巻12号(’98:12)第二章第三章第四章第五章第六章日英連合作戦と日英豪関係太平洋における軍事行動と日米関係中国大陸と日本海軍大戦中の対英協力と海軍第】次大戦の波動とその余波 以下、評者の興味に沿いながらも、本書の特筆すべき内容に言及したい。 まず第一章では、日本海軍の参戦決定が消極的・受動的であったこと、海軍省と軍令部間に軋櫟があったこと、イギリス内部でチャーチル海相とグレー外相間に戦局認識の相違があり、それが日英間の参戦、戦域制限といった問題に影響をもたらしたこと、しかしこのイギリス外務省・海軍省間の相違や混乱、イギリス海軍の戦局の不利が日本海軍に味方し、戦域問題をうやむやのうちに解消させ、日本海軍に念願の南洋諸島占領を実現させる経緯が論じられる。第二章では、日本海軍の南洋諸島占領の背景をなす南進願望と、その推進者秋山軍務局長の動向、南進政策へのイギリス・オーストラリア側の対応、特に後者の対日警戒心がアメリカヘの接近をもたらす事情が明らかにされる。 第三章では、北米沿岸を警備中の巡洋艦浅間がマグダレナ湾で座礁事件を起こしたことが、ドイツにより日米英離反政策をもたらし、移民問題で揺れる日米関係のみならず、日本とメキシコ間、さらにアメリカとメキシコ問の外交関係にまで波紋を投げかけたこと、石井大使が対米交渉で行き詰まると、日本海軍がハワイに巡洋艦を特派し、太平洋航路の警備を受諾する姿勢をランシング国務長官に印象づけ、中国特殊間題の解決に寄与しようとした事実が示される。第四章では、青島攻撃作戦中に生じた日英間の戦後を睨んだ国益争いの実態のほか、中国への武力進出に消極的であった海軍が、二十一か条要求に伴う中国側の反日運動により、居留民保護のため介入していく過程と、逆に日米関係悪化やロシア革命の影響を考慮して、中国海軍の強化と提携を模索する動向が論じられる。 第五章では、海軍が地中海へ巡洋艦一隻、駆逐艦一二隻から成る艦隊を派遣する経緯が明らかにされる。とりわけ、連合軍側から日本の非協力を非難する声が上がったからというよりも、戦後に南洋諸島領有を実現したいとの願望が海軍当局をして艦隊派遣を決意させた実情が示される。他方、陸軍がヨーロッパ派兵に応じなかった最大の理由として、アングロ・サクソン連合に対峙する日独露協定の戦後構想があった事実が提起される。第六章(終章)では、海156紹介と批評軍が今後の戦争を長期戦・総力戦の形態を展望しながらも、結局貧弱な国力に伴う「速戦即決」、「早期決戦」主義に傾斜してしまう事情、また戦後の平和思想や反軍気運の増大に対処するため、徐々に統帥権独立論を固めていく事情、さらに戦後イギリス側から対日批判が噴出し、それが本来親英的な日本海軍を次第に反英・親独へと傾斜させていく事情が論考される。 本書の学問的功績は、軍事の視角そして軍事と外交の「連接」という視角から、第一次世界大戦に関する既成の外交史研究の間隙を埋めたことである。すなわち、著者は、日本海軍が実施した作戦の概要を史料分析をもって明らかにすると同時に、日本海軍がどのような意図をもって国策決定に関与したかといった軍事作戦と外交との重複部分を解明することによって、従来の研究(陸軍と中国、あるいは日英、日米二国間関係に限定されていた)を補完したのである。それは海上自衛官を経て防衛大学校教官というキャリアをもつ著者であるからこそ、可能となった。 それにしても、一つの斬新な切り口からこれほど無数の新事実が流出するものであろうか。日本海軍の南進策にはシーメンス事件で失墜した海軍の威信回復という意図があったことや、日本の南洋諸島占領がオーストラリアをしてアメリカに接近せしめたこと、浅間座礁事件がドイツの日米英離反政策をもたらし、日米、日英関係に影響を及ぽした事実、石井・ランシング協定成立の背後に日本軍艦が貢献した事実、陸軍の対中国武断主義に比して海軍は中国海軍の育成と連携の構想が存在したこと、地中海への艦隊派遣と南洋諸島領有に接点があった諸事実など、瞠目せざるを得ない。総じて、外交史研究の再構築を促す問題提起である。また資料という点が線へ、さらに線が面へと飛躍していく手法が堅実であることにも留意したい。晩学の士とは思えぬ迫力と筆致は見事ですらある。 ただ惜しむらくは、第六章である。第一次大戦を経験した日本海軍が、なぜ長期戦・総力戦を展望しながら「速戦即決」主義へ回帰してしまったのか、なぜ海軍は日英同盟存続への取り組みに不足があったのか、なぜ進歩的海軍がワシントン体制派を主流とせずに三〇年代初頭の統帥権問題へと雪崩現象を起こしたのか、といった論考にいまひとつ説得力が足りないように思われる。この一九二〇年代、三〇年代に関しては、本書に続く著者の重要課題として、今後軍事と外交の連接を一徹究明されることを願ってやまない。157法学研究71巻12号(ヲ98:12)(慶慮義塾大学出版会、 増一九九八年刊)田 弘158
未分類
〔民集未登載最高裁民訴事例研究4〕 所有権確認請求訴訟で敗訴した原告が後訴において共有持分の取得を主張することが前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないとされた事例(最高裁平成9年3月14日第二小法廷判決)
法学研究71巻12号(’98=12)4〔民集未登載最高裁民訴事例研究四〕所有権確認請求訴訟で敗訴した原告が後訴において共有持分の取得を主張することが前訴の確定判決の既判力に抵触して許されないとされた事例最高裁平成九年三月一四日第二小法廷判決(最高裁平五(オ)第九二一号)遺産確認等請求本訴、共有持分権不存在中間確認請求反訴事件、判例時報一六〇〇号八九頁、判例タイムズ九三七号一〇四頁、金融商事判例一〇二〇号二二頁〔事 実〕 Xは訴外・被相続人Aの妻であり、本件原告・被控訴人 ・上告人である。Xは長女であり、原告・被控訴人である。Yは次女であり、被告・控訴人・被上告人である。 本件土地は昭和三〇年に訴外BからYに売買を理由に移転登記がなされたが、Aが昭和三七年に死亡したことから、本件土地の所有をめぐって争いが生じた。昭和四五年にXはYに対して、所有権移転登記請求と所有権確認請求を提起した(これが前訴)。その理由は、「Bから購入したのはXであり、仮にそうでないとしても時効取得した」というものであった。これに対して、Yは「Aが購入してYに贈与したものである」と反論した。昭和五〇年に第一審はXの請求を認容したが、控訴審は昭和六〇年に、「買受はAであるが、Xへの贈与は認められない」として、Xの請求を棄却した。ところで、Yは昭和五一年に自己の所有権があることを理由に、土地の借地人に対して建物収去土地明渡しの訴えを提起したが、これは前訴と併合審理されていた。控訴審はこのYの請求については、「AからYへの贈与は認められない」として、棄却した。Xのみが上告したが、昭和六一年に棄却された。144判例研究 前訴判決確定後の遺産分割調停事件において、Yが本件土地がAの遺産であることを争ったために、平成元年XXはYに対して、①本件土地がAの遺産であることの確認と、②各共有持分権に基づく所有権一部移転登記請求の訴えを提起した。これに対して、Yは自己の所有権を主張するとともに、Xは前訴の既判力により共有持分権の主張は許されないから、①の訴えは不適法であると主張し、さらに③「Xは本件土地の三分の一の共有持分権を有しないこと」の中間確認の反訴を提起した。これが本件事件であり、後訴である。平成三年に第一審はX等の請求を認容し、Yの訴えを却下した。Yは控訴し、③の中間確認の反訴から単純な反訴に変更した。平成四年に控訴審は、①についてはYの主張を退け控訴を棄却した。②については、一審判決 ヱ を取り消してXの請求は棄却し、Xの請求部分は控訴を棄却した。③については認容した。その理由は、「本件土地はAの遺産ではあるが、前訴の既判力によりXは移転登記を請求することは認められない」というものである。 泣が上告し、その理由として「後訴請求は既判力に触れない。既判力に触れるとすると、Xには酷であるし、前訴裁判所に釈明権不行使、審理不尽の責任がある。原判決は理論に偏重し、実務や実情と乖離している。既判力の一般理論を適用すると収拾不可能な事態を招来し、既判力本来の目的に反する」等を挙げた。最高裁は次の理由で上告を棄却したが、福田博裁判官の反対意見と根岸重治裁判長の補足意見が付されている。なおYは①の敗訴に対して上告したが、別の事件として扱われ、以下のような理由で同日 (1)に同法廷で棄却された。「共同相続人甲、乙、丙のうち甲と乙との問において、ある土地につき甲の所有権確認請求を棄却する旨の判決が確定し、右確定判決の既判力により、甲が乙に対して相続による右土地の共有持分の取得を主張し得なくなった場合であっても、甲は右土地につき遺産確認の訴えを提起することができると解するのが相当である。けだし、遺産確認の訴えは、特定の財産が被相続人の遺産に属することを共同相続人全員の間で合一に確定するための訴えであるところ(最高裁昭和五七年(オ)第一八四号同六一年三月二二日第一小法廷判決・民集四〇巻二号三八九頁、最高裁昭和六〇年(オ)第七二七号平成元年三月二八日第三小法廷判決・民集四三巻三号一六七頁参照)、右確定判決は、甲乙間において右土地につき甲の所有権の不存在を既判力をもって確定するにとどまり、甲が相続人の地位を有することや右土地が被相続人の遺産に属することを否定するものではないから、甲は、遺産確認の訴えの原145法学研究71巻12号(’98:12)告適格を失わず、共同相続人全員の間で右土地の遺産帰属性につき合一確定を求める利益を有するというべきである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。」〔判 旨〕 「所有権確認請求訴訟において請求棄却の判決が確定したときは、原告が同訴訟の事実審口頭弁論終結の時点において目的物の所有権を有していない旨の判断につき既判力が生じるから、原告が右時点以前に生じた所有権の一部たる共有持分の取得原因事実を後の訴訟において主張することは、右確定判決の既判力に抵触するものと解される。 これを本件についてみると、前記事実関係によれば、Xは、前訴において、本件土地につき売買及び取得時効による所有権の取得のみを主張し、事実審口頭弁論終結時以前に生じていたAの死亡による相続の事実を主張しないまま、Xの所有権確認請求を棄却する旨の前訴判決が確定したというのであるから、Xが本訴において相続による共有持分の取得を主張することは、前訴判決の既判力に抵触するものであり、前訴においてAの共同相続人であるX、Yの双方が本件土地の所有権の取得を主張して争っていたこと、前訴判決が、双方の所有権取得の主張をいずれも排斥し、本件土地がAの所有である旨判断したこと、前訴判決の確定後にYが本件土地の所有権を主張したため本訴の提起に至ったことなどの事情があるとしても、Xの右主張は許されないものといわざるを得ない。これと同旨の見解に基づき、Xの所有権一部移転登記手続請求を棄却し、Yの反訴請求を認容した原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。」 反対意見は次のようなものである。「訴訟・判決による紛争の解決は、既判力ある判断部分のみによってもたらされるものではなく、既判力を生じない判断部分も含め、判決によって示された判断が全体として紛争解決の機能を果たしていることは…明らかであり、当事者も判決の右のような機能を前提とし、これを期待して、訴訟制度を利用しているものと考えられる」。「〔後訴での主張が許されるか否かを判断するに当たっては〕既判力との抵触の有無だけでなく、当事者が一般的に期待する判決の紛争解決機能に照らし、当該主張が前の訴訟の判決によって解決されたはずの紛争を蒸し返すものか否かという観点からの検討も必要であり、前の訴訟における紛争の態様、当事者の主張及び判決の内容、判決後の当事者の対応及び後の訴訟が提起146判例研究されるに至った経緯等の具体的事情によっては、既判力に抵触しない主張であっても信義則等に照らしてこれを制限すべき場合があり、また、その反面、既判力に抵触する場合であっても例外的にこれを許容すべき場合があり得ると考えられる」。 これに対して補足意見は次のような反論を展開する。「既判力が及ぶ範囲を定めるものは訴訟物の概念であり、どの範囲で訴訟物の同一性を認めるべきかについては種々の議論があるにせよ、訴訟物の同一性がある範囲では既判力が及び、同一性がないものには及ばないと解すべきことについては、ほぼ異論がないところであろう」。「前訴判決の既判力が本訴におけるXの主張に及ぶことも認めながら、既判力に抵触する主張も例外的に許容されることがあるとする反対意見の見解は、民事訴訟制度の根幹にかかわる既判力の本質と相容れないものであって、到底容認することができないのである」。〔評 釈〕 判旨に賛成。前訴の既判力が後訴に及ぶためには、先ず第一に前訴と後訴の訴訟物が同一であることが必要である。訴訟物の同一性の問題は本件では、①所有権確認請求の訴訟物は所有権取得事由ごとに異なるのかという問題と、②所有権と共有持分権とは確認請求では全部・一部の関係であるのかという問題に分けることができる。第二に必要なことは、③既判力の範囲は訴訟物の範囲に一致するという (2V原則を肯定することである。これら①②③のいずれか一つが欠けると、前訴の既判力は後訴に及ばない。それぞれについては諸説が展開しているので、以下ではこれらの問題に関する諸説を念頭において順次考察し、本件判例に賛成する私見の理由を纏めてみようと思う。一 所有権の取得原因と訴訟物 我が国の通説は所有権の取得原因は訴訟物の識別の基準ではないと説いているが、これに対しては事実関係を重視する立場から反対の意見が(3)ある。反対説は、原告に大きな負担である点を問題にしている。すなわち相互に関係のない事実関係である取得原因を、全て一回の訴訟で主張しなければならないというのは原告にとって大きな負担であるという。しかし、原告の負担があるにしても取得原因で訴訟物を区別すると、それを根拠にして訴えが繰り返されるおそれがある。つまり問題は原告の負担と被告の応訴の煩わしさのいずれを重視するかということである。原告の負担といっても、当該権利について考えられる取得原因を全て主張しなければならないわけではなく、自らの権利を主張するに必要な事実の主張147法学研究71巻12号(’98:12)が求められるに過ぎないし、それは自らの支配領域に属するはずであるから、訴訟物の枠は権利の同一性が決めるものとして、取得原因を訴訟物の識別基準から外しても、原告に対して無理な要求ではない。反対に取得原因を訴訟物の識別基準にした場合は、被告の応訴の煩わしさの他に、再訴(後訴)の道を残すことになるから前訴の審理が充実しないおそれがあるし、理由のない再訴が繰り返されるこ (4)とも考えられる。さらに取得原因を訴訟物を決める基準とした場合に、訴訟物理論と一致するのかという理論的な点も問題になる。旧説であれば実体法上の権利を基準とするし、新説であれば法的効果を基準とするから、取得原因という事実関係が訴訟物の識別の基準であるとすることとは調和しない。二 遺産共有持分権と所有権 判例は両者を一部・全部 (5)の関係と理解しているが、学説は多様である。また通常の (6)共有の場合と遺産の場合は区別することも考えられる。この間題は共有や遺産共有の法的性質論と結びついているが、訴訟法的に考えるべき視点は、自己単独の所有権を主張した者に、予備的に(その主張と矛盾して)遺産であるとの主張・立証を要求することの当否である。自己単独の所有を主張している原告に遺産共有の主張を要求することは、原告の負担を加重することではあるが、予め覚悟できないことではない。またそうでないとすると、一で批判した説のように紛争の再燃の方途を残すことになり、その方が問 (7)題である。また遺産共有持分権と所有権が別個の権利であることを根拠に、訴訟物は異なるとした場合、所有権取得原因を訴訟物の識別基準にしないことと調和しないようにも思う。一で述べたように確認訴訟の訴訟物識別の基準は、原則として法的効果が同じであるか否かであり、事実関係や原告の負担は直接の識別基準にならないと考えるからである。 確かに、所有権確認の訴えの原告に遺産共有持分の主張までもしなければならないとするのは、原告にとって負担ではある。しかし、事件をいたずらに後訴に先送りする必要はないから、訴えを提起する以上はそのような負担や事前の準備を原告は覚悟する必要があるし、訴訟の展開に応じて必要な主張をすることも原告に求められるべきである。もちろん、裁判所の積極的な釈明があってもよいし、当事者が気がついていない場合は裁判所が示唆することも必要であろう。そもそも相続人が互いに自己の単独の所有権を主張している場合に、当事者に示唆することなく裁判所が一方的に遺産であるとの判断をした場合、いわゆる不意打148判例研究ちになるから、裁判所の判断は違法であると解することも (8)可能である。問題は既判力の遮断効で処理したり救済することではなく、当該訴訟において釈明義務違反なり、弁論主義違反なりで考えるべきである。もちろん、本件のような場合に限定して、共有持分権の主張は既判力によって遮断されないとの立論も可能ではあるが、抽象的には区別が可能であっても、事前に具体的に区別できないのであるから、そのようなことで判決の効力を左右させることには賛 (9)成できない。あるいは本件のような場合は、申立てを単独所有権確認請求に制限した場合であり、制限の外にある共 (10)有持分権には既判力は及ばないとの見解がある。しかし、そのような分断を当事者に認めるのがよいのかが問題であるし、仮に制限することを当事者に認めたとしても、裁判所や相手方にも分かるように、原告の制限する意思は明確に表明されるべきであろう。三 既判力の客観的範囲と訴訟物の範囲 両者は一致すべきであるという点はかつては異論がなかった。しかし、争点効理論の進展により判決理由中の判断に拘束力を肯定する見解が有力になるにつれて、既判力と訴訟物の関係についても疑問が呈示されるようになった。既判力の拘束力の淵源(遮断効、失権効の根拠)を手続保障に求め、既判力の範囲を手続保障や提出責任の有無で考える説が有力になってきたが、この説によれば、既判力の範囲は訴訟物に拘束される必然性はなくなる。かくして既判力と訴訟物の関係は全くないのか、あるとした場合それはどのような関係なのかが争われ、現在、学界は判決理由中の判断の効力を含めた判決効と訴訟物の関係について模索している状態 (n)にあると思う。 反対意見と補足意見の対立は正にこのような学界の状況 (12)を反映しているように思う。既判力の範囲について訴訟物を重視すると、その内容が形式的で空虚な場合がありうるが、訴訟物との関係を切断すると、訴訟物に代わる指標を呈示できるのかが問題になる。既判力の範囲は当事者にとって重要であるだけに範囲を示す指標は明快であることと、実用的であることが要求されるが、訴訟物に代わるべきものが十分に明らかにされていない現状では、訴訟物を基準に考えるしかない。そうなると、既判力の範囲は形式的になるとの批判はあろうが、それは審理を充実させることによって克服することは可能である。これに対して、訴訟物に代わる明確な指標がないままに既判力の範囲が決められるならば、類似の事件が同じように処理される保障がなく、それは正に衡平を欠く点で間題である。このような理由か149法学研究71巻12号(’98:12)ら訴訟物を重視し、既判力は訴訟物の範囲と一致するという原則は堅持すべきものと考える。 本件の反対意見は、既判力は訴訟物に拘束されないで他の要因を考慮して決めるべしとの意見であるが、間題は何をどのように考慮するのかが問題である。その指標は判例の集積を待つというのであれば、既判力の範囲の基準は透明性に欠けるし、裁判所の判断が恣意的にならないとの保障はない。また本件は事案の経緯からして、訴訟物の範囲内であっても既判力が及ばない例外の事例として考えるべ (13)しとの意見がある。確かに、具体的な解決方法としては妥当な考えかもしれない。しかし、その例外をどのように要件化したり、一般化できるのだろうか。それが提示できなければ、問題が残る。それならば信義則で一般化できるか。しかし、いかなる点が信義に反したのかが問題になる。Yが前訴の判決理由の判断に従わない点が問題になるのかもしれないが、法的に非難されるかは疑問であるし、そもそも非難されるべきは、単独所有の主張に固執して不十分な (14)権利主張を展開した原告ではないかと思う。 これら諸説が指摘するように、本件の前訴の審理は不適切であった。しかし、そうであるにしても、それを既判力で調整するのは問題である。不適切な審理は前訴において是正されるべきであって、先送りして後訴の問題とすべきではない。安易な準備のもとに訴えが提起され、既判力が及ばないことを理由に訴えが繰り返されることは避けなければならない。四 関連する重要な問題 本件で既判力を肯定してXの共有持分権を否定した場合、二つの重要な問題が生じる。第一はXの遺産確認の訴えの原告適格の間題であり、第二は今後の遺産分割の方法の問題である。既判力を否定すると、このような問題は生じないから、否定説の諸説はこのような関連した訴訟や事後的な問題をも考慮した説ということもできるし、これらの説は既判力否定の結論が先行し (15}たということもできる。確かに否定説はこれらの間題に対して単純明快で優れているが、しかし、肯定説は次のように考えれば済むことであり、否定説に比べて劣っていることにならない。 第一の遺産確認の訴えのXの原告適格の問題については、この訴えが共有者の固有必要的共同訴訟であることが求められていることと、前訴の既判力を肯定するとXは相続人ではあるが共有者でないという点をどのように考えるかと (16) 1いうことである。Xが共有者でないことを理由に原告適格を否定することは、XはYに対して共有者でないにしても、150判例研究 ユXに対しては共有者であるから妥当でない。あるいはXを被告とするとの説も考えられる。しかし、本件ではXとY とが争いXXが共同していることを考えると、紛争の実態に相応しない。このようなことを考えると、Xの原告適格 (17)を肯定すべきであるが、問題はその理由つけであり適格肯定の基準である。この訴えが機能を発揮するためには、本件のような場合でも関係者全員をこの訴訟に取り込むべきであり、そうであるならば、適格は共有権が残存している限り肯定されるべきである。仮に全部喪失している場合であっても、相続人であったということで肯定してよいと考える。 第二の具体的な遺産の分割方法の問題については、XがYとの関係で共有持分権を有していないことが既判力で確定していることを、遺産分割においてどのように考慮するかという問題である。判決がある以上、その判断は無視できない。しかし、判決が確定したのはYとの関係でのXの持分権の否定であるから、Xの持分が全てYのものという ユ わけではない。そうなると、本来のXの持分相当分をXYで半分にしたと想定して、半分はX、他の半分はYに認め (18)るという方法が、穏当であり妥当な解決方法のように思う。 なお研究会では正にこれらの点が議論になり、遺産確認の訴えの認容と共有持分権の不存在確認は矛盾するのではないか、既判力を認めることによってこの事件は本当に解決できるのか、既判力の肯定説の遺産分割方法は根拠があるとは思えないといった批判的な意見が述べられた。また判例の反対意見は既判力を肯定して信義則で否定するように述べているが、そもそも既判力が生じないというべきではないだろうかという意見もあった。(1) 最高裁平五(オ)第九二〇号事件であり、これに対す る最高裁の判断は、本判決を掲載している雑誌に本判決と並んで掲載されている。そのこともあって高見進・私法判例リマークス一六号二二五頁以下(平一〇)、上田徹一郎 ・民商法雑誌二七巻六号九九頁以下(平}○)は、両判決を取り上げて研究している。高橋宏志「既判力補論」法 学教室二〇九号八二頁以下(平一〇)は本判決に力点を置 いているが、この判決についても分析している。越山和広 「必要的共同訴訟と既判力」民訴法判例百選H〔新法補正 版〕四四五頁(平〕O)は、両判決について簡単なコメン トを述べている。 原審判決は東京高判平成四年一二月一七日判時一四五三号一三二頁であるが、判例研究等としては中山幸二・法学 セミナー四六八号六四頁(平五)、奈良次郎・私法判例リ マークス八号一四四頁(平六)、徳田和幸・判例評論四二151法学研究71巻12号(’98:12)O号三一頁以下(平六)、仙波英躬・判例タイムズ八五二号一二二頁以下(平六)がある。