判例研究1〔判示事項〕一 事務受任会計事務所は、レセプト債の購入者に対して、条理上の義務として資金管理義務を負っていたものとは認められず、また、アレンジャーらと共謀または共同して不法行為責任を負うことはない。二 販売証券会社は、レセプト債の購入者に対して、金融商品取引業者としてレセプト債を販売するにあたり商品審査義務を負っていたものとは認められず、また、アレンジャーらと共謀または共同して不法行為責任を負うことはない。三 本件レセプト債の取得勧誘にあたり、調達の金額・期間等にミスマッチが生じた場合に備えた加速度償還条項等が存在しないことは重要事項に該当せず、商品性概要や元利金の一部またはすべてが失われる可能性があること等は説明されており、説明義務違反はない。四 (本件)レセプト債が少人数私募に該当しないと認めレセプト債(私募債)の販売証券会社および事務受任会計事務所が同債の購入者に対して損害賠償責任を負わないとされた事例――レセプト債訴訟(金沢訴訟)〔商法 六四一〕︵金沢地判令和四年五月二六日平成二八年ワ第一五八号、平成二八年ワ第二一八号、平成二八年ワ第四六一号損害賠償請求事件金融・商事判例一六五三号二頁)判例研究2法学研究 96 巻 8 号(2023:8)ることはできず、金商法一六条および一七条の責任を負う旨の主張はその前提を欠く。〔参照条文〕 民法七〇九条・七一九条、金融商品取引法二条三項二号ハ・施行令一条の六、一六条、一七条、金融商品販売法三条一項・五条(現金融サービス提供法四条・六条)〔事 実〕 1.Xら(九八名)は、L株式会社(以下、L社)の設立・運営するいずれも英領ヴァージン諸島籍の外国会社である訴外M社および訴外N社(債券発行を目的とする特別目的会社(SPC))(以下「発行会社二社」。L社が運営するSPCであるO社を含めて「発行会社三社」という)の発行する診療報酬債権等(保険医療機関が提供した医療・介護サービスに対して社会保険・介護保険が適用される部分の社会保険診療報酬支払基金および国民健康保険団体連合会に対する支払請求権)流動化債券(M社発行のものをM債、N社発行のものをN債とし、併せて「本件レセプト債」)を販売証券会社(地場証券)であるY1社を通じて購入した。 2.Y1社の外務員が取得勧誘に用いた「診療報酬債権等流動化債券の提案書兼契約締結前交付書面兼転売制限告知書」(本件提案書)の取引スキームには、発行会社二社の業務運営サポート会社として、L社がアレンジャーとして債権買取審査を担当し、Y2およびY3が会計事務管理、譲渡債権管理および医療機関監査を担当する旨の記載があった。 3.Y2は、平成一六年三月から平成一八年一〇月までの間、M社の会計事務を受託し、同年一〇月、Y3は、M社との間で「M管理契約1」を締結し、Y2から業務を引き継いで契約に基づく業務を行った。平成二三年二月、Y2はN社との間で「N管理契約1」を契約し、平成二六年一一月までの間、同契約に基づく業務を行った。Y3は、同年一二月、N社との間で「N管理契約2」(M管理契約1と併せて「本件業務委託契約」)を締結し、Y2から業務を引き継いだ。 主幹事社的立場として販売証券会社に対する支援・助言業務等を行うA社や訴外L社からY1社が説明を受けた際の質疑応答のメモやY1の社内検討会のメモ等によれば、Y2・Y3会計事務所は、特に本件レセプト債のスキームから外れた入出金がないように管理(債権管理)する役割を果たす旨の記載はない。また、Y2・Y3らが顧客に提供するサービスとして、SPCの事務管理業務(記帳代行、税務申告、通帳の管理、支払の実行等)、役員派遣業務の受託等があ判例研究3る旨記載されるにとどまり、本件レセプト債のスキームにおけるY2・Y3の役割に関する具体的な記載はなかった。さらに、Y3の本件レセプト債等のスキームにおける役割および発行会社二社の性質について、本件業委託契約には、Y3の義務として、Y3の役員、代理人または従業員のあらゆる業務を提供することが定められており、これに基づきM社の日本における代表者に就任したことが認められるが、実務上、会計事務所等からSPCに派遣された役員が事業運営に関する実質的な意思決定を行うことは通常想定されておらず、本件でもY3が具体的な職務執行を行うことはなく、M債の発行にも関与していなかった。Y3は、L社から、同社が運営、管理する他のファンドを通じて診療報酬債権等を購入しており、発行会社単体ではなく他のファンドを含むスキーム全体で運用している、同社が買い取った診療報酬債権等の中には、保険医療機関の秘密保持のために買取先を開示できないものもあり、それらの総称として、診療報酬債権等の勘定科目の中に「QCL口」との補助科目を使用して会計処理を行っているなどと説明され、M社の決算報告書において、「QCL口座他」として診療報酬債権を計上した。 