なお大津卓也「所有権取得原因事実の主張は攻撃防御方法か」判例タイムズ八八七号四頁以下(平七)は論説であるが、原審判決を取り上げ自説を展開したものである。(2) 小山昇『判決効の研究』著作集二巻九頁(平二、初出 は昭四〇)。なお本件の結論の妥当性(座りの良さ)を導 くために、後訴の提起を認める(既判力の遮断効を働かせ ない)とする見解が、種々の観点から主張されている。徳 田・前掲注(1)三四頁は共有持分権の観点から、上田・前掲注(1)一〇五頁以下は申立事項の観点から、高見・前掲注(1)二二七頁以下は既判力の範囲と訴訟物の観点 から、それぞれ考察し、後訴を適法とする説を明らかにし ている。高橋・前掲注(1)八二頁以下はこのような試み と判例の問題点を総合的に判断し、判例に賛成している。(3) 木川統一郎『民事訴訟政策序説』三二一頁以下(昭四 三、初出は昭一一二)。大津・前掲注(1)八頁以下。なお ドイツの状況については、》ヨミい穿ρN勺勾9>⊆⇔ (一〇濾)曽㈱置(ψ一曽)旧』きR旨ゆ堕N℃勾曽’》⊆中(一〇〇〇。yo。刈自G。(ω」畠)等で述べられている。すなわち前者は事実関係を訴訟物の識別基準とすることを、,後者はそうでな いことを主張しているが、それぞれ自説と同趣旨の見解と 反対する説とを引用している。(4) 高橋・前掲注(1)八四頁は、紛争解決の一回性を理由に反対説を批判する。(5) 所有権と共有権に関する判例・学説の状況については、徳田・前掲注(1)三四頁、高見・前掲注(1)二二六頁 が詳論している。(6)徳田・前掲注(1)三四頁は、本判決が支持した原審 の判例研究であるが、原判決のいわゆる座りの悪さをこの ような観点から直すべきことを示唆している。(7) 高見.前掲注(1)】三七頁は、同様な趣旨から、こ の点の議論については本判決に賛成している。(8)徳田・前掲注(1)三四頁は、裁判所はXに相続の事実を主張する機会を与えるべきであったと指摘し、高橋・前掲注(1)八六頁注4は前訴の高裁の判断について、釈 明義務違反による破棄差戻しの可能性を詳論する。(9) 高橋・前掲注(1)八七頁以下は可能性を詳細に分析 し、否定的な結論を論証する。すなわち本件のような場合 を含めて、共有関係の主張を遮断しない方法を挙げ、それ ぞれ訴訟法的視点から難点があることを詳論する。(10) 上田・前掲注(1)一〇五頁以下が詳論するところで あるが、本件のような単独所有権確認訴訟の申立ては、通常は遺産の一部認容は求めない趣旨と解すべきであるとも 述べている。そしてそれを根拠に遺産共有持分権の主張は 既判力で遮断されないことを強調する。152判例研究(11) 学説の状況については、近く公刊される拙稿「既判力 の客観的範囲」『民事訴訟法の争点﹇第三版﹈』に譲る。本件はいわゆる既判力の縮小の問題であるが、これについて は高橋・前掲注(1)八四頁以下、同『注釈民訴法@』三 一六頁以下〔鈴木正裕目青山善充編〕(平九)等に詳しい。(12)補足意見は、既判力の範囲と訴訟物が一致すべきこと について「ほぼ異論がないところであろう」と述べている が、現在の状況は必ずしもそうではない(前掲注(n)で挙げた拙稿参照)。なお多数意見と少数意見は三対一であ ったが、この数字と担当裁判官の経歴に興味を覚える。少数意見の福田裁判官は外交官出身である。補足意見の根岸裁判長は検察官出身であり、多数意見を構成した大西勝也 裁判官は裁判官出身、河合伸一裁判官は弁護士出身である。(13) 高見・前掲注(1)二二七頁は、原告に共有持分権を 予備的に主張させることは酷であることを理由に、本判決 に反対し、反対意見に賛成する。なお越山・前掲注(1) 四四五頁は本件について、「当事者の訴訟内外の争い方の態様にまで目配りして既判力の範囲を縮小することの必要性を痛感させる」と述べているが、これは反対意見に賛成 という趣旨と思われる。(14) 判決効と信義則論については、拙著『民事訴訟法にお ける既判力の研究』二三五頁以下(平五)に譲る。(15)越山・前掲注(1)四四五頁は、「Xが前訴の既判力に かかわらず相続による共有持分権を主張できると解すれば、疑問のほとんどは解消する」と指摘する。(16) 遺産確認の訴えの当事者適格についての判例・学説の状況や問題点については、徳田・前掲注(1)三二頁以下、奈良・前掲注(1)一四五頁以下が詳論している。(17)高橋・前掲注(1)八四頁注2はこのような考察から、本件判例に賛成の理由を述べている。私見はこれに基づく。(18) 高橋・前掲注(1)八七頁が詳論している。 (平成一〇年四月三〇日稿) 坂原 正夫〔追記〕 脱稿後に注(n)で述べた拙稿が公刊された。したがって注(11)、注(12)の拙稿の頁数は二三四頁以下ということになる。また校正時までに気がついた本判決に関する論考としては、次のようなものがある。それぞれの指摘や主張は、機会を得て考察しなければならないと思っている。論説は山本和彦「法律問題指摘義務違反による既判力の縮小ー最判平成九年三月一四日(判夕九三七号一〇四頁)を手掛かりとしてー」判例タイムズ九六八号七八頁以下(平一〇)であり、判例解説は村松和徳・受験新法四七巻二一号一八八頁以下(平九)、池田辰夫・ジュリスト一=二五号 二三頁以下(平】O)、後藤勇・判例タイムズ九七八号一七八頁以下(平一〇)である。153法学研究71巻12号(’98:12) なお本研究で論じた訴訟物と既判力の客観的範囲の問題については、今日では議論が錯綜しており、判例・学説の状況の認識とその分析が重要である。校正時までに公刊された文献としては(前記拙稿や新法の体系書・教科書類は除く)、大村雅彦「既判力の客観的範囲」鈴木重勝11上田徹一郎編『基本問題セミナー民事訴訟法』三一二頁以下(平一〇)、山本克己「訴訟物論争の回顧と現状」民事訴訟法の争点﹇第三版﹈二一三頁以下(平一〇)、三木浩一「訴訟物概念の機能」同上ご二四頁以下、原強「判決理由中の判断の拘束力」同上二三八頁以下等がある。本来ならば本判例研究において、前記の新しい判例研究と同様に、これらを参照し、私見の立場から意見を述べなければならないが、ここでは無理なので今後の課題としたい。154
未分類
〔商法386〕 有限会社の原始社員の確定(高松高裁平成8年5月30日判決)
〔商法 三八六〕 有限会社の原始社員の確定(鱗講藁鍵難嚢雛饗肚芝判例研究〔判決要旨〕 個人で小料理屋や喫茶店を経営していた者が、従前の建物を取壊してビルを新築しそこにおいて法人組織で飲食店や喫茶店を経営するために有限会社を設立するに際し、右経営者が出資金を全額出揖していたとしても、定款に右経営者を含む六名の社員の氏名及び住所並びにその出資の口数が記載され記名捺印がされたこと、右有限会社設立の経緯、右経営者と他の社員との関係など判示の事実関係の下においては、右経営者が他の社員の出資金を当該社員に贈与したものと認めるのが相当であり、原始社員であるというべきである。〔参照条文〕 有限会社法六条、条、同五四九条右定款記載の社員が同一二条一項、同八七条、民法四七四〔事実の概要〕訴外Aは高知市帯屋町等で土地建物を所有していた。A131法学研究71巻12号(’98:12)は昭和三八年ころから、その帯屋町の土地に隣接する土地上の建物を賃借した上、この賃借建物と右の帯屋町の土地に在った建物で小料理屋や喫茶店などを経営していたが、昭和五一、二年ころ、娘Bの夫の被告・被控訴人であるYから勧められ、それまでの個人企業を法人成りさせ、右賃借建物敷地を買い受けた上、右建物を取り壊して、鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付五階建のビル一棟(以下「本件ビル」という。)を建築し、本件ビルにおいて法人組織で飲食店や喫茶店等を営むことを企画した。 Aは、昭和五二年八月二七日、被控訴人有限会社暖流(出資一口の金額一万円、資本の総額二〇〇万円。以下「Y有限会社」(被告、被控訴人)という。)を設立し、同年九月一日、訴外株式会社Cに本件ビルの建築を代金四〇二四万円で注文し、本件ビルにつき、昭和五三年六月二四日、所有者をAとする区分建物表示を登記申請し、その後、所有者をY有限会社と更正し、同年七月二九日、Y有限会社の所有権保存登記を経由した。 Y有限会社を設立するに際して、Aは、YやYの実兄で ウの あるYと相談の上、Y有限会社の社員をA(五〇口)、Y (六〇口)、Aの娘でYの妻であったB(六〇口)、Y(一 ○口)、Aの内縁の妻であったY(一〇口)、Aのいとこの子で税理士事務所に勤務していてAの帳簿の面倒をみて きたY(一〇口)の六人にすることにした。そのAの意向を受けて、昭和五二年八月一五日、タイプライターで作成 されたY有限会社の原始定款のA、Y、B、Y、Y、Yの各名下に、右各人の印章が押捺された。 Aは平成五年四月二日に死亡したが、原告・控訴人Xは、Aが昭和六三年一二月二七日付作成の公正証書遺言により、Aの包括受遺者の地位にある。 その他、Y有限会社における出資者名義とその所有口数は変動を重ね、Aの死亡前ころの出資者名義は、X、B、A、Y有限会社を除くYら七名であり、その所有口数はいずれも二〇口であった。右各二〇口のうち、XがB、A分を含む六〇口を有することはYらも認めるところである。 そこで、Xは、Aが関与して設立したY有限会社の出資金はAが全額出資し、その建築資金は、すべてA名義の不動産を担保として金融機関から借り受けて充当しているから、AはY有限会社の社員権を実質的に所有しており、当初からYらの名義を借り受け、その後も、Y有限会社の決算報告に当たり、税金対策上、同族会社の判定回避のため、Yらの名義を借用して形式的に定款を変更して、その出資口数を変動させたりしたが、実体的な権利の変動はなかっ132判例研究たものである、と主張し、Y有限会社の社員持分権はすべてAの相続財産であるとして、Y有限会社及び他の社員持分権者に対して、自己所有の持分であることの確認を求めた。 Xの主張に対して、原審は、次のように判示した。 「AがY有限会社を設立した目的の主要が、法人を設立して関係者を多数にしていれば、一人の意思で売却されることはないと考えたことにあるが、その意図の裏には単に名義を借りるという以上のものが含まれていると考えるのが自然であること、Y有限会社の設立のころの、AとY、 ヨ B、Y、Y、Yとの関係においては、Y有限会社の社員権を無償譲渡(贈与)しても不思議な関係ではないうえ、設立に協力したYに六〇口、その妻Bにも六〇口と自己よりも多く割り当て、その他の関係者には各一〇口として、将来の展望を描いており、これが単に名義を借りたものとみ ヨ しることは不自然であること、少なくとも、Y、Y、Yは、Aの意図を了解し、Aから贈与を受けたものと理解していたなどからすると、AはY有限会社設立の当初において、その出資者とされる者に対して社員権を無償で譲渡し、少 ヨ なくとも、Y、Y、Yはこれを承諾していたものというべきである。 当初のYに関する持分についてAの所有であるとの証拠はなく、当初のA(五〇口)及びB(六〇口)に関する部分は、一応Aの持分と言えても、その後の持分の変遷はAの意思によってなされているのであって、Aがその死亡当時になお六〇口以上の持分を有していたとの証拠もない。 被告会社の設立当初からAが全社員権を有していたとするXの主張は失当であるうえ、Aがその死亡当時に六〇口を越える持分を有していたとの証拠もないから、Yらが認めるところの六〇口についてのみ請求を認容し、その余は失当として棄却する。」 これに対して、Xは、社員持分権はすべてAの相続財産であるとして、Y有限会社及び社員持分権者であると主張するその余のYら七名に対して、Y有限会社の持分の二〇〇口のうち、Xに帰属する六〇口を除いたその余の一四〇口の持分が自己の所有であることの確認を求めて控訴した。〔判旨〕 控訴棄却 「有限会社法六条・八七条によれば、有限会社の原始社員となるためには、定款の社員の氏名及び住所並びに各社員の出資の口数が記載され、その者が定款に署名又は記名捺印することを要し、それにより、有限会社の社員となる133法学研究71巻12号(’98:12)者及びその出資義務が確定するのであり、出資義務の履行が当該社員によってなされることは、有限会社の社員の確定の主要事実(要件事実)ではなく、当該社員以外の者によって出資義務の履行がなされることは、民法四七四条の第三者の弁済として有効である。これを本件についてみると、前記事実関係の下においては、AはY有限会社の持分五〇口を有する社員となったにすぎない(他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した。)と認めるのを相当とする(平成二年法律六四号による削除前の有限会社法六九条一項五号においては、社員が一人となることが有限会社の解散事由と定めれれていたのであり、この点に照らしても、控訴人が主張するように、Y有限会社の原始社員がA】人であったとみることは難しい。)。 なお、〈証拠〉を総合すれば、Y有限会社の設立後A死亡までの間における社員及びその持分の変動は、いずれもAが決定していたことが認められるが、前示のとおり、他の社員の出資金をAが当該社員に贈与していた(なお、…Aは他の社員の出資金のほか、Y有限会社の開業資金を出したことを推認することができる。)ことから、他の社員は、Aの決めることに反対することができず、承認してきたものと考えられるから、右の事実は、前記認定判断を妨げるものにはならない。」〔研究〕 判旨賛成一 個人営業が法人成りして有限会社が設立される場合には、原始定款上は数人の者が社員になっているが、そのうちの一名である従前の個人営業者が出資金を全額出資しており、後になって、右個人営業者が死亡した場合には、その他の社員は単なる名義人であるとして争われることが少なくない。本件においても、Aの死亡後、Aの包括受遺者の地位にあるXが、Aが関与して設立されたY有限会社はAの全額出損による有限会社であり、その社員持分権はすべてAの相続財産であるとして、Y有限会社およびYら七名に対して、Y有限会社の持分二〇〇口のうち、Xに帰属することについて当事者間に争いのない六〇口を除いた一四〇口の持分が、自己の所有であることについての確認を求めている。それ故に、本件の主要な争点は、Y有限社員の社員はAだけであり、Aの死亡により、その包括受遺者の地位にあるXがY有限会社の持分二〇〇口全部を有しているのか否かという点に存在する。この問題を解決するためには、その前提として、有限会社の原始社員の確定方法について検討しておかなければならない。134判例研究二 有限会社の原始社員の確定に関して、福岡高裁宮崎支部昭和六〇年一〇月三一日判決(判例タイムズ五九一号七三頁)は、「有限会社における社員は、社団設立行為として入社契約(合同行為)たる性質を有する会社設立の意思表示をなす者であるが、それは要式行為として、原始定款に署名(または記名押印-有限会社法八七条)することを要し、その署名者のみが社員となるのであって、たとえ事実上会社の設立に参画し、出資金を拠出した者といえどもこれに署名しない者は法律上有限会社の社員とはいうことができず(大判昭和三・八・三一民集七巻七一四頁など参照)、定款の確定によって同時に社員及びその出資義務も確定するべきである。(中略)そもそも控訴人会社主張のようにたとえBが全額出資し、出資者が同人のみであるとしても、定款にその旨を記載し、署名しない以上、同人が定款に記載し、署名した一五〇口の社員であることが確定し、法律上、同人がこれ以外の出資口数の原始社員であるとはいえないものである」と判示している。要するに、福岡高裁宮崎支部判決によれば、有限会社の原始社員は有限会社設立の意思表示をなす者であるから、原始社員は定款に署名した者をもって確定し、その出資口数も、実際の出資の有無に関係なく、定款の記載によって形式的に確定するものと考えている。この福岡高裁宮崎支部判決は、有限会社の原始社員の確定に関する最初の判示として重要な判決である(福岡高裁宮崎支部判決の紹介として、瀬谷ゆり子「有限会社の原始社員とその確定」税経通信四一巻一三号二五二頁以下)。 本判決は、有限会社の原始社員の確定に関して、「有限会社法六条・八七条によれば、有限社員の原始社員となるためには、定款の社員の氏名及び住所並びに各社員の出資の口数が記載され、その者が定款に署名又は記名捺印することを要し、それにより、有限社員になる者及びその出資義務が確定される」と判示して、本判決は結論的に前記福岡高裁宮崎支部判決と同様な見解を採用していると言える。 有限会社の設立は原始社員になるべき者全員によって行われるから、有限会社を設立するためには、まず初めに、原始社員になるべき者によって定款が作成されなければならない(有限会社法五条)。有限会社では、原始社員になるべき者の氏名・住所およびその出資口数が定款の絶対的記載事項であり、原始社員になるべき者が定款に署名すべきものとされているから(有限会社法六条)、定款の作成によって原始社員になるべき者が確定するとともに、その出資義務も確定する。定款作成と出資の引受行為とが結合135法学研究71巻12号(ヲ98:12)している点が有限会社の定款の一つの特色であると言うことができよう(田中誠二・会社法詳論下巻(三全訂)二二〇四頁、中西正明・新版注釈会社法(14)有限会社三八頁)。 有限会社の原始定款に署名した者をもって原始社員として形式的に確定することについての理由として、一般に次のような点が挙げられる。すなわち、有限会社の設立における社員の責任が間題となった場合に、定款の記載は、義務負担者としての社員を特定するばかりでなく、権利行使者としての社員が問題となった場合のためにも有益である、という点である(瀬谷・前掲二五四頁)。しかし、有限会社の原始社員を原始定款に署名した者をもって形式的に確定することに対しては、その実質的な理由として、有限会社の原始定款を作成した者は有限会社設立の意思表示及び出資引受をなす者であるという点が見逃されてはならない。すなわち、原始社員になるべき者による定款作成に始まり、設立登記によって完了する有限会社の設立手続を全体として一個の法律行為として観察する場合には、有限会社設立の意思表示は原始定款の作成に見い出すことができる(大賀祥充・株式会社設立の法理二九頁、三一頁、四三頁、六一頁)。しかも、有限会社においては、原始定款の作成により、署名者は、他方において、原始定款に記載された出資口数に対応する出資引受をなしている。この点について、前記福岡高裁宮崎支部判決は「有限会社における社員は、社団設立行為としての入社契約(合同行為)たる性質を有する会社設立の意思表示をなす者である」と判示して、有限会社の原始社員を形式的に確定することに対しての実質的な根拠を述べているが、本判決では、その根拠が何も示されていない。推測するに、本判決では、有限会社の原始社員になるべき者の原始定款への署名に関して、意思の欠敏や蝦疵ある意思表示が問題とされなかったために、有限会社の設立行為の効力に関連して、有限会社設立行為の法的性質について言及する必要がなかったのかもしれない。しかし、有限会社の原始定款の作成は有限会社の成立・法人格の取得という法律効果を意欲する意思表示であり、有限会社の設立手続はこの意思表示を組成分子とする法律行為であるから、有限会社の設立手続は有限会社の成立・法人格取得という法律効果の発生原因たる法律要件である(津田利治・横槍民法総論(法人ノ部)二九頁)。有限会社の原始定款に署名した者は、原始定款の作成により、有限会社設立の意思表示をなすと同時に、原始定款に記載された出資口数に対応する出資引受をなす者であるが故に、こ136判例研究の者をもって有限会社の原始社員として形式的に確定し、その出資義務を原始定款に記載された出資口数に従って形式的に確定することに対しては、法律上実質的な理由が存在していると言わなければならない。三 有限会社の原始定款が確定するためには、原始社員になるべき者の原始定款への署名が実質的に有効でなければならない。そこで、①意思の欠鉄や暇疵ある意思表示に基づいてなされた原始定款への署名や、②有限会社を設立しようとする者に依頼されて、その社員になる意思もなく、名義を貸与する意思で原始定款に署名する、いわゆる名義社員の署名が問題となる。この点について、本判決は「平成二年法律六四号による削除前の有限会社法六九条一項五号においては、社員が一人となることが有限会社の解散事由と定められていたのであり、この点に照らしても、Xが主張するように、Y有限会社の原始社員がA一人であったとみることは難しい」と判示して、本件では、前記①意思の欠鋏や暇疵ある意思表示に基づく署名も、前記②名義社員の署名も問題とならないとしている。しかし、有限会社の設立手続を全体として一個の法律行為として理解する私見の立場からも、有限会社の設立行為の効力に関連して理論的に興味深い問題であるので、若干の検討を必要とする。本稿では、これらの問題のうちでも、とりわけ、有限会社の原始定款への署名に前記①意思の欠鉄や暇疵ある意思表示が存在する場合について検討してみたい。 有限会社の原始社員になるべき者による原始定款の作成に始まり、設立登記によって完了する有限会社の設立手続を全体として一個の法律行為(有限会社設立行為)として理解する場合には、有限会社設立の意思表示はその原始社員になるべき者による原始定款の作成に見い出すことができる。そして、有限会社の設立手続が完了する場合には、その効果として、有限会社の成立・法人格の取得という法律効果が発生する。このように会社設立行為は、会社という新たな権利主体を創設すること(会社の成立・法人格の取得)を目的とする法律行為であり(鳩山秀夫・日本民法総論一六二頁、野津務「会社設立行為と入社行為」松本古稀・会社法の諸問題一六八頁)、そして、会社設立行為の法的型態を「合同行為」として理解するのが我が国の多数説である(鳩山・前掲一六二頁、我妻榮・新訂民法総則一四七頁、大隅健一郎・今井宏・会社法論上巻(第三版)三六頁以下、大森忠夫「会社の設立」株式会社法講座第一巻一四八頁、津田利治「設立無効」株式会社法講座第一巻三一九頁、野津・前掲「会社設立行為と入社行為」一六八頁、137法学研究71巻12号(’98:12)同・株式会社設立論九二頁、大賀・前掲六二頁)。 これに対して、有限会社の原始定款においてなされる出資引受は、有限会社設立という一個の法律行為の一部をなすものであるが、出資引受は有限会社設立の意思表示を含んでおらず、有限会社の原始定款に署名した者が当事者となり、有限会社の成立を理論的な前提として、一定の出資金額を支払う義務を負担し、これに対応する有限会社の社員権(持分)を取得することを目的とする要式の契約である。この契約の効果として、署名者は出資義務を負担するとともに、設立される有限会社の社員権(持分)を取得する債権を取得するのであり(株式引受に関して、倉澤康一郎・商法の基礎(三訂版)九三頁)、その結果、有限会社の原始定款に署名した者相互間に出資に関する一定の法律関係が基礎づけられる(大賀・前掲六〇頁)。出資引受は設立される有限会社の社員権(持分)を取得することを目的とする行為であるから、出資引受は言わば将来の有限会社への入社行為として位置づけることができよう。 右に述べたように、有限会社の原始定款の作成は、一方では、有限会社設立の意思表示であり、他方では、出資引受であるが、両者はその概念およびその性質を異にするものであるから、両者は明確に区別して理解されなければならない(同旨、野津・前掲「会社設立行為と入社行為」一七一頁、同・前掲・株式会社設立論三一四頁)。 有限会社の成立・法人格の取得という法律効果の発生原因である有限会社の設立行為の法的型態を「合同行為」として理解する場合には、有限会社の原始定款に署名した者が一個の当事者となり、主観的にも客観的にも同一の意味内容の相手方のない意思表示を共同して各自がなすことになる(津田・前掲・横槍民法総論三四頁)。すなわち、会社設立行為の法的型態は「合同行為」であり、表意者の意思表示には相手方が存在しておらず、並行する一方的意思表示の集合であり、表意者相互間に相手方関係もなく、利益の衝突も考えられないから(國歳胤臣「人的会社の設立(一)」民商法雑誌六巻五号前掲六八頁)、有限会社設立の意思表示には民法九三条但書、民法九四条一項、民法一〇〇条但書、民法一〇八条などの規定は適用されない(合資会社に関する判例として、大判昭七年四月一九日民集一一巻八三七頁)。