M管理契約1の内容は、Y2が資金管理義務を負うことやM社がY2による資金管理に服すこと、Y2が資金管理を適正に行うために、M社に対して資金使途に関する報告を求めたり、資金使途を調査したり、資金使途に疑義がある場合に出金を拒否したりする権限を有することなどを明示し、または示唆する記載はなかった。Y2がM管理契約に基づいて「実際に行っていた」業務内容は、M社の国内口座を管理し、L社から支払指示書の送付を受けて同口座からの出金手続を行い、その結果を仕訳・記帳し、決算報告書を作成して同社に開示するなどというものであった。M管理契約書1には、事務受任者の義務として、M社の指示に従って、M社(東京支店)が診療報酬債権を購入する契約(S&P合意)を締結し、その債権の取得および支払を監視することが記載され、またY2において、M社に代表者を派遣していた。 Y3の締結した本件業務委託契約書およびY3が作成しL社に交付した確認書には、事務受任者Y3の義務として、発行会社二社の指示に従って、発行会社二社の東京支店が第三者から診療報酬債権を購入する契約(S&P合意)を締結し、その債権の購入および支払の監視(モニター)を行うことが記載されていたが、資金管理義務を負うことを明示し、または示唆する記載はなかった。また、実際に行って4法学研究 96 巻 8 号(2023:8)いた業務内容も、資金管理義務を負うことを前提として行動したことをうかがわせるものはなく、さらに発行会社二社の口座はいずれも国内の一口座のみであり、海外口座は管理していなかった。本件レセプト債のアレンジャーであるL社にとって、Y3による資金管理に服することに関する動機付けを見出し難く、資金管理義務を適切に遂行するための専門的知見等を有するものとも認められなかった。 4.Y1社は、発行会社から委託を受けた証券会社であるA社から説明資料のサンプル、L社から運用実績報告書(平成二一年八月分)を入手し、M債のメリット・デメリット等の調査を行い、社内検討会を複数回開催して検討した。また、Y1社において、M債のリスク要因について関係会社から説明を受けるため、A社、Y2やL社を訪問して面談し、Y2から保険医療機関の検査を十分実施しているとの説明を受けた。その後も、Y1社はA社やL社に対して質問を行うなどM債の検討・分析を行い、M債について平成二二年三月から、N債について平成二三年三月から、外務員は本件提案書を用いて、一般投資家に対して本件レセプト債の取得勧誘を行った。本件レセプト債はいずれも金商法の開示規制の及ばない少人数私募の方法により発行された。具体的には、Y1社では、本件レセプト債のシリーズごとの勧誘対象者が四九名を超過しないようにするため、本件提案書をシリーズごとに四九部までしか作成せず、作成した提案書に番号を付して、使用状況を一覧表で管理していた。Y1社は、M債の販売後、A社を通じて過去数年分のM債の決算報告書を入手し、M債については平成二二年七月、N債については平成二三年二月、日本証券業協会が公表する「標準情報レポーティングパッケージ」に準じたM債券の商品審査を行った。また、契約締結前交付書面(法三七条の三)において、本件レセプト債は、発行会社二社、保険医療機関、組成関係業者(A社、Y2・Y3等)の信用状態の悪化等により、利金・償還金の支払遅延・不能等が生じ、元利金の一部またはすべてが失われる可能性があることが挙げられていた。 5.L社および発行会社三社は、本件レセプト債の販売会社や投資家に対し、同債は発行会社が国内の保険医療機関から取得した診療報酬債権等を裏付資産とするものである旨説明していた。ところが、発行会社三社は、本件レセプト債の発行を始めた当初から、買い取った診療報酬債権等の残高が社債発行残高に比して著しく僅少な状態(本件レセプト債等の発行額の二割程度)にあり、M社について平成一七年一二月期から、N社について平成二四年三月期判例研究5から、社債発行によって調達した資金の一部が診療報酬債権等の買取りに充てられずに、L社および同社の関連会社の資金等に流用される(目的外支出に充てられる)ようになり、その結果、本件レセプト債の新規発行を行わなければ既発行のレセプト債等の償還および利払いを継続的に行うことが困難な自転車操業の状態となった。 L社の代表取締役甲および訴外A社の代表取締役乙は、遅くとも平成二五年一〇月頃までに、本件レセプト債の実態を認識したにもかかわらず、同実態を隠匿し、L社およびA社において、本件レセプト債が診療報酬債権等を裏付資産とする安全性の高い商品である旨の説明を続けて、A社の営業員またはY1社ほかの販売証券会社を通じて、本件レセプト債等の販売を継続した。