その結果、原始定款に署名した者のうちの一人の有限会社設立の意思表示について意思の欠訣や暇疵ある意思表示が間題になった場合にも、当該意思表示だけが無効となり、あるいは当該意思表示だけが取り消されるにすぎないから、合同行為の効力はそれによって影響を受138判例研究けない(我妻・前掲一四七頁)。会社設立行為の法的型態を「合同行為」として理解することの実益は、設立者の主観的な事情から会社設立行為の効果を独立させることができる、という点に存在する(國歳・前掲六七頁)。右に述べたような「合同行為」としての有限会社の設立行為の法的型態の理解を前提とするならば、原始定款に署名した者全員の有限会社設立の意思表示について意思の欠敏や蝦疵ある意思表示が問題とならない限り、有限会社の設立無効の問題や設立取消の問題は生じないと言うべきである。 有限会社においては、原始定款の作成により、署名者は同時に出資引受も行っているから、原始定款へ署名した者について意思の欠敏や暇疵ある意思表示が存在する場合には、当該署名者の出資引受の無効あるいはその取消が間題となる。有限会社法では、出資引受の無効の主張やその取消の主張を制限する規定が存在しないために、有限会社の設立登記後でも、当該署名者は出資引受の無効を主張し、あるいは出資引受を取り消すことができる。その結果、当該署名者の入社行為だけが無効となるので、この者だけが成立した有限会社から脱退するにすぎない。このように原始定款に署名した者による出資引受の無効・取消が問題となり、有限会社の設立登記後において、当該署名者(社員)が有限会社から脱退した場合でも、平成二年の商法改正により設立当初からの一人会社を認めた現行有限会社法のもとでは、成立した有限会社に社員が一人でも存在しており、有限会社の成立・法人格の取得という法律効果の発生のために必要なその他の法定要件の欠訣を招来しない限り、出資引受の無効・取消は必ずしも有限会社の設立無効原因になるとは限らないと言うべきである(同旨、野津・前掲「会社設立行為と入社行為」一八二頁、同・前掲・株式会社設立論三一五頁)。 有限会社の設立行為の法的構造を右に説明したようなものとして理解する場合には、有限会社の設立無効原因と設立取消原因とを解釈上制限することができ、その結果、有限会社の設立をめぐる法律関係を安定化させることが可能になる。四 さらに、本判決は「出資義務の履行が当該社員によってなされることは、有限会社の社員の確定の主要事実(要件事実)ではなく、当該社員以外のものによって出資義務の履行がなされることは、民法四七四条の第三者弁済として有効である」と判示しており、AはY有限会社の持分を五〇口有する社員であり、Aは他の社員に出資金を贈与したものと認定している。有限会社法には、出資を払込まな139法学研究71巻12号(798:12)い原始社員に対する失権手続に関しての規定が存在しないために、この者が有限会社の原始定款において有効に出資引受を行っている限り、実際に出資の払込をなさなかったとしても、この者は原始社員としての地位を失うことはないのである。それ故に、本判決が、出資義務の履行が当該社員自身によってなされることは、有限会社の原始社員の確定とは関係ないと述べている点は、まさに有限会社の原始社員が原始定款への署名によって確定することの理論的帰結であると言えよう。さらに、本判決は、有限会社の出資金を全額出資した社員とその他の社員との間の法律関係について、前記福岡高裁宮崎支部判決よりも踏み込んだ法的判断を行っており、この点にも本判決の意義が存在すると評価することができる。 第三者の弁済とは、債務者以外の者(第三者)が他人(債務者)の債務を弁済することをいう(奥田昌道・注釈民法(12)債権(3)五七頁)。第三者の弁済の場合には、第三者が彼の給付の目的として他人の債務の履行を決定し、給付が他人の債務の履行として受領されることが必要である(=Rヨmロ昌≦鉱ヨ9羅き望①い虫ω9口磯」員男8富9ユ津凄『国ヨの件<o昌○器ヨヨ震①び↓山ぴぎ験㊦昌一Soo)oD.Nミ“軍おo閤お炉冨ぼ百』3α霧≧蒔①目①ヨ①昌ω9三身g窪ρζ言9雪一旨Pψ&ω。)。我が民法は、債権者及び債務者の立場を考慮して、第三者の弁済に関して、次のような制限を認めている。すなわち、①債務の性質による制限(民法四七四条一項但書前段)、②反対の意思表示による制限(民法四七四条一項但書後段)、③利害関係のない第三者は債務者の意思に反して弁済することができない、という制限(民法四七四条二項)である。本件では、Yらに代わって、Aがその出資義務を弁済しているので、第三者Aによる他の社員の出資義務の弁済の可否が問題となる。 まず初めに、前記①「債務の性質による制限」であるが、第三者による出資義務の弁済に関しては、この制限は問題にならない。というのは、出資義務の法的性質は、その出資額が定款に記載された出資一口の金額にその者の出資口数を掛けた金額(出資金額H出資一口の金額×出資口数)の支払を目的とする一種の金銭債務であり、それは一身専属的給付を目的とするものではないからである。続いて、前記②「反対の意思表示による制限」についてであるが、有限会社法一五条は、出資未払の場合に、有限会社成立時の社員と取締役は連帯して払込給付担保義務を負う旨を規定しているから、有限会社成立時の社員と取締役がその他の社員に代わって出資義務を弁済する場合には、前記②の140判例研究制限は問題にならないであろう。なぜならば、前記②の制限は利害関係のある第三者の弁済を許さないものであり(我妻榮・新訂債権総論二四四頁)、前記②の制限を認めるとすれば、それは有限会社法一五条の規定と矛盾し、有限会社の資本充実に反する結果となるからである。最後に、前記③「利害関係のない第三者は債務者の意思に反して弁済することはできない」という制限についてであるが、有限会社法一五条の規定を前提とするならば、この制限も問題にならないように思われる。なぜなら、有限会社の原始社員になるべき者は未払の出資金の弁済について利害関係を有する者であると言えるからである。有限会社法一五条の規定を前提とする限り、本判決が判示するように、有限会社の原始定款に署名したAが他の署名者に代わってその出資義務の履行をなすことは、民法四七四条の第三者の弁済として有効である。 本判決は、「出資義務が第三者によって弁済されることは有効である」と判示する一方で、他方において「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」ものと認定している。そこで、一見すると矛盾するように思われる両者の関係をどのように理解すべきであるかが問題になる。この点に関して、「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与したのであれば、その出資金をもって、他の社員が払い込んだ以上、第三者の弁済として、民法四七四条に言及するまでもないのではないか」との指摘がある(久留島隆「本件判批」金融・商事判例一〇三五号五九頁)。しかし、本判決は、有限会社の原始社員の確定に関連して、わざわざ民法四七四条の第三者の弁済による出資義務の履行の有効性について言及しているのだから、むしろ、この点を活かすような法律構成が考えられるべきであろう。それ故に、本判決が「出資義務が第三者によって弁済されることが有効である」と判示した部分と本判決が「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」と認定した部分が矛盾しない法律構成を考えるべきである。 第三者の弁済の法的構造について、ドイツ民法七八三条以下の指図(》昌名①一ω⊆5頒)の場合と同様に、第三者と債権者との間には出掲関係だけが基礎づけられ、給付関係は基礎づけられないと考えるのであれば、第三者は債権者に対して自らの給付目的を追求しておらず、債権者にとって、もっぱら債務者だけが給付者として現れる(とω9雰ω9ω3三鳥①o算ψωα。NLω①ωoコα①属o芦直■>亀一こ閑蝉二ωε『①一〇置あ』まご。すなわち、第三者が債権者に出掲することにより、債務者を給付者にする。その結果、第三者は債141法学研究71巻12号(’98:12)務者に給付するのであり、債務者は債権者に給付する。このように第三者の弁済の法的構造をドイツ民法の指図(>口譲①一ω⊆昌磯)の場合とパラレルに考えるのであれば、Aが他の社員にかわってその出資金を支払うことにより、Aが他の社員に対して出資金を贈与し、他の社員が出資金を支払ったものと法的に評価することも可能であろう。しかし、第三者の弁済の場合には、第三者と債権者との間において、他人の債務の弁済目的が合意されるから(矩①凶9・碧①ン鉾POこω』ミ旧囚お鉾勲PO‘ω●&GO。)、ドイツ民法の指図(>昌矩①一誓凝)の場合とは異なって、出掲の方向と給付の方向とは一致しており、第三者の弁済の場合において、債権者に対して給付をなすのはあくまでも第三者なのである(閃声自ω3轟一包負O歪5島声鴨口Nξい魯ω9ロ暢国o昌象耳δ昌ご虫U『一詳σ震8『お鴨PωR一ぎおooトω」誤ご。それ故に、本判決が、「当該社員以外の者によって出資義務の履行がなされることは第三者の弁済として有効である」と判示し、他方において「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」と認定した部分は、むしろ「贈与の趣旨でAが他の社員の出資義務を弁済した」と考えるのが素直な解釈であるように思われる。要するに、本判決が「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」と認定した部分は、これを「Aがその他の社員に代わってその出資義務を弁済することによって、Aが他の社員に対して贈与の趣旨で出資義務からの解放という出掲を行った」ものとして理解するのである。このように考えるのであれば、本判決が「当該社員以外の者による出資義務の履行は第三者の弁済として有効である」と判示したことは、本判決が「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」と認定したことに矛盾しない。 しかし、Aが他の社員の出資義務を履行することは第三者の弁済として有効であるとしても、論理必然的に「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」との認定に結びつくことにはならない。というのは、第三者が他人の債務を弁済する場合としては、第三者が債務者に対して贈与の趣旨で行う場合のほかに、第三者が債務者に対して消費貸借を成立させるために行う場合や、第三者・債務者間の委任契約に基づいて行う場合や、事務管理として行う場合が考えられるからである。それ故に、この点についての本判決の理論的な射程範囲は、有限会社の出資金を全額出資した社員とその他の社員との法律関係に関して、かなり広いものであると評価できよう。したがって、他の社員に消費貸借を成立させるためにAが他の社員の出資義務を弁済し142判例研究たとの認定や、Aと他の社員との間の委任に基づいてAが他の社員の出資義務を弁済したとの認定や、事務管理としてAが他の社員の出資義務を弁済したとの認定がありえてもよいはずである。それでは、いったいどうして本判決は「他の社員の出資金をAが当該社員に贈与した」という認定を行ったのであろうか。それは、XがY有限会社の持分二〇〇口のうちXに帰属することにつき当事間に争いのない六〇口を除いた一四〇口の持分が自己に属するものとしてその地位の確認を求めて訴えを提起したことに関連して、本判決が平成二年商法改正前の有限会社法六九条】項五号が社員が一人になったことを有限会社の解散事由として一人会社を認めていなかったことを考慮したことのほかに、原審が「AはY有限会社の設立当初において、その出資者とされる者に対して社員権を無償で譲渡し、少なくとも、ユ ヨ ペY、Y、Yはこれを承諾していた」と判示したことに引きづられて、本判決がAと他の社員との問には何らかの贈与関係が存在したという事情を考慮した結果なのかもしれない。いずれにしても、右のような事実認定を本判決が行ったのは、Y有限会社の設立をめぐる当事者間の特殊事情に基づくものであるから、この点についてはこれを一般化することはできない。五 以上述べてきたように、現行の有限会社法においては、定款が有効に確定している限り、社員とその出資口数が問題になった場合には、社員とその出資口数は定款の記載によって確定するので、その者が実際に出資金を支払ったかの否かは社員の確定に関係がない。本件では、Y有限会社設立当時におけるAの持分は五〇口であり、Aが死亡するまでの間の社員とその持分の変動はAが決定し、その他の社員はこれを承認してきたことが認められている。このように本件では、Y有限会社の設立当初から社員はA一人ではなかったのであり、Aの死亡当時、AはY有限会社の持分全部を有していなかったのだから、Aの包括受遺者であるXもY有限会社の持分全部二〇〇口を有していないことになる。私見としても、本判決の立場に賛成である。渋谷 光義143
未分類
「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(3)
「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)民事訴訟法研究会「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)第1部 法人に対する倒産処理手続 第1章清算型の倒産処理手続 第1 破産手続 1 管轄 2 当事者 ① 破産能力 ⑭ 申立権者 3 破産原因 4 破産申立て ① 破産申立ての方式 ③ 破産原因の審理8765債権者の個別的権利行使の禁止破産宣告前の保全処分等破産出旦出・破産管財人17 16 15 14 13 12 11 10 9 (3) (2) (1) (3) (2) (1)監査委員債権者集会破産債権の届出、調査及び確定 破産債権の届出 破産債権の調査 破産債権の確定係属中の民事訴訟破産財団 破産財団の管理 別除権の目的である財産 破産財団の換価配当手続…:……………・…(以上七一巻一〇号)破産終結手続小破産大規模破産事件99法学研究71巻12号(’98:12) 201918(8) (7) (6) (5) (4) (3) (2) (1)抗告罰則その他 申立て及び抗告の方式 公告及び送達 登記及び登録の嘱託 閲覧及び謄写等 調書 OA機器の利用 破産手続費用 その他 第2 特別清算手続第2章再建型の倒産処理手続 第1 新再建型手続 1 和議手続及び会社整理手続の改正点 2 新再建型手続の導入 3 新再建型手続の概要(9) (8) (7) (6) (5〉 (4) (3) (2) (1)管轄手続の開始等機関特別な債権の取扱い債権の届出、調査及び確定債務者の財産の管理……(以上七一巻一債権者の意見の調査等再建計画の作成及びその成立再建計画の履行確保一号)第2 第3章第2部 第1 ⑩ 破産手続への移行 ⑪ 会社更生手続との関係4 その他新再建型手続につき検討すべき事項5 新再建型手続を設ける場合における和議手続及び 会社整理手続との関係 会社更生手続1 会社更生手続の改正点2 具体的な考え方 ω申立て ③保全処分 ㈹更生手続 その他個人(自然人)に対する倒産処理手続 個人を対象とする新しい倒産処理手続1 個人を対象とする新しい手続の導入2 個人債務者更生手続(仮称)を設ける場合の手続 の概要(9) (8) (7) (6) (5) (4) (3) (2) (1管轄手続の開始手続の利用者手続の効力債務者の財産に対する管理及び処分の権限債権の調査資産の調査調整委員(仮称)否認権100「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)第2 ⑩ 債権者の意見等を手続に反映させる方法 ⑪ 弁済計画 ⑰ 法廷の条件の履行による免責 ・…:(以上本号) ⑬ 担保権付債権その他の特別の債権の取扱いGφ その他 べき事項 る清算型手続との関係 破産手続及び免責手続2 具体的な考え方3 その他個人債務者更生手続(仮称)につき検討す4 個人債務者更生手続(仮称)を設ける場合におけ1 個人に対する破産手続及び免責手続の改正点(7) (6) (5) (4) (3) (2) (1破産者に対する監守破産者自身による清算扶助料の給与破産財団免責簡易な免責手続その他 3 相続財産の破産第3部 国際倒産 第1 国際倒産管轄 第2 倒産手続の国際的効力 第3 国際並行倒産 第4 外国人又は外国法人の倒産手続上の地位 第5第4部 第1 第2 第3 第4 第5 第6 第7第5部 第1 第2 その他倒産実体法 法律行為に関する倒産手続の効力 各種債権の優先順位 多数債務者関係 否認権 担保権の倒産手続上の取扱い 相殺権 その他その他 調停 その他…… (以上七二巻一号)ω 債権者の意見の調査等 ア 債権者集会の制度の在り方 a 一定の債権者集会については、その開催を必 要的とするものとするとの考え方 b 債権者集会の開催を任意的にするものとし、 債権者集会を開催しない場合には、必要に応じ て、書面によって意見聴取をし、又は書面によ る決議を行うものとするとの考え方101法学研究71巻12号(}98:12)〈結 論〉 bに賛成である。〈理 由〉 中小規模の法人倒産において、情報開示及び決議の方法として、費用と時間のかかる集会方式が必ずしも適切でない場合があり、個別の書面による意見聴取及び決議の方が債権者の意見を手続に反映される可能性もあるから、債権者集会の開催は任意的としておく方が手続上柔軟性がある。 に、次の事項を報告するための債権者集会を開催 するものとし、又は債務者若しくは管理人(仮 称)は次の事項を記載した報告書を作成して利害 関係人の閲覧に供するものとするとの考え方(会 社更生法第一八七条、第一七九条参照) ①新再建型手続の開始に至った事情の要旨 ② 債務者の業務及び財産に関する経過及び現状 の要旨 覧に供するために財産目録及び貸借対照表を作成 b 債務者又は管理人(仮称)は、利害関係人の閲イ 債権者に対する情報提供の在り方 a 新再建型手続が開始された後、できるだけ早期しなければならないものとするとの考え方(会社更生法第一七八条、第一八三条参照)c 検査機関(前記⑭イ参照)の報告に関する書類 は、利害関係人の閲覧に供するため裁判所に備え置かなければならないものとするとの考え方(会社更生法第一〇一条の二参照)〈結 論〉 a、b、cのいずれにも賛成である。〈理 由〉 債権者が新再建型手続に対する協力の是非について判断するためには、債権者に対する情報開示は必要である。⑧ 再建計画の作成及びその成立 ア 再建計画案の作成者 再建計画案は、管理人(仮称)が選任されてい る場合には管理人(仮称)、管理人(仮称)が選 任されていない場合には(監督委員(仮称)が選 任されているときは、その補助を受けて)債務者 が作成するものとするとの考え方102「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 新再建型手続においては、債務者の従来の代表者が引き続き業務執行並びに財産の管理及び処分をする権限を有するのが原則であるから、再建計画案は原則として債務者が作成すべきものとし(但し、監督委員(仮称)の選任は必要的と考えるので、その補助を受けて)、管理人(仮称)が選任されているときは管理人(仮称)が作成すべきである(会社更生法第一八九条参照)。 が定めた提出期間内に裁判所に対して提出しなけ ればならないものとするとの考え方(会社更生法 第一八九条第一項参照) ないとき、又はその期問内に提出されたすべての 再建計画案が審理若しくは決議に付するに足りな いものであるときは、裁判所は、職権で手続の廃 止の決定をしなければならないものとするとの考 b 再建計画案が定められた提出期間内に提出されイ 再建計画案の提出時期 a 再建計画案は、債権届出期間の満了後の裁判所(会社更生法第二七三条第一号参照)〈結 論〉 a、bのいずれにも賛成である。〈理 由〉 aについて 現行の和議手続においては、申立てと同時に和議条件を提示することが必要であるが、申立ての混乱期に充分に検討された和議条件を提示することは困難であり、債権者の同意を得たいがために実現不可能な甘い和議条件を取り敢えず掲示する傾向にあり、それがため和議条件の履行がなされず、ひいては和議手続に対する不信へと繋がっている。したがって、会社更生と同様に、再建計画案は、債権届出期間満了後の裁判所が定めた期間内に提出すればよいとすることに賛成である。 bについて また、不誠実な手続の選択や再建の見込みのない場合にまで、新再建型手続を維持することは、債権者の不利益が甚だしいので、職権で手続を廃止することにも賛成である。ウ 再建計画の内容 a 再建計画の条件は、同じ性質の債権を有する者103法学研究71巻12号(’98:12) の間では平等でなければならないが、その債権の 少額なものにつき別段の定めをし、その他差等を 設けても衡平を害しない場合は、この限りでない ものとするとの考え方(会社更生法第二二九条参 照)b 再建計画によって債務が負担され、又は債務の 期限が猶予されるときは、その債務の期限は、一 定の範囲(例えば、一〇年)内でなければならな いものとするとの考え方定できないときは二〇年をこえてはならない」とされているが、中小規模の法人を対象とする新再建型手続の場合、これより短縮する必要はあると考えられるものの一〇年では短すぎる。メーカー等の場合、工場等の事業継続に必要な不動産を抱えており、税引後利益でこれら不動産の評価額を含めて短期間に弁済計画を立てることは困難であるか、また一般債権の弁済率が極めて低くなる可能性がある。したがって、会社更生の場合よりも短縮するとしても一五年が妥当である。104〈結 論V aに賛成である。 bに条件付きで賛成である。〈理 由〉 aについて 債権者平等は倒産処理の大原則であるが、中小規模の法人倒産においても、会社更生と同様に少額債権の早期弁済の定めにより、連鎖倒産を防止し、手続を円滑に進めるための方策は必要であり、実質的債権者平等からすれば、aについて賛成である。 bについて 会社更生の場合、「担保があるときは担保物の耐用期間、担保がないとき又は担保物の耐用期間が判工 成立手続 再建計画は、債権者集会の決議又は書面による決議の結果可決され、かつ、裁判所が認可することにより、成立するものとするとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由V 債権者の法定多数の同意を要件とするのは当然であるが、再建計画の内容が適法であり、その他手続上の暇疵がないかどうか審査することにより、反対債権者の利益保護を図「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)る必要があり、る。裁判所の認可を要件とすることに賛成であ あって、かつ債権者集会に出席し、又は書面によ り再建計画案に対する賛否を表明した債権者の議 決権の三分の二以上を有する者の同意があること が必要であるものとするとの考え方 おいて、その最初の期日から二か月以内に可決さ れないとき、若しくは否決されたとき、又は債権 者の書面による決議の結果、可決されなかったと きは、手続廃止の決定をするものとするとの考え 方(会社更生法第二七三条第二号参照) b 再建計画案が、その審理のための債権者集会にオ 決議の成立要件 a 再建計画案を可決するには、債権者の過半数で〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 和議手続における届出債権額の四分の三以上の同意というのは厳しすぎると思われる。昨今の金融機関の状況からして、法的手続に対して大口債権者である金融機関が積極的に同意の判断をしづらくなっており、可決要件が厳しすぎると再建の途を閉ざすことになりかねない。したがって、出席債権者の三分の二以上とすることに賛成である。また、頭数を要件としないとすると、一部大口債権者の意向で多数債権者の利害に影響するから、頭数の過半数を要件とすることにも賛成である。 否決された場合はもちろんであるが、決議のための債権者集会が開かれて二か月経っても可決されないような場合は、いつまでも債権者の権利行使を拘束しておくのは不利益が大きいため、手続廃止の決定をすべきである。力 認可要件 裁判所が再建計画を認可する要件を、会社更生法 第二三一二条第一項第一号から第三号までに準じて定 めるものとするとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 特に反対債権者保護のために、このような要件を認可要105法学研究71巻12号(’98:12)件とすることに賛成である。 再建計画が認可された場合には、その効力として、 の定めに従ってのみ、弁済を受けることができる ものとするとの考え方 Gり 再建計画の期間内は、弁済し、弁済を受け、 その他これを消滅させる行為(免除を除く。) をすることはできないものとするとの考え方 ω Gりに加えて、再建計画の効力が及ぶ(aの債 権と同様に、債権の内容が変更される。)もの とするとの考え方 建計画は執行力を有するものとするとの考え方 a 債権の届出がされた債権については、再建計画キ 認可の効力 b 債権の届出がされなかった債権については、 c 再建計画に記載されている債権については、再〈結 論〉 ヤ ヤ a bアイ〈理 由〉abについてcに賛成である。強力な再建手続である会社更生のように、失権制度まで認めることはできないが(会社更生法第二四一条)、届出をした債権者との公平、会社再建の目的達成を考慮すると、届出をしない債権者についても再建計画の効力が及ぶものとすべきである。 cについて 債権の届出・調査・確定について、破産手続と同様の手続を設けるものとするとの考え方(前記第2章、第1、3、⑤参照)に賛成であるが、破産の場合には債権表の記載に確定判決と同様の効力を生じることとなっている(破産法第二四二条)。これに対応して再建計画について執行力を認めることにより、再建計画が履行されない場合に、再建計画に基づいて強制執行ができることになるから、再建計画の履行確保の有力な手段となると考えられる。ク 認可後の更生計画の変更 認可決定後やむを得ない事情の変更があるときは、 裁判所は、再建計画を変更することができるものと するとの考え方(会社更生法第二七一条参照)〈結 論〉賛成である。106「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)〈理 由〉 再建計画の認可後に予期しない経済情勢の変動等により再建計画の遂行が困難となることもあり得ることであり、その場合に直ちに清算手続によらずに計画を変更すれば再建の可能性があるのであれば、社会経済的にも債権者のためにも変更の可能性を認めるのが妥当である。変更により不利益を被る債権者に対しては、会社更生と同様に再度不利益を被る債権者の決議を必要とすべきである(会社更生法第二七一条第二項)。 裁判所は、①再建計画が遂行されたとき、又は再 建計画が遂行されることが確実であると認めるに 至ったときは、手続終結決定をするものとし(商 法第三九九条、会社更生法第二七二条参照)、② 再建計画の遂行の見込みがないことが明らかにな ったときは、手続廃止の決定をするものとする (同法第二七七条参照)との考え方 者が再建計画に従った履行をしなかった場合には、 イ 再建計画の認可により手続は終了するが、債務ー 再建計画の履行確保(9 ア 再建計画認可後も裁判所による監督を継続し、 利害関係人の申立てにより、裁判所は、再建計画 を取り消すことができるものとするとの考え方 (和議法第六四条、破産法第三三二条参照)ウ 原則として、イの考え方によるものとするが、 ①管理人(仮称)が選任されている場合には、ア の考え方によるものとし、②監督委員(仮称)が 選任されている場合には一定期間(例えば、三年 間)は、手続が終了せず、その間は裁判所が監督 するものとするとの考え方〈結 論〉 ウに条件付きで賛成である。〈理 由〉 現行の和議手続最大の間題点が、履行確保の手段が図られておらず、和議手続に対する不信感となっていることからすれば、新再建型手続においては履行確保の手段は慎重に規定すべきである。アは、もっとも厳格な履行確保の手段といえるが、補足説明においても指摘されているように、経営判断についての裁判所の監督には物理的にも限界があり(現状の裁判所においても事務量が飽和状態にあり、中小企業の再建手続について手続終了まで全て裁判所の監督107法学研究71巻12号(’98:12)に服させた場合は、裁判所の体制が整うのか疑問である。)、会社更生とは異なり自主的かつ柔軟な再建手続を指向する新再建型手続にそぐわない。したがって、原則的には再建計画の認可により裁判所の監督は終了するが、利害関係人の申立てにより再建計画を取り消す場合の要件を緩やかにすることと、再建計画に執行力を与えることにより履行確保を図るべきだが、①管理人(仮称)が選任されている場合には裁判所の監督は手続終了まで継続し、管理人(仮称)が選任されない場合も一定期間裁判所の監督を継続するべきである(監督委員(仮称)の選任は必要的と考える)。しかし、②の期間は三年では短すぎ五年が妥当である。⑩ 破産手続への移行 破産宣告前の債務者について、新再建型手続の廃 止(前記⑧イb、⑧オb、⑨ア参照)又は再建計画 の不認可の決定が確定した場合において、債務者に 破産の原因である事実があると認めるときは、裁判 所は、職権で、破産法に従い、破産宣告をすること ができるものとするとの考え方(会社更生法第二三 条、商法第四〇二条参照)〈結 論〉 賛成である。〈理 由V 新再建型手続の廃止又は不認可が確定した場合に、手続を終了させるだけでは、債権者は早いもの勝ちになり、また債務者の経営者が資産隠しを行う可能性もある。そのような混乱を避け、新再建型手続を利用して債権者の権利行使を一時制限した以上、けじめをつける意味で職権で破産宣告を行うことができるとすることは必要である。 再建型手続開始の申立てはすることができず(前 記⑭エc↑0参照)、既にされている新再建型手続 はその効力を失うものとするとの考え方(会社更 生法第六七条第一項参照) 場合において、必要があると認めるときは、利害 関係人の申立てにより又は職権で、会社更生手続 開始の申立てにつき決定があるまでの間、新再建 型手続の中止を命ずることができるものとすると イ 裁判所は、会社更生手続開始の申立てがあったー 会社更生手続との関係1 1 ( ア 会社更生手続開始の決定があった場合には、新108「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)の考え方(会社更生法第三七条一項参照)〈結 論〉 ア、イのいずれにも賛成である。〈理 由〉 会社更生手続は新再建型手続に比べて、より厳格な再建手続であるから、会社更生手続を優先すべきである。4 その他新再建型手続につき検討すべき事項 新再建型手続を設ける場合において、3で記載し たもののほか、罰則その他の事項について、検討す べき点があるか。 ム ハ1理321意 現行和議法においては、服申立は許されないとされているが見〉裁判に対する不服申立て相殺権についての制限未履行双務契約の処理由〉裁判に対する不服申立て 却下決定、棄却決定に対して不(和議法第七条)、裁判所の判断の誤りを正す手段がないというのは行き過ぎであるから、会社更生法と同様に(会社更生法第一一条)不服申立を認めるべきである。 2 相殺権についての制限 現行和議法では、破産法の相殺権の規定をそのまま準用しているが(和議法第五条)、会社更生と同様に、債権届出期間満了までに債権債務が相殺適状にならない限り相殺できないとすべきである(会社更生法第一六二条)。なお、破産の場合も同様の規定を設けるべきである(第六、1参照)。 3 未履行双務契約の処理 現行和議法においては、破産法第五九条以下の規定を準用していないが、新再建型手続においては監督委員(仮称)ないし裁判所の許可を条件に、債務者の解除権を認め債務関係の迅速な整理と事業継続を図るべきである(会社更生法第一〇三条)。5 新再建型手続を設ける場合における和議手続及び 会社整理手続との関係 新再建手続を設ける場合には、現行の和議手続及 び会社整理手続について、例えば、次のような考え109法学研究71巻12号(’98:12)方があるが、どうか。① 現行の和議手続(破産法の強制和議手続を含 む。)と会社整理手続とを廃止するものとすると の考え方② 現行の和議手続(破産法の強制和議手続を含 む。)のみを廃止するものとするとの考え方〈結 論〉 ①に賛成である。〈理 由〉 検討されている新再建型手続の内容によれば、和議手続と会社整理手続を統合された手続となっており、基本的に賛成であるから現行の会社整理手続を残す理由はない。会社整理手続も廃止すべきである。 第2 会社更生手続1 会社更生手続の改正点 会社更生手続について、改正すべき点があるか。2 具体的な考え方 例えば、次のような考え方があるが、どうか。ω申立てア 管轄 会社更生手続の管轄について、前記第1章の第1のー②アaと同様の制度を導入するものと するとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 グループ企業の場合、会社更生手続を同一の保全管理人及び管財人の下で一体的に処理する必要がある。現行管轄規定の下では、会社の本店所在地の管轄とされており(会社更生法第六条)、申立て前に関係会社の本店を移転するか、申立て後に移送するかしかない(会社更生法第七条)。しかしながら、密行性を有する申立てに際し、申立て前に本店を移転することは困難であり、また、申立て後移送をするにしても、移送したい先に会社の他の営業所又は財産所在地が存在しない場合がある。したがって、このような改正は是非とも必要である。 ただ一体的処理の必要性のあるグループ企業は複雑に結合しており、商法上の親子会社関係に止まらず、株式の取得割合を低くするなどしてもう少し要件を広げるべきである。110「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)イ 債権者申立て 債権者の会社更生手続開始の申立てを容易にする ため、債権者に、一定の要件のもとで、会社更生手 続開始の申立てと同時に、調査委員(会社更生法第 一〇一条)の選任請求権を認めるものとするなど債 権者が会社(窮境にあるが再建の見込みのある株式 会社をいう。以下同じ。)の情報を取得するための 何らかの制度を設けるものとするとの考え方〈結 論〉 反対である。〈理 由〉 債権者申立ての場合に、「更生手続開始の原因たる事実」(会社更生法第三三条第一項)及び開始申立ての棄却事由の不存在(特に「更生の見込み」がないとはいえないこと)の疎明についての資料収集が困難であることは事実である。しかしながら、債権者申立ての場合の困難な問題は、申立てを受理され、保全管理命令が得られるかどうかにあるのであって、開始決定がなされるかどうかではない。保全管理命令が出されれば、債権者申立てであっても、保全管理人のもとで開始決定にかかる資料の収集調査は困難なことではない。したがって、申立て受理後に、調査委員の選任請求権を債権者に認めても意味がない。 では、申立て前に、債権者に何らかの資料収集手段を認めるかであるが、債権者申立てが特定債権者の債権回収の手段として悪用される虞のあることを注意しなければならない。本来、会社自体が申立てに積極的ではない状態で、従来からの取引関係の中である程度の資料の収集ができていない債権者が申立てたからといって、会社再建がうまくいくとは考えにくく、現状においても数は多くはないが債権者申立てがなされ、受理されているのであるから濫用の可能性を考慮するなら改正の必要はない。②保全処分 保全管理人による管理がされている間の事業継続 を円滑に行うため、 ア 会社に対して継続的給付の義務を負う双務契約 の相手方は、会社更生手続開始の申立前の給付に 係る更生債権又は更生担保権について弁済がない ことを理由としては、その義務の履行を拒むこと ができないものとするとの考え方(会社更生法第111法学研究71巻12号(’98:12)一〇四条の二参照) (会社更生法第一六一条の二参照)112〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 電気・ガス・水道・電話等の継続的供給契約に基づくものは、事業継続に必要不可欠であり、これらの供給を停止されれば再建の見込みについて検討するまでもなく、会社再建は困難である。保全管理人は、着任早々のそうでなくても多忙な時期に、これらの対応に負われなければならないのが現状であり、裁判所の許可を得て和解的解決をしている。したがって、賛成である。〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 保全管理人は着任後取り敢えず事業を継続しなければならないが、事業継続に必要な商品・原材料その他の物について債権者に商事留置権を主張されて留置されている場合、債権者と交渉して裁判所の許可を得て和解的解決をすることにより、解放させているのが現状である。商事留置権の消滅請求の権利を保全管理人にも与えることにより、スムーズな手続の進行を図るべきである。イ 保全管理人は、会社更生手続開始申立当時会社財 産につき商法による留置権を有するものに対して、 その留置権によって担保された債権額、その債権額 が留置権の目的の価額を超えるときは、その目的の 価額に相当する金銭を供託して、留置権の消滅を請 求することができ、これにより留置権が消滅したと きは、その留置権を有していた者は、供託金の上に 質権者と同一の権利を有するものとするとの考え方ウ 保全管理人が資金の借り入れ、原材料の購入その 他会社の事業の継続に欠くことができない行為をし たことにより生じた請求権(会社更生法第二九条 の三参照)について、 a 裁判所の許可を要することなく共益債権となる ものとするとの考え方 b 会社更生手続が開始された場合に共益債権とな るべき債権は、更生手続開始の申立てが第一審に「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)おいて棄却された場合であっても、その後の破産手続において、財団債権となる(会社更生法第二四条参照)ものとするとの考え方〈結 論〉 aに条件付きで賛成である。 bに賛成である。〈理 由〉 aについて 資金の借り入れについては裁判所の許可を得た場合のみ共益債権とすべきであるが、原材料の購入その他の会社の事業の継続に欠くことができない行為をしたことにより生じた請求権については、裁判所の許可を得なくても共益債権とすべきである。資金の借り入れについては、今後の会社経営に重要な影響を及ぼし、債権者の重大な利害にもかかわることであるから、裁判所の許可を要するとすべきだが、その他の事業継続に欠くことができない行為については、現在開始決定直前に行われている共益債権化の許可を取るまでもなく共益債権とした方が、保全管理人による事業継続がスムーズに行われる。 bについて 保全管理人によるスムーズな事業継続と会社更生手続への信頼、更生手続開始決定が抗告審で取り消された場合との均衡からして、賛成である。⑥ 更生手続 ア 管財人の権限及び職務 a 管財人が数人あるときでも、原則として、各 自が単独で職務を行うことができるものとする との考え方(会社更生法第九七条第}項参照) b 管財人に、会社の取締役の競業行為を承認す る権限(商法第二六四条参照)を認めるものと するとの考え方〈結 論〉 a、bのいずれにも賛成である。〈理 由〉 aについて 補足説明のとおりの理由による。特に、更生会社において管財人が機動的に経営を行うためには、管財人が複数存在する場合にも各自単独で職務を行えるのを原則とすべきである。 bついて 補足説明のとおりの理由による。旧会社の経営者が更生会社と競合する行為を行って、従来の取引先を奪おうとすることはよくあることであり、更生会社の再建113法学研究71巻12号(’98:12)にとって重要であるから、その証人を取締役会に任せるのは妥当ではなく、管財人の権限とすべきである。 のn⑭イa(書面による債権調査制度)と同様の 制度を導入するものとするとの考え方 ⑬イa(決定による債権確定制度)と同様の制度 を導入するものとするとの考え方 生手続開始後に到来すべき場合においては、会社 更生手続開始の時から期限に至るまでの債権に対 する法定利息を控除した額を議決権額とする取扱 い(会社更生法第一二二条第二項、第一一四条) を改め、中間利息の控除を要しないものとすると の考え方 b 債権確定手続について、前記第1章の第1の1ーイ 債権の届出、調査及び確定 a 債権調査期日制度に代えて、前記第1章の第1 c 期限付債権が無利息であってその期限が会社更〈結 論〉 aに条件付きで賛成である。 b、cのいずれにも賛成である。〈理 由〉 aについて 会社更生手続においても最初に行われる第一回関係人集会においては、管財人が更生手続開始に至った事情、会社の業務及び財産に関する経過及び現状等を説明するため(会社更生法第﹈八七条)多くの債権者が出席するが、事実上引き続き数回に分けて行われる債権認否のための関係人集会には、認否対象となっている債権者すら出席しないのが現状である。事前に管財人において、債権者に対し認否の内容を通知し、異議を述べる場合にはその理由を説明して根回しをしているからである。したがって、前記第1章の第1のn⑭イa(書面による債権調査制度)と同様の制度を設けることに賛成である。しかし、認否書を裁判所に備え置くだけでなく、会社の本店にも備え置くべきである。 bについて 特に更生担保権の確定には、未確定の場合に更生計画案の中で格別の定めをしなければならず、作成の支障ともなるので、簡易な確定手続に賛成である。 cについて 補足説明のとおりの理由により賛成である。ウ財産の管理及び評価管財人がする会社の財産及び更生担保権に係る担114「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)保権の目的の価額の評定の方法(会社更生法第一二四条の二、第一七七条)を見直すものとするとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 会社財産の評定及び更生担保権に係る担保権の目的物の価額の評定は、開始決定時点における予想売却価額を下限とし、事業継続に必要な財産については収益還元法による価額がそれを上回るときは、収益還元価額とすべきである。現行法上の継続企業価値が曖昧であるため、実際には更生担保権の目的物の評価が低く押さえられ、破産の場合と比べて担保権者に過重な犠牲が課せられていることは否めない。確かに、予想売却価額を最低限とした場合に、不動産価格が収益還元価額をかなり上回る我が国の不動産事情からして、メーカーのように事業継続に必要な不動産を抱えている場合には、収益弁済だけで更生計画が立てられない可能性もある。しかし、会社更生手続における弁済額は、破産の場合よりは上回るべきであり、それができないような会社において再建の価値があるのかどうか疑問でもあるため、右のように改正すべきである。工 清算的更生計画案可決の要件 清算を内容とする計画案(会社更生法第一九一条参照)を可決するには、更生担保権者の組において は、議決権を行使することができる更生担保権者の議決権の総額の五分の四以上に当たる議決権を有す る者の同意を得なければならないものとするとの考え方(会社更生法第二〇五条参照)〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 補足説明のとおりの理由により賛成である。更生担保権の減免等の場合にも五分の四以上の同意が必要であるから、清算的更生計画案の可決要件も同様でよい。オ 大規模事件における関係人集会の合理化 a 利害関係人(債権者及び株主)が著しく多数で ある場合には、裁判所は、関係人集会の決議に代 えて、書面による決議の方法を採ることができる115法学研究71巻12号(’98:12) ものとするとの考え方b 共同の利益を有する利害関係人が著しく多数で あり、かつ、代理委員(会社更生法第一六〇条参 照)を選定することが適当であると認められると きは Cり 裁判所は、当該共同の利益を有する利害関係 人に対し、相当の期間を定めて、代理委員の選 定を命ずることができるものとするとの考え方 (前記第1章の第1の17③イa参照) ω 裁判所は、職権で、当該共同の利益を有する 利害関係人らのために、代理委員を選任するこ とができるものとするとの考え方(前記第1章 の第1の17⑭イb参照)〈結 論〉 a、bGりのいずれにも賛成である。 bωに反対である。〈理 由〉 aについて 補足説明のとおりの理由により賛成である。 bGりについて 補足説明のとおりの理由により賛成である。 bωについて 職権で、利害関係人らのために代理委員を選任することができるとするものであるが、権利変更を受ける債権者の利益保護のためには、利害関係人らに選ばせるべきである。力 株主に対する送達 法律で定める一定の場合には、株主に対しては、 会社更生手続に関する裁判を送達することを要しな いものとするとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 補足説明のとおりの理由により賛成である。株主は、無償減資が通常であり、あまり不利益はないものと考えられる。第3章 その他 法人に対する倒産処理手続に関して、手続相互の 関係その他について、改正すべき点があるか(以上につき綾克己)116「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)第2部 個人(自然人)に対する倒産処理手続 第1 個人を対象とする新しい倒産処理手続1 個人を対象とする新しい手続の導入 個人を対象とする新たな法的倒産処理手続として、 手続開始後の一定期間の債務者の収入等を弁済原資 として債務の一部を弁済することにより、残債務の 弁済を免れる手続(以下「個人債務者更生手続(仮 称)」という。)を導入する考え方があるが、どうか。〈結 論〉 賛成である。 手続の名称も「個人債務者更生手続」でよい。〈理 由〉 わが国における現行の倒産法制は、いずれも事業者が想定されており、自然人に適用可能な破産法や和議法といえども、主として個人事業者の倒産を想定して作られている。しかし、事業者の場合における倒産では、事業や企業の存続と解体のいずれを選択するかという問題や、解体の場合における事業資産の清算の問題を生じるが、消費者の倒産においてはこのような問題が生じない反面、労働の能力と機会を有する消費者の場合には、健康を保持する限り将来の定期的な収入を相当程度まで確実に予想できるなど、制度の基礎となるべき前提状況を異にする。従って、主として消費者倒産の処理を想定した手続を新たに創設することが望ましい。 次に、このような手続を創設することになった場合の手続の名称であるが、過去に学説により提案されている更生型の個人倒産手続の名称としては、「消費者債務等調整法」、「消費者和議手続」、「消費者債務整理手続」など、「消費者」という言葉を用いるものが多いようである。しかし、後述するように、消費者と事業者を区別する基準を見出すことは困難であるから、手続の対象は事業者を含む自然人全体とすべきであり、その意味で「消費者」という言葉を使用することは望ましくない。また、「自然人」という言葉は一般国民になじみが薄いので、専門家以外にも理解が容易な「個人債務者」という言葉が妥当であり、従って、提案の名称に賛成する。2 個人債務者更生手続 の概要(仮称)を設ける場合の手続117法学研究71巻12号(’98:12) 個人債務者更生手続(仮称)を設ける場合における手続の概要について、次のような考え方があるが、どうか。