また、本件レセプト債を最初に発行してから平成二七年の新規発行停止までの間、本件レセプト債の償還や利払いが遅滞したことはなく、Y1社が財務局や証券取引等監視委員会から問題を指摘されたとの情報もなかった。 平成二七年一〇月三〇日、L社および発行会社三社は、本件レセプト債の募集を停止し、同年一一月六日、破産手続開始決定の申立てを行い、同月一三日、それぞれ破産手続開始決定を受けた。また、平成二八年二月一九日、証券取引等監視委員会はY1の商品の説明・販売行為が虚偽の表示をする行為(業府令一一七条二号)に該当するとして、内閣総理大臣および金融庁長官に対し、Y1社に対する行政処分を行うよう勧告し、同月二六日、北陸財務局は金商法五一条に基づく業務改善命令を発出した。 平成二六年一〇月頃から平成二七年一〇月頃までに、Y1証券を通じて本件レセプト債を購入し、またはその損害賠償請求権を承継したXら(別紙「本件レセプト債購入一覧表」参照)は、元本の償還および利払いを受けることができず、損害を被った旨を主張して、本件レセプト債の組成・運用・販売行為に関与したY1社、Y2およびY3に対し、主位的に、L社およびA社らと共同による不法行為(民法七〇九条、七一九条一項前段)等に基づき、予備的に、金融商品販売法五条または金融商品取引法一六条および一七条に基づき、購入代金相当額および弁護士費用相当等から和解金等を控除した損害金並びにこれに対するレセプト債の新規募集が停止された日である平成二七年一〇月三〇日から支払済みまで民法(平成二九年法律第四四号による改正前のもの)所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。 なお、本稿では、すべての関与者の責任ではなく、販売6法学研究 96 巻 8 号(2023:8)証券会社Y1と会計事務所Y2・Y3の責任に限定して検討する。〔判 旨〕 請求棄却(控訴)一 販売証券会社のレセプト債の商品内容・財務状況に関する調査懈怠(商品審査義務違反)の有無 「本件レセプト債は、外国法人である発行会社二社が発行した社債類似の債券(金商法二条一項五号、一七号)であるところ、金商法上、かかる債券を販売する証券会社について、その商品審査義務を定めた規定はなく、金融庁も同様の見解を示している。日本証券業協会が自主規制として定める「国内CP等及び私募社債の売買取引等に係る勧誘等に関する規則」でも、私募社債については、顧客に対する発行者情報及び証券情報の説明等を行うべき努力義務を定めるにとどまり(九条)、証券会社の商品審査義務を定めるものではない。加えて、証券会社において、本件レセプト債のような債券の発行体であるSPCないしそのアレンジャーの業務及び財産の状況に関する調査権限を有する旨を定める法令上の規定も存在しないことや、証券会社が証券に関する相応の専門知識を有すること、Xらが指摘する金商法上の行為規制の存在、本件レセプト債等の商品特性等を考慮しても、それをもって直ちに、本件レセプト債を販売する証券会社がXらの主張するような商品審査義務を負うものであって、これを怠った場合に同債の購入者に対する損害賠償義務を負うものと解することは困難である。」 「Y1社が平成二四年に北陸財務局の証券検査を受けた際には、本件レセプト債の販売開始に際しての商品審査及び事後的なモニタリングについて指摘を受けたことはなく、平成二七年一〇月までの間に、Y1社以外の販売証券会社が、財務局や証券取引等監視委員会の検査を受けた際に、上記の商品審査および事後的なモニタリングに関する問題を指摘されたとの情報を得たこともなかったことに照らしても、上記各証拠の存在をもって、Y1社による本件レセプト債の最終販売行為当時に、証券業界内の実務慣行としてXらの主張する商品審査義務が存在したことが推認されるものでもない。」 「Y1社において、L社やA証券から提供を受けた情報等により、本件レセプト債等の実態、すなわち、本件レセプト債等の資金が診療報酬債権等の購入と無関係の目的外支出に当てられることにより発行会社三社が巨額の債務超過に陥っていることを知りながら、又は、証券会社に求めら判例研究7れる相応の調査を尽くすことにより、これを認識することができたにもかかわらず、L社及びA証券と共謀又は共同して、本件レセプト債の販売を決定、継続、最終販売行為を行った場合には、同行為が不法行為法上違法なものとなる場合もあり得ると解される。」が、レセプト債の実態を認識していた、あるいは相応の調査により認識し得たと認めることもできないとした。