ω管轄 ア 土地管轄 a 債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁 判所に専属させるものとするとの考え方 b aの考え方を採った上で、裁判所は、著し い損害又は遅滞を避けるため必要があると認 めるときは、職権で、債務者の財産の所在地 等を管轄する裁判所に事件を移送することが できるものとするとの考え方(会社更生法第 七条参照) イ 事物管轄 a 地方裁判所が管轄するものとするとの考え 方 b 簡易裁判所が管轄するものとするとの考え 方 c 原則として簡易裁判所が管轄するが、当該 簡易裁判所が相当と認めるときは、その所在 地を管轄する地方裁判所に事件を移送することができるものとするとの考え方〈結 論〉 アa、bのいずれにも賛成である。 イcに賛成である。〈理 由〉,ア 消費者倒産の場合には、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所以外に適当な管轄裁判所は考えられない。これに対し、たとえ個人の場合であっても、事業者倒産の場合には、主たる営業所の所在地を管轄する裁判所の方が望ましい。しかし、個人事業者の場合は、住所地と主たる営業所の所在地が一致または近接することが多いであろうし、そうでない場合にもbの移送の規定を設けておくことにより調整が可能である。 イ 地方裁判所に比べて簡易裁判所の方が個人債務者にとってアクセスが容易であること、簡易裁判所における現行の債務弁済調停が部分的に個人債務者更生の機能を果たしていること、貸金事件等の処理に関して経験を有する司法委員や調停委員の利用については簡易裁判所の方が適していることなどから、簡易裁判所の管轄を原則とすべきである。しかし、個人事業者の倒産事件を手続から排除しな118「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)いことを前提にすると、一部の複雑な事件は地方裁判所が処理する道を開いておくべきである。 考え方 し、 a 支払不能の生ずるおそれとするとの考え方 b 生活に著しい支障をきたすことなく弁済期に ある債務を弁済することができないときとする との考え方 手続開始の決定をし、その旨を公告するものとす るとの考え方 イ 申立原因は、破産原因(支払不能)よりも緩和ー 手続の開始(2 ア 申立権は、債務者のみに認めるものとするとの ウ 裁判所は、イの申立原因があると認めるときは、〈結 論〉 ア、イb、ウに賛成である。〈理 由〉 ア 個人債務者更生手続(仮称)は、債務者自身の自発的な更生努力を前提とする制度であるため、債権者申立にはなじまない。 イ 個人債務者更生手続(仮称)の趣旨は、個人債務者の保護と更生にあるのであるから、支払不能概念に拘泥する必要はない。 ウ 個人倒産の場合には債権者の数も少なく、そのほとんどが消費者金融会社であることを考えると、公告をすることの実質的意義は疑わしいが、個別通知を受けない債権者の手続保障を考えるとやはり公告は必要であろう。 のとするとの考え方 については、新再建型手続等による。)ものとす るとの考え方 を定めることによって利用者を限定するものとす るとの考え方 イ アの個人から事業者を除外する(事業者の再建) 手続の利用者(3 ア 将来の定期的収入の見込みがある個人とするも ウ ア又はイの考え方を採り、更に債務総額の上限〈結 論〉 ア、ウに賛成である。119法学研究71巻12号(つ8:12)〈理 由〉 消費者倒産と事業者倒産では倒産処理の理念を異にするので、理念的にはイが望ましい。しかし、現実問題として消費者と事業者を区別する明確な基準を立てることは困難であり、かりに何らかの基準を立てたとしても、具体的な事件において事業者か否かをめぐる不毛な争いが起きることは避けられない。また、あえて事業者を除外しなくても、ウの提案のように債務総額の上限を定める制度を併用すれば、事実上、かなりの程度まで事業者を排除することが可能である。補足説明にあるように、定型的に一定額以上の債務を有する者はこの手続を利用できないとすることは不合理であるという意見もありえようが、事業者でない個人が負担しうる通常の債務額は自ずと限られてくるであろうから、上限額を定めることが必ずしも不当であるとはいえない。具体的な上限額をいくらに定めるかは困難な問題であるが、二〇〇〇万円から三〇〇〇万円あたりが適当な額であろう。,なお、定期収入の見込みのない者にも、この手続の利用の道を開くべきであるとの意見もありえようが、計画の立案の困難性や履行の確保の不確実性を考えると、賛成しがたい。 の手続開始前の原因に基づく債権に関して、債務 者はこの手続によらなければ弁済をすることがで きないことのほか、債権者の権利行使との関係で、 a 強制執行、仮差押え及び仮処分を禁止する効 力が生ずるものとするとの考え方 b aのほか、担保権の実行を禁止する効力が生 ずるものとするとの考え方 c aのほか、債務の履行を請求する行為を禁止 する効力が生ずるものとするとの考え方 a 当該効力を一般的に生じさせる旨の保全処分 を認めるものとした上で、その保全処分又は手 続開始決定がされることにより、アの効力が生 ずるものとするとの考え方 b 申立てにより、当然に、アの効力が生ずるも のとする(いわゆる自動停止)との考え方を採 った上で、申立ての濫用防止のための方策(申 立ての取下げの制限、自動停止の解除の申立て イ アの効力が発生する時期について、ー 手続の効力(4 ア 個人債務者史生手続(仮称)の効力として、こ120「倒産法制に関する改正検討事項」にっいての意見(三)の制度等)を設けるものとするとの考え方〈結 論〉 アa、b、cのいずれにも賛成である。 イaに賛成である。〈理 由〉 ア 個人債務者の更生と生活の保護を図るためには、単に強制執行と保全処分を禁ずるのみでは不十分である。担保権の実行については、担保目的物として居住用家屋や自動車など日々の生活の用に供している物品が多いことから、担保権の実行について一定の制約を加える必要がある。債務の履行を請求する行為については、債権者の事実上の過酷な取立行為が債務者の生活を脅かす例が多いことから、これを禁止することが必要である。 イ アメリカ型の自動停止制度の導入を検討すべきとも考えられるが、わが国の風土の下では裁判所の判断行為を介入させる方が、債権者や社会一般の納得を得やすいであろう。㈲ 債務者の財産に対する管理及び処分の権限 ア 債務者は、手続の開始によっても、財産の管理 及び処分をする権限を失わないものとするとの考 え方イ アの考え方を採り、調整委員(仮称)(後記・ 参照)が選任されている場合には、一定の事項 (和議法第三二条第一項、破産法第一九七条参照) については、調整委員(仮称)の同意を要するも のとするとの考え方ウ アの考え方を採り、一定の事項(和議法第三二 条第一項、破産法第一九七条参照)については裁 判所の許可を要するものとするとの考え方〈結 論〉 ア、イ、ウのいずれにも賛成である。〈理 由V ア 現行の和議制度があまり利用されない理由のひとつは、申立時に要求される高額の予納費用にあるとされるが、そのほとんどが整理委員や和議管財人などの報酬に充てられていることを考えると、アメリカ倒産法にいわゆるDIPをもって原則とすべきである。ただし、管財人のような管理機関なしに債務者による更生計画の履行をいかに確保するかが間題となろう。121法学研究71巻12号(’98:12) イ・ウ DIPを原則とするとしても、一定の重要な事項については、調整委員または裁判所の監督を要するとすることにより、手続の適正な遂行を図るべきである。この場合、裁判所の負担軽減や機動性を考えると調整委員による監督を原則とすべきであるが、調整委員は任意的に選任される機関であるとすれば、調整委員が選任されていない場合には裁判所の許可を要するものとすべきである。㈲債権の調査 債権の調査は、次のような簡易迅速な方法により 行うものとするとの考え方 ①債務者は、申立ての際に、債権者、債権額及び 債権の発生原因を記載した債権者名簿を提出しな ければならないものとする。 ② 裁判所は、手続を開始した場合には、債務者が 提出した債権者名簿に記載された債権者に対し、 手続を開始した旨及び債権者名簿の内容を通知す るものとする。 ③手続開始の公告後一定の期間を債権届出期間及 び異議申立期間(債権届出期間を含み、これより 一定期間長い期間とする。)とするものとし、債 権者名簿に記載されていない債権者は、この期間 内に債権の届出をするものとするとともに、債権 者名簿に記載されている債権者は、改めて債権の 届出をする必要はないものとし、他の債権者(届 出がされた債権については、他の債権者又は債務 者)の異議がなかったときは、その債権について は、この手続内においては記載内容のとおり確定 するものとする。④③により異議があった債権については、審尋等 適宜の調査により、裁判所が決定でその内容をこ の手続内においては確定するものとする。〈結 果V 賛成である。〈理 由〉 個人債務者更生手続(仮称)においては、手続費用の支出がなるべく少なくかつ迅速に進行する債権調査手続を構築する必要があるが.提案の手続はこの目的にかなうものであり、特段の問題点も見いだせない。ω資産の調査122「倒産法制に関する改正検討事項」にっいての意見(三)ア 資産の調査は、債務者が提出した資料並びに債 権者及び債務者の審尋等の適宜の方法により得ら れた資料に基づいて、簡易迅速に行うものとする との考え方イ 裁判所は、資産の調査について、裁判所書記官 等に命じて、これを行わせることができるものと するとの考え方〈結 論V ア、イのいずれにも賛成である。〈理 由〉 ア 個人債務者更生手続(仮称)においては、手続費用の支出がなるべく少なくかつ迅速に進行する債権調査手続を構築する必要があるが、提案の手続はこの目的にかなうものであり、特段の問題点も見いだせない。 イ 資産の調査を行う裁判所の機関としては裁判所書記官以外には考えにくい。⑧ 調整委員(仮称) 裁判所は、特に必要があると認めるときは、債務 者が一定の行為を行うことについての同意、資産の調査若しくは評価、否認権の行使又は弁済計画案作成の補助等を行う調整委員(仮称)を選任することができるものとするとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 事件の性質に応じ、また、個別の手続において、中立的な第三者機関が必要となる場合がありうることは容易に想定される。それらの場合において、逐一裁判所が対応するのでは、機動力に欠けるとともに裁判所の負担が過重となることから、提案のような機関を置くことが望ましい。調整委員(仮称)の報酬等に関しては、初期費用と継続費用の両方が考えられるから、初期費用分は申立予納金から(ただし、初期費用分のみであるから現行の実務で行われている予納金額よりも相当程度低い額とする)、継続費用分は債務者の将来の収入の中から優先的に支払われるものとするべきである。また、調整委員(仮称)に充てるべき人材としては、簡易裁判所の司法委員や調停委員が妥当であろうが、現行の人員に比べて増員の必要がある。123法学研究71巻12号(’98:12)⑨否認権 ア 否認権を認めないものとするとの考え方 イ 会社更生手続と同様の否認権を認めるものとす るが、否認権の行使は、調整委員(仮称)がする ものとするとの考え方〈結 論〉 イに賛成である。〈理 由〉 アの提案のように否認権を認めないものとすると、否認が不可欠な事件においては他の手続への移行を必要とするが、それでは手続が遅延するとともに当事者や裁判所にとっても煩雑に過ぎる。また、否認権が存在することで、債権者の不当な取立や債務者の不誠実な行為の抑止がある程度期待できる。⑩ 債権者の意見等を手続に反映させる方法 裁判所は、債権者から、手続の進め方に関する意 見、債務者の資産状況に関する陳述等を聴取する場 合には、適当と認める方法で聴取すれば足りるものとするとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 個人債務者更生手続(仮称)では、債権者の意見を聴取する方法として債権者集会を開くことは費用や時間の点で間題があり、実際にも、主たる債権者である消費者金融会社は書面による意見陳述を行うことが多い。⑪ 弁済計画 ア 弁済計画の作成及び成立 a 弁済計画案は、申立ての時から一定の期間 (例えば、一ヶ月)以内に、債務者が(調整委 員(仮称)が選任されている場合には調整委員 (仮称)の補助を受けて)作成するものとする との考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉124「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三) 債務者が各債権者による取立を受けている状態下で弁済計画を作成するのは困難であり、取立禁止の保全処分または自動停止を得てから弁済計画を作成することができる制度とするべきである。 考え方 して債権者による法定多数の同意を要するものと するとの考え方 可に先立ち、弁済計画案についての債権者の意見 を聴取するものとし、債権者に異議がないときは、 @ 認可の要件(後記c参照)を審査しないで、 弁済計画を認可することができるものとすると の考え方 ㈲ @の考え方を採る場合において、認可の権限 を裁判所書記官に付与するものとするとの考え 方 ー 裁判所の認可によって成立するが、その前提と イ b 弁済計画は、 ー 裁判所の認可によって成立するものとするとの ア ( ー 裁判所の認可によって成立するが、裁判所は、認 ウ (〈結 論〉 @に賛成である。但し、㈲には反対である。〈理 由〉 のは、弁済計画の成立に債権者の意向を反映させないという点で重大な間題があるが、他方、ωのように債権者による法定多数の同意まで要求することも、手続が重くなりすぎるきらいがあり間題がある。そこで、バランスのよい㈲が最も妥当である。ただし、たとえ債権者に異議がない場合であっても、認可の権限は裁判官に留保しておくべきであるから、㈲には賛成できない。c 弁済計画案の認可の要件 弁済計画案の認可の要件として、①法律で定める 一定の期間継続して弁済をすること(以下、その期間を「計画期間」という。)、②債権者の実質的平等 が守られていることのほか、③弁済総額の在り方と して、Gり 「破産手続において債務者の総資産を換価した 場合の予想配当額」を下回らないこととするとの 考え方ω 「破産手続において債務者の総資産を換価した125法学研究71巻12号(’98:12) 場合の予想配当額」又はコ定の金額(例えば、 法律で定める一定の期間内に見込まれる定期的収 入のうち執行可能な部分に相当する金額)」のい ずれか多い額を下回らないこととするとの考え方㈲ 「破産手続において債務者の総資産を換価した 場合の予想配当額」に「一定の金額(例えば、法 律で定める一定の期間内に見込まれる定期的収入 のうち執行可能な部分に相当する金額)」を加算 した額となっていることとするとの考え方〈結 論V ωに賛成である。〈理 由〉 0りの案では、将来確実に定期的収入が見込まれる債務者であっても、申立時点で財産がなければ弁済の必要がないことになり不当であるし、@の案では、債務者にこの手続を選択させるインセンティブに欠けるものと思われる。その点、↑りの案は、バランスのとれた考え方であると思われるが、「一定の金額」については、債務者の生活保護のために、「一定期間内に見込まれる定期的収入のうちの可処分所得」とすべきである。 6り 一年とするものとするとの考え方 ω 二年とするものとするとの考え方 @ 三年とするものとするとの考え方 @ 四年以上の法律で定める期間とするものとする との考え方d 計画期間は、〈結 論〉 ㈲に条件付きで賛成である。〈理 由〉 一般的な倒産事件では三年程度が妥当であろうが、事情に応じて五年程度までの延長が可能な制度とすべきである。e 弁済計画案の不認可が確定した場合又は債務者が弁済計画案を提出すべき期間(前記a参照)内に弁済計画案を提出しなかった場合には、これによって手続は終了するものとするとの考え方〈結 論〉賛成である。126「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)〈理 由〉 債務者の自主的な更生努力を前提とする手続にとって当然の規定である。イ 認可された弁済計画の効力 a 債務者が提出した債権者名簿に記載され、又は 債権の届出がされた債権については、弁済計画に おける免除の効力は、 の 弁済計画の認可が確定した時点で生じ、 @ その後の計画不履行によっても失われない (確定的に効力が生ずる。)ものとするとの考 え方 ㈲ 計画が取り消されることにより、失われる ものとするとの考え方 ω弁済計画に従った履行の終了によって生ずる ものとするとの考え方〈結 論〉 ↑りに賛成である。〈理 由〉 個人債務者更生手続(仮称)が、管財人のような管理機関をおかないDIP型の手続であることを前提とすると、債務者が自発的に弁済計画を履行するようなインセンティブを設ける必要があるが、0りではそのようなインセンティブがなく債務者の履行を確保することが困難である。b 債務者が提出した債権者名簿に記載されず、かつ、 債権の届出がされなかった債権については、 じり 当該債権者も公告により手続参加の機会を与え られていたことを理由として、その全額につき、 免除の効力が生ずるものとするとの考え方 ω aの効力と同一の効力が生ずるものとするとの 考え方 ㈲ 弁済計画の効力が及ばないものとするが、当該 債権者が手続が開始されたことを知り、又は重大 な過失により知らなかった場合には、例外的に、 その全額につき、免除の効力が生ずるものとする との考え方〈結 論〉 ωに賛成である。〈理 由〉127法学研究71巻12号(’98:12) 公告の公示力が現実には極めて低いことを考えるとGりには賛成できず、また、㈲のように弁済計画の効力が及ばないとすると、債務者の更生を害するのでこれにも賛成できない。手続に参加した債権と同一の効力を認めるωが妥当である。c 計画期間中は、弁済計画に記載されている債権に限り、弁済を受けることができるものとし、当該債権については、弁済計画は執行力を有するものとす るとの考え方〈結 論〉 賛成である。〈理 由〉 個人債務者更生手続(仮称)を履行確保のための特別の管理機関を置かない手続と考える場合には、当然必要な規定である。ウ 弁済計画の履行確保 a 任意的に選任される監督機関の制度を設けるこ とにより、履行確保を図るものとするとの考え方b 特段の監督機関を設けないものとし、履行確保 は、例えば、①免除の効力の生ずる時期(弁済計画に従った 履行を終了しない限り、権利の変更の効力に基 づく免除の効果が生じないものとすること)、②弁済計画における強制執行(弁済計画には債 務者が支払を怠った場合における期限の利益の 喪失についての定めをしなければならないもの とした上で、弁済計画を債務名義とする強制執 行を可能とすること)、③弁済計画の取消し(債務者が著しく履行を遅 滞した場合には、債権者の申立てにより、弁済 計画を取り消すものとすること)により図るも のとするとの考え方〈結 論〉 bに賛成である。〈理 由〉 個人債務者更生手続(仮称)は、債務者の自発的な更生努力に負うところが大きい手続であることや、費用や人材の調達における困難性を考えると、特段の管理機関を設け128「倒産法制に関する改正検討事項」についての意見(三)ずに債務者の履行に対するインセンティブを高めるような規定をおくべきである。工 認可された弁済計画の取消し、変更等 a 裁判所は、一定の取消事由(例えば、債務者が 故意に債権者名簿に虚偽の記載をしたこと等)が あるときは、利害関係人の申立てにより又は職権 で、確定した弁済計画を取り消すことができるも のとするとの考え方b 裁判所は、やむを得ない事情の変更があると認 めるときは、債務者の申立てにより、弁済計画の 変更を認めることができるものとするとの考え方 c 債務者の責めに帰すことができない事由により 弁済計画に従った弁済を継続することが著しく困 難となったときは、裁判所は、債務者の申立てに より、債権者の意見を聴いて、一定の要件(例え ば、弁済計画による弁済予定額の相当部分の支払 が完了しているとの要件)の下で、残債務につい て免除を許可することができるものとするとの考 え方〈結 論V a、b、cのいずれにも賛成である。〈理 由〉 再建型の個人倒産手続を創設するのであれば、弁済計画認可の時に知り得なかった事情や、将来の事情の変化に適切に対応するための制度をおいておく必要がある。提案にかかるa・b・cは、いずれもこの目的にかなうものである。⑰ 法定の条件の履行による免責 ωの考え方とは別に、弁済期間及び弁済額又は弁 済率を法定した上で、原則として、債務者がこれに 従った弁済をした場合に免除を付与するものとする との考え方〈結 論〉 反対である。〈理 由〉 個人倒産事件といっても、債務者の資産状況、負債総額、債権者数、定期収入額などは必ずしも一律ではなく、履行条件を法定すると耐え難い不公正や不効率を招くおそれが129法学研究71巻12号(’98:12)ある。以上につき三木浩一)130
未分類
メキシコ新環境法への先住民の適応
メキシコ新環境法への先住民の適応カルロス・H・ドゥラン・アルカンタラ石 井 陽 一/訳メキシコ新環境法への先住民の適応訳者はしがき この訳稿の筆者カルロス・ウンベルト・ドゥラン・アルカンタラ博士(U『■O碧一8=一』ヨ冨旨oO霞碧α≧鼠亭$寅)は、メキシコ首都のチャピンゴ大学教授で、国立メキシコ国立自治大学(UNAM)とメトロポリタン自治大学の非常勤講師を兼ね、その専攻は、法社会学、法人類学である。ラテンアメリカの先住民問題にかかわる国際的シンポジウム、フォーラム、ワークショップの司会者、発表者をつとめ、先住民問題の啓蒙にあたっており、ここ数年訳者とは毎年世界のどこかで出会う間柄である。 昨年末、英語で標題の論稿を書いたので、日本の法学雑誌に掲載できないかと打診してきた。訳者の頭に浮んだのは本誌である。それは塾法学部が、政治学科と法律学科の双方にラテンアメリカの講座を持っているからである。通常、わが国の法学部ではラテンアメリカは視野に入っていない。 しかし、本誌に掲載していただくとしても、邦訳の上、若干の解説と注釈を付する必要を感じた。メキシコで常識化していることも、日本ではほとんど知られていないからである。そこで訳稿に先立ち、メキシコの環境問題の所在について簡単に解説して置きたい。83法学研究71巻12号(’98:12) メキシコの環境問題は大きく別けて三つある。第一は首都メキシコ市の地形による異常な大気汚染問題である。第二は米墨国境地帯に密集するマキラドーラと呼ばれる保税加工制度から発生する国際的な環境汚染問題である。第三は、自然資源、歴史的遺跡、先住民居住地域などの環境を保護するための自然保護地域の設定の必要性であり、本訳稿の主題である。 メキシコでこれらの環境間題がクローズアップしてきたのは、一九八O年代の半ばであり、特に首都のそれは世界的な注目を浴びた。海抜二二〇〇メートル、山に囲まれた盆地で、空気が流れにくく、自動車や周辺の工業団地から出る排煙が滞留する地形になっている。メキシコ市は、工場の排煙脱硫装置、自動車の窒素酸化物除去装置などの事業計画を樹て、また、自動車用ナンバーの末尾に対応して五色に色分けしたステッカーを車体に貼り、曜日によって五色のうちの一色のステッカーの車の通行を禁止するカラーコントロールで汚染の防止につとめた。ちょっとしたアイディアだが、若干の汚染の軽減になっても、抜本的な解決にはならない。 第二の問題点は一九八O年代末メキシコの北米自由貿易協定(NAFTA)加盟に関連して表面化した。一九六〇年代から始まった外国向きの保税加工制度マキラドーラは、原材料または半製品を無税で外国の親会社から輸入し、メキシコの低賃金で最終加工し、再び親会社に輸出できる制度である。相手が米国の場合、再び無税で米国に輸入されるのでほとんどは対米輸出入である。リオグランデ河を挟む二二〇〇キロメートルの米墨国境沿いにマキラドーラの工場数は八九年末には一九〇〇余、NAFTA発足前には二〇〇〇余に達している(うち日本企業の在米現地法人の孫会社の工場が七〇余)。そしてメキシコ側の環境規制が緩いため、米国側に大気や水質の汚染、有害物質を輸出することにもなった。そこでNAFTA加盟の条件として米国側から環境法改正による環境規制強化の要求がでた。環境法改正は外圧によるものである。しかし、米国には米墨国境地帯の環境規制の強化を要請する一方で、メキシコの緩い環境規制を利用する動機もあった。狙いはメキシコの石油である。米国にも未開発の石油資源の埋蔵はあるが、環境規制が厳しく、新規開発はコスト的に引き合わない。それに比べ、未開発の埋蔵量は膨大と見込まれ、かつ規制はそれ程厳しくなく、またたとえ法規制は厳しくとも実施上は融通の利くメキシコに着目した。だからNAFTAの交渉過程で米国はメキシコの石油開発開放を執拗に求めた。84メキシコ新環境法への先住民の適応メキシコのサリナス前大統領は、石油国有を定めた憲法二七条を盾にとって抵抗した。世界の憲法の中で一条では最も長文と言われる二七条には色々な内容が盛り込まれている。農地改革面では、株式会社による大農地の取得、そこに外資の導入を認める改正を行なった(詳細は、拙稿「メキシコ憲法第二十七条の改正とその背景」『法学研究』第六六巻第一〇号所収)。そしてそれが、一九九四年一月一日NAFTA発効当日のチアパス反乱を引き起す引き金になった。石油を外資に門戸開放すれば、反駁は最も大きいというのがサリナス前大統領の判断だった。恐らくそれは正しい。 しかし、米国は諦めてはいない。メキシコの憲法は軟性憲法であり、改正に国民投票を必要としない。またメキシコ同様石油ナショナリズムの強かったブラジルも石油国有化を廃止した。設備の近代化の必要上、メキシコもいずれ折れてくるものとみている。だから米墨国境地帯では環境規制を厳しく、その他の地域では緩く、というのが米国の本音であろう。 そして第三の自然保護地域の設定は、くすぶっているチアパス反乱後のサパティスタ民族解放軍(EZLN)との交渉の過程で、先住民を慰撫する必要上、セディリョ大統領が出した作戦であるというのが、筆者の見方である。つまり、内圧である。メキシコ政府の意思というよりも、外圧と内圧が環境法の改正を促したといえるようである。 しかし、仮りに先住民が居住する自然保護地域に石油が発見された場合に、政府が石油と先住民のいづれかをとるか、微妙なところである。以下、訳文に入る。1 序 論 本稿の目的は、初めて、メキシコの環境法がー限定的ではあるが1先住民の存在を認知したので、その法としての規範の性質を明確にすることにある。とくに、この環 (原注1)境均衡法に加えられた修正、追加、廃止が先住民のために保全する社会経済的な計画、どのような手段でこれらの法改正が先住民の自治による発展や全国的な環境問題の改善に替わる選択肢になり得るのだろうか、その範囲を見定めるための試論である。 また、従来メキシコの環境法は、先住民をその文化的特性で類別せず、それ以上に政治的適応性で類別することもしなかったのだが、これは単なる欠落ではなく、複数民族グループの全体の上に行使していた国家の覇権の結果であ85法学研究71巻12号(’98:12)り、先住民の社会的法的な適応は、基本的にチアパスの武力反乱がもたらした影響によるものではないかという仮定に立って本稿を書き起すこととする。II生態系均衡及び環境保全のため一般法の一九九六年一二月一三日付改正 本稿は、とくに先住民にかかわる改正と修正に絞るのだが、連邦環境法改正の全体についても概観しておくこととする。 この環境法の修正、追加、廃止は、一九八八年制定の前法が、法の形式においても内容においても拙速に制定され、かつ立法技術にも欠けるものがあったことは疑いの余地がないことによるものである。 改正の背景として、いまはグロバリゼーション(世界経済の一体化)の渦中にあり、とくにNAFTAの実施により発生した新たな状況、メキシコのみならず世界規模で発 (原注2)生する周期的な危機、そしてわが国の特殊事情において説明されるものであり、環境法は、新規の開発計画から来る攻撃、その結果派生する地域の生態系に及ぼす環境上のインパクトに完壁に対処し得るものであることが目標とされている。 全条文のうち一〇七力条が修正され、六五力条を追加、一三力条が廃止になり、関連する二四力条の見出しが変更になった。改正論議のすべては本法の脆弱性をつくものだった。これだけ奥の深い改正が加えられたのだが、われわれはこの環境保全の一般法の公布が国民に従前よりもずっと調和したものであるかどうか間うことができよう。 改正環境法は、生態系均衡の保全と回復と環境の保護に ﹇訳注1﹈ついて、連邦、州、連邦直轄区、郡の果す役割分担と相互調整について的確に定めている。 同じように、政府は、環境・自然資源・漁業省(ω①R①-辞碧猷αo一霞o島o>ヨ玄①日①)即8ξωoωZ四ε冨一〇ω賓℃①ω8略称SEMARNAP)を通じて、その環境行政並びに環境に関する行政命令を再調整する。それが全体として開発と資本の拡大再生産を、またそれぞれの開発に随伴する生態上のインパクトを、調整するものとなろう。 環境法の第二編で、政府は、自然保護地域(>お器冨ε・茜一8質9畠己霧略称ANARPO)の性格を再調整し、この種の地域が国に対して保全する戦略的な性格を見失うことなしに、可能性としては先住民もその地の管理人に任命できるようにした。86メキシコ新環境法への先住民の適応 最後に、この法改正は、個人が環境に加害したような場合の違反行為の罰則も規定しており、先住民がその慣習や慣行に依拠することによって違反することがあり得ることも付記しておく。皿 メキシコにおける先住民対自然の関係 この環境法改正とその先住民に及ぽす影響を正しく理解するためには、まずは民族グループー土地!目然との関係を把握することだ。 これには、次のようなデータがある。 この国の郡のこ八%は先住民郡である。爾余の郡でも三〇%未満は先住民である。これらの郡の土地の七〇%は農地である。絶対数字で、先住民人口は増加の一途を辿っている(一九〇〇年の約二〇〇万人から一九九七年の二一〇〇万人に)。 メキシコの先住民人口は、農業生態的には条件の悪い土地に棲んでいる。一〇〇万人以上は湿潤熱帯地帯に、少なくとも五〇万人が、それが庇護ともなっている傾斜の強い亜湿潤熱帯地方に棲んでいる。 最も自然被害の少ない湿潤温帯地帯には約一万五〇〇〇人(この地帯の全人口の三〇・八%)が、亜湿潤地帯に一〇〇万人以上が、乾燥かつ半砂漠地帯に約一五万人が棲んでいる。爾余の先住民は、二以上の生態系地帯に跨がる地帯に住んでいる。それ故に、その地帯に棲む先住民は、国 (原注3)の自然資源の保全上戦略的重要性をもっている。 m-1 社会経済的にみた先住民 概していえば、先住民が営む経済は、活動別、戦略別に分類すれば多様である。少なくとも先住民人口の七〇%は、資源が限られた地理的な居住区域との関連上、第一次産業活動に依存している。往々してその農業伝統に束縛されながら伝統以外の作物も開発している。この国の多数の先住民共同体におけるコーヒー栽培農家あたりがその一例である。 そのほか、その地に結びついた補完活動としては、燃料、野生作物、薬用作物、植物繊維、林産物、しゅろ、などの採取があり、それらが物々交換されたり、市場で売買されたりする。これら作物の若干は手細工に変わる。例えば、プエブラ州、オアハカ州のミシュテコ族は、帽子、かご、容器などを製作する。先住民の家族の社会経済構造の中で、手細工を発展させているのは、女性、年寄、子供などであ87法学研究71巻12号(’98:12)る。 ここ何十年で先住民の懐に入る資金が増えたのは、色々な農場や牧場での労働力の担い手になったからで、農業と畜産のフロンティアを拡大もしている。 ソノラ州のセリ族、ユカタン州のマヤ族またはオアハカ州のウァーべ族にとっては、漁労が先住民経済における重要な活動である。その他の事例でも、湖があることで漁労が先住民の生産活動のなかで補助的な要素になっているところがある(ちなみにミチョアカン州のプルペチャ族)。 一九九〇年の国勢調査によると、農業を営む郡の先住民は貧しく、この国勢調査に記録された先住民の七五%は農業を営む郡に居住している。先住民の大部分(九五%)は際立って周縁状態の郡に居住している。 国家人口審議会によれば、際立って周縁状態の郡に居住しているメキシコ人のうち、先住民は四一%であり、この比率はこういう農業を営む郡に居住しているほかの民族グループのほぽ三倍という高さである。 今日、政府ですら先住民は極貧状態にあると認識してい(原注4)る。これに関連して、国民連帯計画審議会は、一九九一年こう言明した。「極貧地帯に稠密な人口が集中しているのが、先住民営農地帯である。そういう地帯とは、接近困難なチアパス州の山岳地帯に始まり、オアハカ州、ベラクルス州、プエブラ州、ゲレロ州、メキシコ州の一部、イダルゴ州、トラスカラ州を経て、ミチョアカン州、部分的にナヤリト州、ドゥランゴ州へと続き、一方にはチワワ州、他方はワステカ族の居住地帯からこの国の砂漠地帯まで広がる。この「骨の髄までの貧困」地帯が広く先住民人口のより多い地帯と一致する。 先住民居住地域には貧困の諸条件が揃っているが、そこから少なくとも過去四〇年間に外への移住が急増した。一九八O年の国勢調査で、先住民移住の受け皿になった都市は、メキシコ・シティ(四〇言語の三〇万六〇〇〇人)、グアダラハラ(二万八○○○人)、モンテレイ(二万四〇(原注5)OO人)、そして北部の米墨国境地帯の諸都市(約四万七〇〇〇人)である。これらの国内移住の動きは、先住民の差し迫った願望をなんら満たすものではなかった。それどころか、先住民の願望はより大きくなるばかりだった。都市に移住した先住民は、自分たちが極貧の状態にあることを思い知らされ、いわゆる失望の都市に変貌した。 保健衛生についていえば、メキシコ社会保障・連帯院(一昌の葺一』8冨①巳8琴号ω招弩oωoユ葺ωo一箆震凶血&略称IMSS-SOLIDARIDAD)の調査研究による88メキシコ新環境法への先住民の適応と、五三・七%以上の先住民人口は保健サービスを受けてなく、医療及び診療補助の施設は不十分であり、若干のところでは皆無である。保健サービスに関しては、全人口の約八O%が栄養不良という問題がある。同院によると、この国において先住民人口の集中度の高い州において四才未満の幼児の栄養不良が著しく、サンルイスポトシ州とキンタナロー州の二九%からオアハカ州の五〇%まである。 他方、先住民村落の大部分は上水道又は下水道設備がない。およそ一万七五〇〇の先住民村落では、七〇%が配管された水道がなく、五%は電気がなく、九五%は下水道設 (原注6)備がない。 教育と非識字率についても問題は深刻である。教育近代化計画(一九八九年)は、約三〇万人の先住民学齢人口は一年次に入学手続する機会がなく、一五才以上の児童人口の四六%が読み書きができず、学齢人口の児童の二八%が (原注7)就学していない。 物理的なインフラストラクチュアに関しては、先住民村落の相当数は、電話、郵便、ラジオのような通信手段を欠いているが、大体道路を欠いている。一般通念に反して、公共事業は、先住民共同体の利益を図るよりも加害することの方が多かった。公共事業の施工に伴う先住民の自然資源の撤去(森林・鉱山開発の利権供与、ダム、ハイウェー、飛行場、油田などの公共工事による)は、先住民の社会経済と生態系の構造を台無しにした。 このような民族人口の社会状況が、予測できないような結果を伴う社会的反撃の鎖を解くことになる。あのチアパス反乱は基本的には先住民の社会基盤から起ったことである。IV生態系均衡及び環境保全のための一般法の修正・追加と先住民 ﹇訳注2﹈ わが国の法律に滲み込んだ実証主義者の伝統は、先住民を法的に認知しないことを特色としてきたが、一九九六年一二月一三日付の環境法改正ばかりは、限定的ではあるが、先住民を認知している。 この連邦環境法が全てのメキシコ人とその組織を網羅するものならば、この改正は、先住民はメキシコ人全体から分離された特殊な主体であると信ずるものであり、メキシ ﹇訳注3﹈コ憲法第四条が、メキシコは複数民族、多文化国家と定義している所以のものである。 先住民をこの国の環境、生態系保護に結びつける根拠条89法学研究71巻12号(’98:12)文は、法の第四四条、四五条W款、四六条、四七条、五四条、五六条、五六条補条、五九条、六〇条W款V款W款、六三条、六四条、六四条1項補項、六七条、七八条、七八条補条であり、環境保護地域を定義するメキシコ政府の戦略的見地にかかわるものである。さらに、第七九条朕款とX款が野生生物の保護と先住民の関係、最後に一五八条が ﹇訳注4﹈環境政策への社会参加、情報提供について定めている。 この改正と修正は、ある程度環境法への先住民の組み込みを認めているが、先住民人口はその枠組みの本当の幅を心得ておくべきであると考える次第である。 その分析には二つの範域を見定めねばならない。第一はメキシコ全体の法体系と環境法の関連であり、第二は全体の枠組みと先住民との関係(本当の社会経済的事実として)である。 W11 国内法対先住民 メキシコにおける体制の環境及び生態系の構造は、始源的には憲法第二七条に立脚しており、その第一項は始源的 ﹇訳注5﹈所有権について語っている。 立法者が始源的所有権と定義した射程は、国家という概念を媒介として公権力の発動を求めるものである。しかし、社会・政治的概念なので曖昧であり、一体誰が本当に土地を管理しているかの性質を隠蔽している。 同時に憲法は土地を「国有化された」財産としてさし出そうとしており、政府は土地所有関係の総体を取り仕切る実体として、形式的にも実際的にも土地にかかわる様々な政治的な訴訟を包括することになる。 だから、始源的な所有者としての国家は、戦略的な資源(石油、ウラン等)の所有者であるばかりではなく、不動産関係における仲裁者としても活動している。 もう一つの文脈でとらえると、メキシコ憲法のモデル設定は国家的な計画は国家の覇権行使によるというモデル志 ﹇訳注6﹈向で、市民社会の各種分野、例えば五六部族の先住民からでる計画は否認する立場をとっていた。先住民の所有関係は資本主義的な背景のなかに組み込まれ、多くの場合、先住民自身の地域に対する権利、その内在する自然資源を含めて実際の始源的な所有者としての歴史的な権利があることは無視されてきた。 こうして、先住民共同体の土地の始源的な所有権は国家が握っていて、先住民はその用益権者に過ぎない。従って国家が計画を練り、その計画を国策に沿って策定すれば利権供与や収用の必要性を重視し、土地を含む先住民の地域90メキシコ新環境法への先住民の適応における既存の自然資源の全部が一方的な法律行為で処分されることになる。 実のところ、先住民とその団体は、企画においても、自らの地域における既存の資源の利用においても、周縁的な動きしかできないのである。 W-2 収用と先住民 収用は、憲法二七条がこれを定めた財産制度の基本的な部分である。それが発動するのは、公用のために、そして補償という手段で、実施され得る。先住民にとって、ほとんどの場合、収用とは基本的人権の侵害と言い換えてもよい。その施行法として挙げられるのは、一九三六年の一般収用法であるが、その第一条で収用が正当化される広汎なリストが列挙されているが、それに従って個々の収用が実施される。先住民に対する場合、政治的そして基本的には経済的な判断基準が優先され、「開発のために」という名目で民族に帰属する多くの地域と自然資源が収用された。つまり、ダム、道路、油田などの建設という名分である。 こうして、国家は公用性という大義名分を先住民共同体の社会的利益の上位に置いた。パパロアパン河川流域における「セロ・デ・オーロ」ダムの場合、チナンテコ族、ミステコ族、ミクセ族に帰属する一二の村落が強制移動されたのだが、収用適用の利害の対立を示すものである。 先住民にとって、収用は恣意的法律行為となるもので、公用性は国家と多国籍企業が開発を意図する経済的目的に降参してきた。 W13 利権供与と先住民 利権供与は、先住民に悪影響を与える憲法二七条が確立したもう一つの法制度である。その制定時の原文から、利権供与は、国家が個人及び民事・商事の社団に対して自然資源(戦略的性質の資源を除く)の運用と利益を供与する権利として設定された。 この憲法上の委任に形を整え、活力を与えるために、鉱業、石油、水、森林、漁業、野生動物、そして勿論、国有財産に関する施行法が、民間投資を刺激するための手段としての利権供与の体制を強化した。かくして、国家は、これら資源の開発の監視人1はなはだ非能率的だがーの役割を引受けている。 利権供与を規定する法律によると、先住民も自らの地域のなかで各種の資源を開拓する権利を取得できる建前にな91法学研究71巻12号(798:12)っていた。しかし、先住民が生きている社会経済的状況がそれを不可能にしている。先住民はその計画を具体化する手段を持っていないからである。先住民は国家目的を経済的に保証できない。そこで民族グループが居住する地域において重要な利権を取得するのは大企業ということになる。 利権の供与には重大な歴史的な矛盾がある。事実として先住民居住地域に自然資源があるというのに、民族グループの利益よりも外国の利益のために運用され、あとに残るのは農村生態系への一連の破壌のみである。 W14 憲法二七条に基づく先住民の民主的適応か、そ れとも体制への順応か (原注8) 先住民共同体への農業権の限定的な認定は、この国の五六の民族グループに対する本当の意味での民主的な確認ではない。この認定は国家による組織的な内包という域を出ていない。 憲法二七条によって、農村レベルの生産力は再調整された。かつて国家の社会経済面では周縁的に行動していた共同体は、国家の計画策定のなかに内包されるに至った。この点に関して、当の第二七条皿款はこう定めている。 「国は、雇用創出、農業人口への福祉の保証、国家の発展 への参加と一体化を期するために綜合的な農村開発の諸条件 を整備するものとする。また土地の最適利用のために、イン フラストラクチュア、資本投入、信用供与、訓練サービス及 び営農指導をもって農林業を振興する。さらに農業生産、農 産加工、市場開拓を、これら公益性を勘案し、計画し、組織 (原注9) 化するための施行法を制定するものとする。」 メキシコの経済成長モデルの間題点は、ほんの一握りのグループが利得するようにできているという非民主的な側面にある。同時に先住民に完全な人格を認めていないということは国法にも合致していないし、富の配分の不平等も筆者が問題にしているところである。先住民にとって問題は近代化や開発ではなく、資本家的論理の不公平なスタイルにあることは明らかである。 W15 新環境法の諸計画 既述のように、生態系均衡及び環境保護の一般法の改正で先住民人口にかかわるものを言えば、基本的に自然保護地域の定義になる。同法によれば、この地域空間の適用は、連邦政府の環境・自然資源・漁業省(SEMARNAP)の所轄になる。根拠条文の第四四条はこうなる。 「国土である諸地域並びに国が主権と領有権を行使する諸92メキシコ新環境法への先住民の適応地域であって、原始的な環境が著しく変更されていないところ、またはそれが保存されかつ回復されることを要するところは、本法に定められた規制及びその他すべての関連行政命令に服するものとする。 この自然保護地域における土地の所有者、占有者、その他土地、水、森林に対するなんらかの権利の所有者は、本法にもとづき、この地域を設定する政令が確立した方式に服する (原注10)ものとする。」 この規定は、国が先住民の地域に介入する垂直的なすなわち非民主的な性格を予告するものである。その性質上、保護されるべき地域を指定する差し迫った必要があることは疑いの余地がない。しかし、この種の政策の妥当性として先住民との合意を欠かせない。生態系文化の発展のためには帰属する民族グループを措いて誰がいるだろうか。 改正第四五条W款は、自然保護地域設定の目的について次のように配慮している。 「考古学的、歴史的、美術的な記念物、遺跡、観光地帯、 その他の娯楽、文化、国民的アイデンティティのために重要 な地域、ならびに先住民居住地域の自然環境を保護するた (原注n) め」ここでこんな質疑が出てくるだろう。どんな施策で先住 (原注12)民のアイデンティティは保護されるのか。この法自体が政府当局に当該保護地域内の現存資源の利権を供与する権限を与えており、さらに例えば森林開発の利権とか、もっと踏み込んで先住民村落が所在する自然保護地域に公用性の大義名分の下に収用というような法的手段が講ぜられたと (原注13)すれば、どうなるのかということである。 一方、法六七条の改正では「恩恵的に」-とりわけ1先住民が「自らの自然資源の管理人」になるというもので、この根拠規定は、明らかにメキシコの歴史と相反対なものであり、真に先住民の役割にふさわしいものである。 最後に、森林、野生生物、水などの資源の利用について、 (原注14)この法改正をもって、先住民は「潜在的な犯罪者」の立場に置かれることもあり得る。これら民族グループが自らの環境(漁労ー狩猟と環境占有の活動)と保持している文化的な関係が知られていないからであったり、何十年にわたり多国籍企業や圧力団体が先住民居住地域に現存する資源の多くを収奪し、それが生態系に明らかなインパクトを与 (原注15)えてきたこともまだ十分に認識されていないためであったりであろう。 環境法の修正と追加が近代化政策という枠組のなかで行なわれたことは疑いの余地がない。そのことが改正の精神93法学研究71巻12号(’98:12) (原注16)とは裏腹に先住民人口の生存を深刻に脅かしている。この点に関して、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(英 (原注17)略ECLAC、西略CEPAL)の資料によると、ラテンアメリカでは貧者の数が一九八○年の一億三三〇〇万人から一九九七年の二億一〇〇〇万人に増えており、その中に極貧(o答おヨ①Oo<R姶)という用語が登場しているが、それに該当するのが先住民と周縁的な都市近郊住民であろう。むすび 1、環境法の修正と追加がサパティスタ民族解放軍(EZLN)が展開した社会的紛争を背景とするものであることが事実とすれば、改正法の意思表示は単に宣言的なもので、いずれにしても、先住民の自治的成長に替わる代替的要素にはならないことも事実であろう。 H、すべての持続的な生態系及び環境上の改正は、有史以前からメキシコの砂漠やジャングルや森林に棲み、形式的なものばかりでなく、主人公としてであり、それが故に先住民は自己に帰属する資源のすべてに本当の権利があるのだということを認識すべきである。 皿、およそ有効な生態系及び環境の改正とは、先住民居住地域にある自然資源は始源的には先住民に帰属するものなので、先住民の自立、自治、慣習法適用の要求が実現して始めて本物になるであろう。原注(1) エルネスト・セディリョ(セディジョという読み方も ある)大統領が、生態系均衡及び環境保全のための一般法 に加えた修正と追加、一九九六年一二月一三日付連邦官報 で公布。(2) 一九九七年四月ニューヨークで開催された持続可能の 開発サミットで環境問題では国際合意でも国内指針でも前 進がみられたが、環境被害はより深く進行し、貧困も増え 続いている。O貰四獣霧)脳三す、、ピ曽臼Oヨ帥α四..U巴一ざω讐. >℃ユ一一ρ一〇〇SPNQo。(3) ピZ」●(ヲ窪ε8Z餌99巴ヲ9鴨三ω3の略。国家 先住民族保護院)、、Z魯一g巴ギo唱曽ヨ8『チoU雲巴o亨 ヨ①三〇噛9①ぎ良鵬oコo仁の℃oO包象一〇昌一〇〇一-一〇漣..ぎOや ミ恥§ご陣融篭oきくo一’自Zo●Goり寓貰o『一8ドPωO①■(4)勺力OZ>ω〇一(ギo嬢四ヨmZ8一〇轟一α①ωoま曽一往包 国家連帯計画の略yO8窪三<①089芦寓①惹8」8ド Pお。94メキシコ新環境法への先住民の適応(5)RO§ミミ、逗ミミ脳§O§簑勲遮069..凶且蒔窪o犀ω )oO三讐凶o昌津①ヨω、、)O窪①『巴ω仁ヨヨ碧ざOP①06伊(6)贈O§吻O卜O§防ミき恥◎§§貴OP95も・OP(7)一びこ①ヨ。(8) O§動融誉、融ミ象導鳴ミ恥蔑ら匙醤qミ融織防誉融勲閏島件o『- 一巴℃o『毎勲竃o圏8レ8刈導Pω“’(9) 先住民の農業問題は潜在しており、農地改革省のデー タによれば、二一〇〇万人先住民のうち、僅か三六万四一〇九人が認定された農業権を持っているに過ぎない。ここ にいう農業権とはエヒードやインディオ共同体の割当地に対する農民の権利を指す(この制度については、石井陽一 「メキシコ憲法第二七条の改正とその背景」平成五年一〇月『法学研究』第六七巻第一〇号九六頁、九七頁参照)。 Oい閃08ざO費一〇冨㌦.>ヨ①昌αω8些oOoコω簿耳一〇口巴>旨凶・ O一①N刈、、い①9仁おぎ 9Φ目歪80ユ①ω99①Z帥島O昌巴 >質四曼閃oコ』ヨ”C>O質﹈≦①邑8}一8鱒P8。(10) 肉らミ轟魯ミ切ミ亀ミ鳴黛ミ織肉ミ蔑、§ミ鴨ミミ、\ミ禽織§ O§ミミト亀ミ(西語原名はい魯09震巴亀色国ρ亀ま円δω8一ひ鴨8『鍔牢o辞①8陣魯巴>ヨ獣o耳①)曽国象8『一巴Uoー ロ巴ヨ蝉」8SPGo9(n)凶甕窪も魯ω一。(12) あるインディヘニスタ(先住民擁護論者)の講演にも、 先住民は自らの歴史をつくることも許されていないという 一節がある。9.Uξきα≧鼠旨巽僧O餌ユ8鴇き匙§ 肉耐ミω嘗ミ恥ざ8…、§匙§籟謁斜ミ⇔・国象8ユ巴O>O鼻 一≦Φ×一8」8ド(13) 閏oo一〇笹o巴ω巴帥昌808R巴ピ曽チOPΩけ>&o一①O“玄巴(六四条補項1y(14) 国oo一〇臓o巴ω巴餌昌802震巴ピ餌ヨOPΩけ>三〇一①ωお一写8餓o諺ヌきα)((七九条眠款及びX款)”一8“ 一〇9一①P帥5傷嵩O。(15) 危機のインパクトが、この国の先住民居住地帯では、飢餓、挫折、死亡などが連鎖発生するので、一段と強いも のになる。パブロ・ムエンチ・ナバーロは、この国の南部地方の農村地帯で起きた一連の不幸として、社会的周縁、動物及び植物種の紛失、森林に対する牧草地の導入、植物衛生上の問題の発生、生態系の交替、ある地方では取り返しのつかない損害が発生、六ヵ月間にわたり食糧自給の困難、経済的かつ福祉面のレベルの低下と停滞、共同体に対 する政府及び圧力グループからのより強い威圧、これらの問題を増やす近代化、土着文化の喪失などが一挙に発生し たことを指摘している。原因は農村の現実の外側にあり、 そして政府側の問題はその財政能力の低下にある。問題は政府の手の及ばないところにあり、発生しなかったなら、 そのプロセスを戻せない時期に近付いている。O一 寓⊆29Z餌毒旨ρ℃鋤巨o..Sミ山晦こミo§蹄、肉ミ鵯言鳴ミ95法学研究71巻12号(’98:12) ≧ミ魯織きミ貼↓こ豊霧、、d>O据霞①x一8」OooO)P認●(16) スタベンハーゲン(コレヒオ・デ・メヒコ大学院大学 教授、ユダヤ系メキシコ人)は、共同体における変化はー資本主義体制に組み込まれるまでは1恒常的にイン パクトを蒙るシナリオの中で変化が起っていると指摘して いる。ω鼠く窪7②鴨PO亀ミミ塁ミ℃』口ξ一鈎ご旨● ヨ①×凶oρP一〇〇。(17) O国℃>い“』ミミミミ肉電ミ卦ヨ①×一8」OOGo一P8,訳注﹇1﹈ ラテンアメリカニ○ヵ国のなかで、メキシコは、ベネ ズエラ、ブラジル、アルゼンチンと共に連邦国家である。 連邦、州(国の33)、連邦直轄区(O一の三90零号声一)、 郡(霞⊆三ユ豆o)からなる。郡は米国でいえば8qコ蔓に あたる。郡は都市部である一つの市o凶且畳と農村部分 8轟歪轟一から成る。大きな先住民共同体8ヨ躍忌α区 ぎ象鵯轟はそれ自体行政区分としての郡と一致している 場合がある。郡の集合から州が構成される。首都メキシコ は、米国の≦器7ぎ讐80.ρと同様、連邦直轄区であり、 霞曾一8U扇●となる。﹇2﹈ オーギュスト・コント(一七九八〜一八五七)の実証 主義哲学は、一九世紀後半のラテンアメリカの知識人の間 に熱狂的な人気があり、メキシコではコントの弟子ガビノ ・バレダが紹介したが、ポルフィリオ・ディアス独裁体制 (一八七七〜一九一〇)の下では、シエンティフィコと称 するコントやハーバード・スペンサーの実証主義に社会的 ダーウィニズムを混合した理論の信奉者達が取り巻きのブ レーンになった。それは、秩序、科学、進歩の理念のなか に人種差別を内包し、インディオを劣等、白人を優越視す る人種観をもっていた。メキシコ革命はディアス独裁体制 のアンチテーゼなので、このメキシコ流実証主義は、メキ シコ革命の終結と共に清算されたと考えられ勝ちである。 少なくともわが国ではそう考えられてきた。 しかし、本稿の筆者が訳者に語ったところでは、現在で もこの伝統は根強く残っており、万年与党の制度的革命党 (PRI)の幹部のほとんどは実証主義者の考え方を持っ ているということであった。メキシコ革命を制度化すると いう名称の政党の幹部がメキシコ流実証主義者であるとい うことはメキシコ革命とは一体なんであったのかをあらた めて考えさせられる。﹇3﹈ メキシコ憲法第四条の訳文は、石井陽一「I」0条約 とラテンアメリカ諸国の先住民法iアイヌ新法との比較 を含めてー」(平成一〇年一月『法学研究』第七一巻一 号、二四六頁)参照。﹇4﹈メキシコの法文は、条(費浮三〇)、項(忌霞臥o)、96 号(ぎ9ωo)のほかに、款(騰声8一曾)という区分がある。 また改正法の場合、補条、補項(獣ω)がある。﹇5﹈ メキシコ革命の仕上げとして制定された当時の一九一 七年憲法の立法者の意図は、国家が始源的所有権を持つと いうことで、大地主から土地を接収し易くする農地改革目 的があった。それが次第に先住民から土地を接収する根拠 として悪用されたようである。﹇6﹈ 五六部族とは五六の別々の言語をもつ部族を指す。い ずれも文字はない。メキシコにはスペイン語を知らず、部 族語だけで生活している先住民が未だに百万人余いる。メキシコ新環境法への先住民の適応97
未分類
韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕
韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕▲一=太田達也韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕韓国・家庭暴力犯罪の処罰等に関する特例法一九九七年一二月ニニ日法律第五四三六号 第一章 総 則第一条【目的】この法律は、家庭暴力犯罪の刑事処罰手 続に関する特例を定め、家庭暴力犯罪を犯した者に対し、 環境の調整及び性格の矯正のための保護処分を行うこと により、家庭暴力犯罪で破壊された家庭の平和及び安定 を回復し、健康な家庭を育成することを目的とする。第二条【定義】 この法律で使用する用語の定義は、次の通りとする。一 「家庭暴力」とは、家庭構成員間の身体的、精神的 又は財産上の被害を伴う行為をいう。二 「家庭構成員」とは、次の各目の一に該当する者を いう。 イ 配偶者(事実上婚姻関係にある者を含む。以下同 じ。)又は配偶者関係にあった者 ロ 自己若しくは配偶者と直系尊卑属関係(事実上の 養親子関係を含む。以下同じ。)にあるか、又はあ った者 ハ 継父母と子の関係若しくは嫡母と庶子の関係にあ るか、又はあった者 二 同居する親族関係にある者61法学研究71巻12号(ヲ98:12) 七条(傷害、尊属傷害)、第二五八条(重傷害、尊 属重傷害)、第二六〇条(暴行、尊属暴行)第一項 ・第二項、第二六一条(特殊暴行)及び第二六四条 (常習犯)の罪 一条(遺棄、尊属遺棄)第一項・第二項、第二七二 条(嬰児遺棄)、第二七三条(虐待、尊属虐待)及 び第二七四条(児童酷使)の罪 六条(逮捕、監禁、尊属逮捕、尊属監禁)、第二七 七条(重逮捕、重監禁、尊属重逮捕、尊属重監禁)、 第二七八条(特殊逮捕、特殊監禁)、第二七九条 (常習犯)(第二七六条、第二七七条の罪に限る。) 及び第二八O条(未遂犯)(第二七六条乃至第二七 九条の罪に限る。)の罪 迫、尊属脅迫)第一項・第二項、第二八四条(特殊 脅迫)、第二八五条(常習犯)(第二八三条の罪に限 一に該当する罪をいう。 イ 刑法第二編第二五章傷害及び暴行の罪中、第二五三 「家庭暴力犯罪」とは、家庭暴力により次の各目の ロ 刑法第二編第二八章遺棄及び虐待の罪中、第二七 ハ 刑法第二編第二九章逮捕及び監禁の罪中、第二七 二 刑法第二編第三〇章脅迫の罪中、第二八三条(脅 る。)及び第二八六条(未遂犯)の罪 ホ 刑法第二編第三三章名誉に関する罪中、第三〇七 条(名誉殿損)、第三〇八条(死者の名誉段損)、第 三〇九条(出版物等による名誉段損)及び第三二 条(侮辱)の罪 へ 刑法第二編第三六章住居侵入の罪中、第三二一条 (住居・身体捜索)の罪 ト 刑法第二編第三七章権利行使を妨害する罪中、第 三二四条(強要)及び第三二四条の五(未遂犯) (第三二四条の罪に限る。)の罪 チ 刑法第二編第三九章詐欺及び恐喝の罪中、第三五 〇条(恐喝)及び第三二五条(未遂犯)(第三五〇 条の罪に限る。)の罪 リ 刑法第二編第四二章損壊の罪中、第三六六条(財 物損壊等)の罪 ヌ 児童福祉法第一八条第二号に違反した罪 ル イ目乃至リ目の罪として、他の法律により加重処 罰される罪四 「家庭暴力行為者」とは、家庭暴力犯罪を犯した者 及び家庭構成員たる共犯(以下「行為者」という。) をいう。62韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 五 「被害者」とは、家庭暴力犯罪により直接的に被害 を被った者をいう。 六 「家庭保護事件」とは、家庭暴力犯罪により、この 法律による保護処分の対象となる事件をいう。 七 「保護処分」とは、法院が、家庭保護事件に対し、 審理を経て行為者に科す第四〇条の規定による処分を いう。第三条【他の法律との関係】 家庭暴力犯罪に対しては、 この法律を優先して適用する。第二章 家庭保護事件 第一節 通 則第四条【申告義務等】①何人も、家庭暴力犯罪を知るに 至ったときは、これを捜査機関に申告することができる。②次の各号の一に該当する者が、職務を遂行中、家庭暴 力犯罪を知るに至った場合には、正当な理由がない限り、 これを直ちに捜査機関に申告しなければならない。 一 児童の教育及び保護を担当する機関の従事者並びに その長 二 児童、六〇歳以上の老人その他正常な判断能力が欠 如した者の治療等を担当する医療者及び医療機関の長 三 老人福祉法による老人福祉施設、児童福祉法による 児童福祉施設、障害者福祉法による障害者福祉施設の 従事者及びその長③児童福祉法による児童相談所、家庭暴力防止及び被害 者保護等に関する法律による家庭暴力関連相談所及び保 護施設、性暴力犯罪の処罰及び被害者保護等に関する法 律による性暴力被害相談所及び保護施設(以下「相談所 等」という。)に勤務する相談員並びにその長は、被害 者又は被害者の法定代理人等との相談を通じて家庭暴力 犯罪を知るに至った場合には、これを直ちに申告しなけ ればならない。④何人も、第一項乃至第三項の規定により家庭暴力犯罪 を申告した者(以下「申告者」という。)に対し、その 申告行為を理由として不利益を与えてはならない。第五条【家庭暴力犯罪に対する応急措置】 進行中の家庭 暴力犯罪に対し、申告を受けた司法警察官吏は、直ちに 現場へ臨場し、次の各号の措置を取らなければならない。 一 暴力行為の制止及び犯罪捜査 二 被害者の家庭暴力関連相談所又は保護施設への引渡 (被害者の同意がある場合に限る。)63法学研究71巻12号(}98:12) 三 緊急治療が必要な被害者の医療機関への引渡 四 暴力行為の再発時、第八条の規定により臨時措置を 申請することができることの通知第六条【告訴に関する特例】①被害者又はその法定代理 人は、行為者を告訴することができる。被害者の法定代 理人が行為者である場合、又は行為者と共同して家庭暴 力犯罪を犯した場合には、被害者の親族が告訴すること ができる。② 被害者は、刑事訴訟法第二二四条の規定にかかわらず、 行為者が自己又は配偶者の直系尊属である場合にも、告 訴することができる。法定代理人が告訴する場合も同様 とする。③被害者に告訴する法定代理人又は親族がいない場合、 利害関係人の申請があれば、検事は一〇日以内に告訴す ることができる者を指定しなければならない。第七条【司法警察官の事件送致】 司法警察官は、家庭暴 力犯罪を迅速に捜査し、事件を検事に送致しなければな らない。この場合、司法警察官は、当該事件を家庭保護 事件として処理することが相当か否かに関する意見を提 示することができる。第八条【臨時措置の請求】 検事は、第五条の規定による 応急措置にもかかわらず、家庭暴力犯罪が再発する虞が あると認めるときは、職権又は司法警察官の申請により、 第二九条第一項第.号又は第二号の臨時措置を法院に請 求することができる。第九条【家庭保護事件の処理】 検事は、家庭暴力犯罪と して、事件の性質・動機及び結果、行為者の性格等を考 慮し、この法律による保護処分に処することが相当であ ると認めるときは、家庭保護事件として処理することが できる。この場合、検事は被害者の意思を尊重しなけれ ばならない。第一〇条【管轄】①家庭保護事件の管轄は、行為者の行 為地・居住地又は現在地を管轄する家庭法院とする。但 し、家庭法院が設置されていない地域においては、該当 地域の地方法院(支院を含む。以下同じ。)とする。② 家庭保護事件の審理及び決定は、単独判事(以下「判 事」という。)が行う。第二条【検事の送致】①検事は、第九条の規定により 家庭保護事件として処理する場合には、その事件を管轄 家庭法院又は地方法院(以下「法院」という。)に送致 しなければならない。②検事は、家庭暴力犯罪とその他の犯罪が競合するとき64韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 は、家庭暴力犯罪に対する事件のみを分離し、管轄法院 に送致することができる。第一二条【法院の送致】 法院は、行為者に対する被告事 件を審理した結果、この法律による保護処分に処するこ とが相当であると認めるときは、決定をもって、事件を 家庭保護事件の管轄法院に送致することができる。この 場合、法院は、被害者の意思を尊重しなければならない。第=二条【送致時の身柄処理】①第二条第一項又は第 一二条の規定による送致決定がある場合、行為者を拘禁 している施設の長は、検事の移送指揮を受けた時から、 第一〇条の規定による管轄法院がある市(特別市及び広 域市を含む。以下同じ。)・郡では二四時間以内に、そ の他の市・郡では四八時間以内に、行為者を管轄の法院 に引き渡さなければならない。この場合、法院は、行為 者に対し、第二九条の規定による臨時措置の適否を決定 しなければならない。②第一項の規定による引渡及び決定は、刑事訴訟法第九 二条、第二〇三条又は第二〇五条の拘束期間内になさな ければならない。③拘束令状の効力は、第一項後段の規定により臨時措置 の適否を決定したときに失ったものとみなす。第一四条【送致書】①第二条及び第二一条の規定によ り事件を家庭保護事件として送致する場合には、送致書 を送付しなければならない。②第一項の送致書には、行為者の姓名・住所・生年月日 ・職業・被害者との関係、行為の概要及び家庭状況を記 載し、その他参考資料を添付しなければならない。第一五条【移送】①家庭保護事件を送致された法院は、 事件がその管轄に属さず、又は適正な調査・審理のため 必要と認めたときは、決定をもって、当該事件を直ちに 他の管轄法院へ移送しなければならない。②法院は、第一項の規定による移送決定をしたときは、 遅滞なく、その理由を添付し、行為者、被害者及び検事 に通知しなければならない。第一六条【保護処分の効力】第四〇条の規定による保護 処分が確定したときは、その行為者に対し、同一の犯罪 事実で再び公訴を提起することはできない。但し、第四 六条の規定により送致された場合は、この限りでない。第一七条【公訴時効の停止と効力】①家庭暴力犯罪に対 する公訴時効は、当該家庭保護事件が法院に送致された 時から時効の進行が停止し、その事件に対する第三七条 第一項の不処分の決定(第一号及び第二号の事由による65法学研究71巻12号(ラ98:12) 決定に限る。)が確定したとき、又は第二七条第二項・ 第三七条第二項及び第四六条の規定により送致されたと きから進行する。②共犯の一人に対する第一項の時効停止は、他の共犯者 に対して効力が及ぶ。第一八条【秘密厳守等の義務】①家庭暴力犯罪の捜査若 しくは家庭保護事件の調査・審理及びその執行を担当し、 又はそれに関与する公務員、補助人若しくは相談所等に 勤務する相談員及びその長(その職にあった者を含む。) は、その職務上知り得た秘密を漏泄してはならない。②この法律による家庭保護事件に対しては、行為者、被 害者、告訴人・告発人若しくは申告人の住所・姓名・年 齢・職業・容貌、その他これらを特定し、把握すること のできる人的事項若しくは写真等を新聞等の出版物に掲 載し、又は放送媒体を通じて放送することができない。 第二節調査・審理第一九条【調査・審理の方向】 法院が家庭保護事件を調 査・審理するにあたっては、医学・心理学・社会学・社 会福祉学その他の専門的な知識を活用し、行為者・被害 者その他家庭構成員の性格・経歴・家庭状況並びに家庭 暴力犯罪の動機・原因及び実態等を明らかにし、この法 律の目的を達成することができる適正な処分がなされる よう努力しなければならない。第二〇条【家庭保護事件調査官】①家庭保護事件の調査 ・審理のため、法院に家庭保護事件調査官(以下「調査 官」という。)を置く。②調査官の資格・任免その他必要な事項は、大法院規則 で定める。第一二条【調査命令】 判事は、調査官に、行為者・被害 者及び家庭構成員の審間又は家庭暴力犯罪の動機・原因 及び実態等の調査を命ずることができる。第ニニ条【専門家の意見照会】①法院は、精神科医師・ 心理学者・社会学者・社会福祉学者その他の関連の専門 家に、行為者・被害者又は家庭構成員の精神・心理状態 に対する診断所見及び家庭暴力犯罪の原因に関する意見 を照会することができる。② 法院は、家庭保護事件を調査・審理するにあたって、 第一項の規定による意見照会の結果を参酌しなければな らない。第二三条【陳述拒否権の告知】 判事又は調査官は、家庭 保護事件を調査するとき、予め、行為者に対し、不利な66韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 陳述を拒否することができることを知らせなければなら ない。第二四条【召喚及び同行令状】①判事は、調査・審理に 必要と認めたときは、期日を指定し、行為者・被害者・ 家庭構成員その他参考人を召喚することができる。②判事は、行為者が正当な理由なく第一項の規定による 召喚に応じなかったときは、同行令状を発付することが できる。第二五条【緊急同行令状】 判事は、行為者が召喚に応じ ない虞があり、又は被害者の保護のため緊急に必要があ ると認める場合には、第二四条第一項の規定による召喚 なしに同行令状を発付することができる。第二六条【同行令状の方式】 同行令状には、行為者の姓 名・生年月日・住居、行為の概要、引致又は収容すべき 場所、有効期間及びその期間経過後には執行に着手でき ず、令状を返還しなければならない旨並びに発付年月日 を記載し、判事が署名・捺印しなければならない。第二七条【同行令状の執行等】①同行令状は、調査官、 法院の法院書記官・法院事務官・法院主事・法院主事補 (以下「法院公務員」という。)又は司法警察官吏をして これを執行させることができる。②法院は、行為者の所在不明により一年以上、同行令状 を執行することができなかった場合、事件を管轄法院に 対応する検察庁の検事に送致することができる。③法院は、同行令状を執行するときは、その事実を直ち に行為者の法定代理人又は補助人に通知しなければなら ない。第二八条【補助人】①行為者は、自らの家庭保護事件に 対し、補助人を選任することができる。②弁護士、行為者の法定代理人・配偶者・直系親族・兄 弟姉妹及び戸主、相談所等の相談員及びその長は、補助 人になることができる。但し、弁護士でない者を補助人 に選任しようとするときは、法院の許可を得なければな らない。③第二項の規定により選任された弁護士でない補助人は、 金品・饗応その他の利益を得、若しくは得ることを約束 し、又は第三者にこれを供与させ、若しくは供与させる ことを約束してはならない。④法院は、行為者が刑事訴訟法第三三条各号の一に該当 するときは、職権で弁護士を行為者の補助人に選任する ことができる。⑤第四項の規定により選任された補助人に支給する費用67法学研究71巻12号(798:12) に対しては、刑事訴訟費用法を準用する。第二九条【臨時措置】①判事は、家庭保護事件の円滑な 調査・審理又は被害者の保護のため必要と認めたときは、 決定をもって、行為者に次の各号の一に該当する臨時措 置をすることができる。 一 被害者又は家庭構成員の住居又は占有する居室から の退去等の隔離 二 被害者の住居、職場等から一〇〇メートル以内への 接近禁止 三 医療機関その他療養所への委託 四 警察官署留置場又は拘置所への留置② 同行令状により同行された行為者又は第二二条の規定 により引き渡された行為者に対しては、行為者が法院に 引致されたときから二四時間以内に第一項の措置の適否 を決定しなければならない。③法院は、第一項の規定による措置を決定したときは、 これを被害者に通知しなければならない。④法院は、第一項第三号又は第四号の措置をしたときは、 その事実を、行為者の補助人がいる場合には補助人に、 補助人がいない場合には法定代理人又は行為者が指定し た者に通知しなければならない。この場合、第一項第四 号の措置をしたときは、行為者に、弁護士等の補助人を 選任することができるとともに、第四九条第一項の抗告 を提起することができることを告知しなければならない。⑤第一項第一号・第二号の隔離及び接近禁止期間は二月、 同項第三号・第四号の委託及び留置期間は一月を超える ことができない。但し、被害者の保護のため、その期間 の延長が必要と認める場合には、決定をもって、一回に 限り、各期間の範囲内でこれを延長することができる。⑥第一項第三号の委託をする場合には、医療機関等の長 に、行為者を保護するのに必要な事項を賦課することが できる。⑦民間が運営する医療機関等に対し委託しようとすると きは、第六項の規定により賦課する事項をその医療機関 等の長に予め告知し、同意を得なければならない。⑧判事は、第一項各号に規定された臨時措置の決定をし たときは、調査官、法院公務員、司法警察官吏又は拘置 所所属矯正職公務員をして、これを執行させることがで きる。⑨ 行為者、その法定代理人又は補助人は、第一項の規定 による臨時措置決定の取消又はその種類の変更を申請す ることができる。68韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕⑩判事は、職権又は第九項の規定による申請に相当な理 由があると認めるときは、決定をもって、当該臨時措置 を取り消し、又はその種類を変更することができる。⑪第一項第三号の委託の対象となる医療機関及び療養所 の基準その他必要な事項は、大法院規則で定める。第三〇条【審理期日の指定】①判事は、審理期日を指定 し、行為者を召喚しなければならない。この場合、判事 は、家庭保護事件の要旨及び補助人を選任することがで きる旨を予め告知しなければならない。②第一項の審理期日は、補助人及び被害者に通知しなけ ればならない。第三一条【審理期日の変更】 判事は、職権又は行為者若 しくは補助人の請求により、審理期日を変更することが できる。この場合、変更された期日を行為者・被害者及 び補助人に通知しなければならない。第…一条【審理の非公開】①判事は、家庭保護事件を審 理するにあたって、私生活保護若しくは家庭の平和及び 安定のため必要であり、又は善良の風俗を害する虞があ ると認めるときは、決定をもって、これを公開しないこ とができる。②証人として召喚された被害者又は家庭構成員は、私生 活保護又は家庭の平和及び安定の回復を理由とし、判事 に対し、証人尋問の非公開を申請することができる。こ の場合、判事は、その許可の適否、公開法廷外の場所で の尋問等証人尋問の方式及び場所に関して決定をするこ とができる。第三三条【被害者の陳述権等】①法院は、被害者の申請 がある場合には、その被害者を証人として尋問しなけれ ばならない。但し、次の各号の一に該当する場合は、こ の限りでない。 一 申請者が既に審理手続で十分に陳述し、更に陳述す る必要がないと認められる場合 二 申請者の陳述により審理手続が著しく遅れる虞があ る場合②法院は、第一項の規定により被害者を尋問する場合に は、当該家庭保護事件に関する意見を陳述する機会を与 えなければならない。③法院は、審理にあたって必要と認めたときは、被害者 又は調査官に意見を陳述し、又は資料の提出を求めるこ とができる。この場合、判事は、公正な意見陳述等のた め必要と認めたときは、行為者の退場を命じることがで きる。69法学研究71巻12号(’98:12)④第一項乃至第三項の場合、被害者は、弁護士、法定代 理人・配偶者・直系親族・兄弟姉妹・戸主、相談所等の 相談員又はその長をして、代わりに意見を陳述させるこ とができる。⑤ 第一項の規定による申請者が、召喚を受けても、正当 な理由なく出席しなかったときは、その申請を撤回した ものとみなす。第三四条【証人尋問・鑑定・通訳・翻訳】①法院は、証 人を尋問し、鑑定を命じるとともに、通訳又は翻訳をさ せることができる。②刑事訴訟法中、法院の証人尋問、鑑定・通訳及び翻訳 に関する規定は、家庭保護事件の性質に反しない範囲で、 第一項の場合にこれを準用する。③証人・鑑定人・通訳人・翻訳人に支給する費用・宿泊 料その他の費用に対しては、刑事訴訟法中の費用に関す る規定及び刑事訴訟費用法を準用する。第三五条【検証・押収・捜索】①法院は、検証・押収及 び捜索をすることができる。②刑事訴訟法中、法院の検証・押収及び捜索に関する規 定は、家庭保護事件の性質に反しない範囲で、第一項の 場合にこれを準用する。第三六条【協力・援助】①法院は、家庭保護事件の調査 ・審理に必要な場合、関係行政機関、相談所等又は医療 機関その他の団体に対し、協力及び援助を要請すること ができる。② 第一項の要請を受けた関係行政機関、相談所等又は医 療機関その他の団体が、その要請を拒否するときは、正 当な理由を提示しなければならない。第三七条【不処分の決定】①判事は、家庭保護事件を審 理した結果、次の各号の一に該当するときは、処分をし ないという決定をしなければならない。 被害者の告訴があって初めて公訴を提起することが でき、又は被害者の明示の意思に反して公訴を提起で きない家庭暴力犯罪のみを対象とする家庭保護事件に 対して、告訴が取り消され、又は被害者が処罰を希望 しない明示的な意思表示をしたとき ないと認めたとき に照らし、家庭保護事件として処理することが適当で ないと認めたとき②法院は、第】項第三号の理由により不処分の決定をし 二 保護処分をすることができないか、又はする必要が 三 事件の性質・動機及び結果、行為者の性格・習癖等70韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 たときは、事件を管轄法院に対応する検察庁の検事に送 致しなければならない。③第一項の規定による決定をしたときは、これを行為者、 被害者及び検事に通知しなければならない。第三八条【処分の期間等】 家庭保護事件に対しては、他 の争訟に優先して迅速に処理しなければならない。この 場合、処分の決定は、特別な理由がない限り、送致され た日から三箇月以内に、移送された場合には、移送され た日から三箇月以内にしなければならない。第三九条【委任規定】 家庭保護事件の調査・審理に関し て必要な事項は、大法院規則で定める。 第三節 保護処分第四〇条【保護処分の決定等】① 判事は、審理の結果、 保護処分が必要と認めたときは、決定をもって、次の各 号の一に該当する処分をすることがてきる。 五 一四一 一 一 _ 一行為者が被害者に接近する行為の制限親権者たる行為者の被害者に対する親権行使の制限保護観察等に関する法律による社会奉仕・受講命令保護観察等に関する法律による保護観察家庭暴力防止及び被害者保護等に関する法律が定め る保護施設への監護委託 六 医療機関への治療委託 七 相談所等への相談委託②第一項各号の処分は、これを併科することができる。③第一項第二号の処分をする場合には、被害者を他の親 権者若しくは親族又は適当な施設に引き渡すことができ る。④法院は、保護処分の決定をしたときは、遅滞なく、そ の事実を検事、行為者、被害者、保護観察官及び保護処 分を委託されて行う保護施設、医療機関又は相談所等 (以下「受託機関」という。)の長に通知しなければなら ない。但し、受託機関が民間によって運営される機関で ある場合には、その機関の長から受託に対する同意を得 なければならない。⑤第一項第三号乃至第七号の処分をしたときは、行為者 の矯正に必要な参考資料を保護観察官又は受託機関の長 に送付しなければならない。第四一条【保護処分の期間】第四〇条第一項第一号・第 二号及び第四号乃至第七号の保護処分の期間は六月を超 えることができず、同項第三号の社会奉仕・受講命令は 一〇〇時間をそれぞれ超えることができない。71法学研究71巻12号(’98=12)第四二条【没収】 判事は、保護処分をする場合に、決定 をもって、家庭暴力犯罪に供し、又は供しようとした物 件として、行為者以外の者の所有に属さない物件を没収 することができる。第四三条【保護処分決定の執行】①法院は、調査官、法 院公務員、司法警察官吏、保護観察官又は受託機関所属 職員をして、保護処分の決定を執行させることができる。②保護処分の執行にあたり、この法律に定めのない事項 に対しては、家庭保護事件の性質に違反しない範囲で、 刑事訴訟法、保護観察等に関する法律及び精神保健法を 準用する。第四四条【報告と意見提出等】 法院は、第四〇条第一項 第三号乃至第七号の保護処分を決定したときは、保護観 察官又は受託機関の長に対し、行為者に関する報告書又 は意見書の提出を要求することができ、その執行に対し て必要な指示をすることができる。第四五条【保護処分の変更】①法院は、保護処分が進行 する間、必要と認めるときは、職権、保護観察官又は受 託機関の長の請求に従い、決定をもって、一回に限り、 保護処分の種類及び期間を変更することができる。②第一項の規定により保護処分の種類及び期間を変更す る場合、従前の処分期間を合算し、第四〇条第一項第一 号・第二号及び第四号乃至第七号の保護処分期間は一年 を、同項第三号の社会奉仕・受講命令期間は二〇〇時間 をそれぞれ超えることができない。③第一項の処分変更の決定があるときは、遅滞なく、そ の事実を行為者、法定代理人、補助人、被害者、保護観 察官及び受託機関に通知しなければならない。第四六条【保護処分の取消し】 法院は、保護処分を受け た行為者が第四〇条第一項第三号乃至第七号の保護処分 の決定を履行せず、又はその執行に応じないときは、職 権、被害者の請求、保護観察官又は受託機関の長の申請 により、決定をもって、その保護処分を取り消し、事件 を対応する検察庁の検事に送致しなければならない。第四七条【保護処分の終了】 法院は、行為者の性格が矯 正され、正常な家庭生活を維持することができると判断 し、又はその他保護処分を継続する必要がないと認めた ときは、職権、被害者の請求、保護観察官又は受託機関 の長の申請により、決定をもって、保護処分の全部又は 一部を終了することができる。第四八条【費用の負担】①第二九条第一項第三号の規定 による委託決定又は第四〇条第一項第六号及び第七号の72韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 保護処分を受けた行為者は、委託又は保護処分に必要な 費用を負担する。但し、行為者に支払う能力がないとき は、国家がこれを負担することができる。②判事は、行為者に対し、第一項本文の規定による費用 の前納を命ずることができる。③第一項の規定により行為者が負担すべき費用の計算、 請求及び支払手続その他必要な事項は、大法院規則で定 める。 第四節抗告及び再抗告第四九条【抗告】①第八条又は第二九条の規定による臨 時措置(延長又は変更の決定を含む。以下同じ。)、第四 〇条の保護処分、第四五条の保護処分の変更及び第四六 条の保護処分の取消において、その決定に影響を及ぽす 法令違反があり、若しくは重大な事実誤認があるとき、 又はその決定が著しく不当であるときは、行為者、法定 代理人又は補助人は、家庭法院本院合議部に抗告するこ とができる。但し、家庭法院が設置されていない地域で は、地方法院本院合議部にしなければならない。②法院が第三七条の規定より不処分の決定をした場合、 その決定が著しく不当であるときは、被害者又はその法 定代理人は抗告することができる。この場合、抗告法院 に関しては、第一項の規定を準用する。③抗告の提起期間は、その決定を告知された日から七日 とする。第五〇条【抗告状の提出】①抗告をするにあたっては、 抗告状を原審法院に提出しなければならない。②抗告状を提出された法院は、三日以内に意見書を添付 し、記録を抗告法院に送付しなければならない。第五一条【抗告の裁判】①抗告法院は、抗告の手続が法 律に違反し、又は抗告に理由がないと認めたときは、決 定をもって抗告を棄却しなければならない。②抗告法院は、抗告に理由があると認めたときは、原決 定を取り消して、事件を原審法院に差し戻し、又は他の 管轄法院に移送しなければならない。この場合、差戻し 若しくは移送が急迫に過ぎ、又はその他必要と認めたと きは、原決定を破棄し、自ら相当な臨時措置、不処分又 は保護処分の決定をすることができる。第五二条【再抗告】①抗告の棄却決定に対しては、その 決定が法令に違反したときに限り、大法院に再抗告をす ることができる。②第四九条第三項の規定は、第一項の再抗告にこれを準73法学研究71巻12号(’98二12) 用する。第五三条【執行の不停止】 抗告及び再抗告は、決定の執 行を停止する効力を有しない。第五四条【終決した事件記録等の送付】 法院は、家庭保 護事件が終決したときは、遅滞なく、事件記録及び決定 書を対応する検察庁の検事に送付しなければならない。第五五条【刑事訴訟法の準用】 この章で他に定めのない 事項に対しては、家庭保護事件の性質に反しない範囲で、 刑事訴訟法の規定を準用する。 第三章 民事処理に関する特例第五六条【賠償申請】①被害者は、家庭保護事件が係属 した第一審法院に第五七条の賠償命令を申請することが できる。この場合、印紙の貼付は要しない。②訴訟促進等に関する特例法第二六条第二項乃至第八項 は、第一項の場合、これを準用する。第五七条【賠償命令】①法院は、第一審の家庭保護事件 審理手続で保護処分を宣告する場合、職権又は被害者の 申請により、次の各号の金銭支払又は賠償(以下「賠 償」という。)を命ずることができる。 一 被害者又は家庭構成員の扶養に必要な金銭の支払 二 家庭保護事件により発生した直接的な物的被害及び 治療費の損害賠償② 法院は、家庭保護事件にあたって、行為者と被害者の 間で合意した賠償額に関しても、第一項の規定に従い、 命ずることができる。③ 訴訟促進等に関する特例法第二五条第三項(第二号の 場合を除く。)は、第一項の場合、これを準用する。第五八条【賠償命令の宣告】①賠償命令は、保護処分の 決定と同時にしなければならない。②賠償命令は一定額の金銭支払を命ずることをもってし、 賠償の対象及び金額を保護処分決定書の主文に表示しな ければならない。この場合、賠償命令の理由は、特に必 要と認められる場合でなければ、これを記載しないこと ができる。③賠償命令は、仮執行することができることを宣告する ことができる。④民事訴訟法第一九九条第三項・第二〇一条・第四七三 条及び第四七四条の規定は、第三項の場合にこれを準用 する。⑤ 賠償命令をしたときは、保護処分決定書の正本を行為74韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 者及び被害者に遅滞なく送達しなければならない。第五九条【申請の却下】①賠償申請が不適法であるとき、 又はその申請に理由がなく、若しくは賠償命令をするこ とが相当でないと認められるときは、決定をもって、こ れを却下しなければならない。②保護処分の決定と同時に第一項の裁判をするときは、 これを保護処分決定書の主文に表示することができる。③申請を却下し、又はその一部を認容する裁判に対して、 申請者は不服を申し立てることができず、さらに同一の 賠償申請をすることができない。第六〇条【不服】①保護処分に対する抗告提起があると き、賠償命令は、家庭保護事件とともに抗告審に移審さ れる。保護処分に対する再抗告がある場合もまた同様と する。②抗告審で第一審決定を維持する場合にも、賠償命令に 対しては、これを取消・変更することができる。③行為者は、保護処分決定に対して抗告を提起すること なく、賠償命令に対してのみ抗告することができる。こ の場合、抗告は、七日以内に提起しなければならない。④第三項の規定による抗告の棄却決定に対しては、その 決定が法令に違反しているときに限り、大法院に七日以 内に再抗告することができる。第一項前段の規定による 抗告審決定に対し、賠償命令に対してのみ再抗告する場 合もまた同様とする。⑤第一項、第三項及び第四項による抗告及び再抗告は、 賠償命令の執行を停止する効力を有しない。第六﹇条【賠償命令の効力と強制執行】①確定した賠償 命令又は仮執行宣告のある賠償命令が記載された保護処 分決定書の正本は、民事訴訟法による強制執行に関して は、執行力のある民事判決正本と同一の効力を有する。②この法律による賠償命令が確定したときは、その認容 金額範囲内で、被害者は他の手続による損害賠償を請求 することができない。第六二条【他の法律の準用】 この章に定めのない事項に 対しては、訴訟促進等に関する特例法及び民事訴訟法の 関連規定を準用する。第四章 罰 則第六三条【保護処分の不履行罪】 第四〇条第一項第一号 及び第二号の規定による保護処分が確定した後、これを 履行しなかった行為者は、二年以下の懲役、二千万ウォ75 ン以下の罰金又は拘留に処する。12・第六四条【秘密厳守等義務の違反罪】①第一八条第一項C9 の規定による秘密厳守義務に違反した補助人(弁護士を腸 除く。)、相談所等の相談員又はその長(その職にあった 巻 者を含む。)は、一年以下の懲役、二年以下の資格停止71究 又は一千万ウォン以下の罰金に処する。研学 ②第一八条第二項の報道禁止義務に違反した新聞の編集法 者、発行者又はその従事者、放送社の編集責任者、その 長又は従事者その他出版物の著作者及び発行者は、五〇 〇万ウォン以下の罰金に処する。 第六五条【過怠料】 正当な理由なく、第二四条第一項の 規定による召喚に応じず、又は第四四条の規定による報 告書若しくは意見書の提出要求に応じなかった者は、一 〇〇万ウォン以下の過怠料に処する。附 則この法律は、一九九八年七月一日から施行する。韓国・家庭暴力防止及び 被害者保護等に関する法律 一九九七年一二月三一日 法律第五四八七号第一条【目的】この法律は、家庭暴力を予防し、家庭暴 力の被害者を保護することにより、健全な家庭を育成す ることを目的とする。第一一条【定義】 この法律で使用する用語の定義は、次の 通りとする。 一 「家庭暴力」とは、家庭暴力犯罪の処罰等に関する 特例法第二条第一号に規定された行為をいう。 二 「家庭暴力行為者」とは、家庭暴力犯罪の処罰等に 関する特例法第二条第四号に規定された者をいう。 三 「被害者」とは、家庭暴力により、直接的に被害を 被った者をいう。 四 「一時保護」とは、家庭暴力から被害者又はその家 庭構成員を保護するため、宿泊食事提供等の方法で一 定期間行う保護をいう。第三条【家庭の保護と維持】 国家及び地方自治団体は、76韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 全ての個人が家庭において安全で健康な生活を享受する ことができるよう、健全な家庭及び家族制度を維持・保 護するため努力しなければならない。第四条【国家等の責務】①国家及び地方自治団体は、家 庭暴力の予防及び防止のため、次のような措置を取らな ければならない。 一 家庭暴力に関する申告体制の構築及び運営 二 家庭暴力の予防及び防止のための研究、教育並びに 広報 三 被害者のための保護施設の設置・運営及びその他被 害者に対する支援サービスの提供 四 家庭暴力の実態調査 五 家庭暴力の予防及び防止のための関係法令の整備並 びに各種政策の樹立並びに施行②国家及び地方自治団体は、第一項の規定による責務を 果たすため、これに伴う予算上の措置を取らなければな らない。③特別市・広域市・道(以下「市・道」という。)及び 市・郡・区に、家庭暴力の予防及び防止業務を担当する 機構及び公務員を置かなければならない。④国家及び地方自治団体は、第五条第二項及び第七条第 二項の規定により設置・運営する家庭暴力関連相談所及 び家庭暴力被害者保護施設に対し経費を補助するなど、 これを育成・支援しなければならない。第五条【相談所の設置・運営】①国家又は地方自治団体 は、家庭暴力関連相談所(以下「相談所」という。)を 設置・運営することができる。②国家又は地方自治団体以外の者が相談所を設置・運営 しようとするときは、特別市長・広域市長又は道知事 (以下「市・道知事」という。)に申告しなければならない。③ 相談所の設置基準、相談所に置く相談員の資格基準及 び数並びに申告手続等に関して必要な事項は、保健福祉 部令で定める。第六条【相談所の業務】 相談所の業務は、次の通りとす る。 一 家庭暴力の申告を受け、又はこれに関する相談に応 じること 二 家庭暴力により正常な家庭生活及び社会生活が困難 となり、若しくはその他緊急に保護を必要とする被害 者に対する臨時保護をし、又は医療機関若しくは家庭 暴力被害者保護施設への引渡 三 行為者に対する告発等法律的事項に関する助言を得77法学研究71巻12号(798:12) るための、大韓弁護士協会又は地方弁護士会及び大韓 法律救助公団等への必要な協力及び支援の要請 四 警察官署等から引き渡された被害者の臨時保護 五 家庭暴力の予防及び防止に関する広報 六 その他家庭暴力及び被害に関する調査・研究第七条【保護施設の設置】①国家又は地方自治団体は、 家庭暴力被害者保護施設(以下「保護施設」という。) を設置・運営することができる。②社会福祉法人その他の非営利法人は、市・道知事の認 可を受け、保護施設を設置・運営することができる。③保護施設の設置基準及び認可等に関して必要な事項は、 保健福祉部令で定める。第八条【保護施設の業務】①保護施設は、大統領令が定 めるところに従い、次の業務を担当する。 一 第六条各号の業務 二 被害者を一時保護すること 三 被害者の身体的・精神的安定及び家庭復帰を助ける フ」と 四 他の法律により保護施設に委託する事項 五 その他被害者の保護のため必要なこと②保護施設の長は、第一項各号による費用の全部又は一 部を家庭暴力行為者から求償することができる。この場 合、その求償手続は、国税又は地方税滞納処分手続の例 による。第九条【被害者意思の尊重義務】 相談所又は保護施設の 長は、被害者の明示した意思に反して、第八条第一項第 二号及び第一八条の保護をすることができない。第一〇条【相談所又は保護施設の休止又は廃止】 第五条 第二項又は第七条第二項の規定により設置された相談所 又は保護施設を休止又は廃止しようとするときは、保健 福祉部令が定めるところに従い、予め市・道知事に申告 しなければならない。第二条【監督】①保健福祉部長官又は市・道知事は、 相談所又は保護施設の長をして当該施設に関して必要な 報告をさせることができるとともに、関係公務員をして 当該施設の運営状況を調査させ、又は帳簿その他の書類 を検査させることができる。②第一項の規定により関係公務員が、その職務を行うと きは、その権限を表示する証票を所持し、これを関係者 に提示しなければならない。第一二条【認可の取消し等】市・道知事は、相談所又は 保護施設が次の各号の一に該当するときは、その業務の78韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕 停止若しくは廃止を命じ、又は認可を取り消すことがで きる。 一 第五条第三項又は第七条第三項の規定による設置基 準に満たないようになったとき 二 第五条第三項の規定による相談員の数に満たず、又 は資格がない者を相談員として採用したとき 三 正当な理由なく第一一条第一項の規定による報告を せず、若しくは虚偽の報告をしたとき、又は調査・検 査を拒否し、若しくは忌避したとき 四第一五条の規定に違反し、相談所又は保護施設を営 利の目的で運営したとき 五 その他この法律若しくはこの法律による命令に違反 し、又は設置目的に違背する行為をしたとき第=二条【経費の補助】 国家又は地方自治団体は、第五 条第二項又は第七条第二項の規定による相談所又は保護 施設の設置・運営に用いられる経費の一部を補助するこ とができる。第一四条【相談所の統合設置及び運営】 国家又は地方自 治団体は、この法律により設置・運営する相談所若しく は保護施設を、大統領令で定める類似した性格の相談所 若しくは保護施設と統合して設置・運営し、又は設置・ 運営することを勧告することができる。第一五条【営利目的運営の禁止】 相談所又は保護施設は、 営利を目的として設置・運営してはならない。第一六条【秘密厳守の義務】 相談所若しくは保護施設の 長若しくはこれを補助する者又はその職にあった者は、 その職務上知り得た秘密を漏泄してはならない。第一七条【類似名称使用禁止】 この法律による相談所又 は保護施設てなければ、家庭暴力関連相談所・家庭暴力 被害者保護施設又はこれと類似の名称を使用することが できない。第一八条【治療保護】①医療機関は、被害者本人・家族 ・知人又は相談所若しくは保護施設の長等の要請がある 場合には、被害者に対し、次の各号の治療保護を実施し なければならない。 一 保健に関する相談及び指導 二 身体的・精神的被害に対する治療 三 その他大統領令が定める医療に関する事項②第一項の治療保護に必要な一切の費用は、家庭暴力行 為者が負担する。但し、家庭暴力行為者に費用を負担す る能力がないときは、国家又は地方自治団体がこれを負 担した後、家庭暴力行為者に対し求償権を行使する。79法学研究71巻12号(’98:12)③第二項の費用負担のための手続、求償権の行使手続な どに関し必要な事項は、保健福祉部令で定める。第一九条【権限の委任】 保健福祉部長官及び市・道知事 は、この法律による権限の一部を市・道知事又は市長・ 郡守・区庁長に委任することができる。第二〇条【罰則】 次の各号の一に該当する者は、一年以 下の懲役又は五〇〇万ウォン以下の罰金に処する。 一 この法律による申告又は認可なく相談所又は保護施 設を設置・運営した者 二 第一二条の規定による業務の停止又は廃止命令を受 けたにもかかわらず、相談所又は保護施設を継続して 運営した者 三 第一六条の規定による秘密厳守の義務に違反した者第一二条【両罰規定】 法人の代表者又は法人若しくは個 人の代理人・使用人その他従業員が、その法人又は個人 の業務に関して第二〇条の違反行為をしたときは、行為 者を罰するほか、その法人又は個人に対しても同条の罰 金刑を科す。第二二条【過怠料】①次の各号の一に該当する者は、三 〇〇万ウォン以下の過怠料に処する。 一 正当な理由なく第一一条第一項の規定による報告を せず、若しくは虚偽の報告をした者又は調査・検査を 拒否し、若しくは忌避した者 二第一七条の規定による類似名称使用禁止に違反した 者②第一項の規定による過怠料は、大統領令が定めるとこ ろにより、保健福祉部長官又は市・道知事が賦課・徴収 する。③第二項の規定による過怠料処分に不服がある者は、そ の処分の告知を受けた日から三〇日以内に保健福祉部長 官又は市・道知事に異議を提起することができる。④第二項の規定による過怠料処分を受けた者が第三項の 規定による異議を提起したときは、保健福祉部長官又は 市・道知事は、遅滞なく、管轄法院にその事由を通知し なければならず、その通知を受けた管轄法院は、非訟事 件手続法による過怠料の裁判をする。⑤第三項の規定による期間内に異議を提起せず、過怠料 を納付しなかったときは、国税又は地方税滞納処分手続 の例により、これを徴収する。附 則この法律は、一九九八年七月一日から施行する。80〔訳者注〕 原文中の接続詞の訳については、「又は」、「若しくは」、「及び」、「並びに」など、原文表記への忠実性に配慮しながら、できる限り日本語の接続詞の用法に倣ったが、「・」(なかぐろ)については、敢えて原文の通りとした。 これら二法の訳出に際し、韓国・大田大学校の金容世助教授に多くの指導と助言を受けた。紙面を借り、ここに謝意を表する次第である。韓国・家庭内暴力対策関連二法〔邦訳〕81