二 事務受任会計事務所の資金管理義務の有無 Y2のN管理契約は会計監査業務のような口座全体の入出金の状況や趣旨を把握する権限を付与するものでも義務付けるものでもないことを前提に、「担当業務、本件レセプト債等のスキームにおける役割及びN社の性質に照らすと、本件レセプト債等のスキームにおいて、N社の国内口座からの出金手続に会計事務所である同Y2の関与が必要とされ、そのことが販売証券会社や一般投資家等に説明されることにより、同債に対する信用供与に寄与した面があることや、Y2はN社の発行するN債が診療報酬債権等を裏付けとするものである旨投資家等に説明されていたことを認識していたことなどのXらの指摘する点を考慮しても、Y2において、上記契約に基づき定められたN社の国内口座の管理、L社の指示に基づく出金手続、N社の日本における代表者の派遣等の業務のほかに、条理上の義務として、本件レセプト債等の購入者であるXらに対して資金管理義務を負っていたとは認め難く、Xらの主張を採用することはできない。」 「もっとも、Y2らにおいて、上記出金が診療報酬債権等の購入と無関係の目的外支出であることを認識していた、あるいは、アレンジャーであるL社がY2に提出する資料等からこれを容易に認識し得た場合に、L社と共謀又は共同して同出金をすることが、不法行為法上違法なものとなる場合もあり得ると解される。」が、社債購入のための出金をするにあたり、これらの資金が診療報酬債権の買取り以外の使途に充てられることについて認識していた、あるいは容易に認識し得たと認めることはできない。 発行会社二社の受託業務に関するY3のXらに対する損害賠償義務についても、業務委託契約の内容、実際に行っていた業務内容の分析等に基づいてY2社に関する判断と同様の判断を示している。三 金融商品販売法三条一項三号(現金融サービス提供法四条一項三号)(説明義務)違反の有無 「金販法三条一項三号所定の金融商品販売業者等が顧客に説明義務を負う重要事項とは、「当該金融商品の販売に8法学研究 96 巻 8 号(2023:8)ついて当該金融商品の販売を行う者その他の者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれがあるとき」における、「元本欠損が生ずるおそれがある旨」、「当該者」及び「当該者の業務又は財産の状況の変化を直接の原因として元本欠損が生ずるおそれを生じさせる当該金融商品の販売に係る取引の仕組みのうちの重要な部分」であるところ、Y1社がXらに本件レセプト債を販売するにあたり、本件提案書を用いて、本件レセプト債の商品性概要や、発行会社二社の信用状況の悪化等により利金・償還金の支払遅延・不能等が生じ、元利金の一部又はすべてが失われる可能性があることなどを説明したことは、前記……のとおりである。したがって、Y1社において、同号所定の重要事項を説明したものと解するのが相当であり、Xらの主張する事項をもって上記重要事項に該当するものとは解されない。」四 金融商品取引法一六条および一七条の責任の有無(前提として少人数私募該当性) 「本件レセプト債は、シリーズごとに募集期間、発行日、償還日等の発行概要を決定して発行されたものであるから、過去六か月以内に同一種類の有価証券を募集するものであるとは認められない。……Y1社では、本件レセプト債のシリーズごとの勧誘対象者が四九名を超過しないようにするため、本件提案書をシリーズごとに四九部までしか作成せず、作成した本件提案書に番号を付して、使用状況を一覧表で管理していたこと、Y1社において、証券取引等監委員会や北陸財務局から、本件レセプト債が少人数私募の要件を満たしていないことを問題視されたといった事情がうかがわれないことなどに照らしても、本件レセプト債が少人数私募に該当しないと認めることはできない」から主張の前提を欠く。〔研 究〕一 本判決の意義 本件は、レセプト債が真実診療報酬債権を裏付けとするものでなかった場合に、レセプト債の組成・運用・販売行為に関与した者の責任が問題となった事案であるが、本判決は、いわゆるレセプト債の組成・運用・販売をめぐる主要都市における各関連訴訟とともに、次のような点で意義を有する。 まず、レセプト債のスキームとそのスキーム関与者(アレンジャー、証券会社、会計事務所等)の位置づけ・役割をどのように理解するかが重要な問題となるところ、関連判例研究9訴訟で示されたレセプト債のスキームおよびその関与者の役割・位置づけに関する各裁判所の理解は一様ではない。証券化スキームにおいて、より積極的な役割をスキーム関与者に期待する立場もあるが、後にみるように、本判決は、スキーム運営者・受任者の役割を限定的に理解する従来の学説に沿う立場を明らかにした点で意義を有する。本件レセプト債では、通常証券化で用いられる様々な信用補完手段が用いられず、証券化商品としては危険なものであり、また関係者の事業リスクが残ることから事業債に近い性質をもっていたと評される(大塚康成=江川由紀雄「債権の流動化に見える資金調達・投資スキームの考察―「レセプト債」事件から学ぶ」SFJジャーナル一四号(二〇一七)八頁、一一頁参照)。証券化のスキーム理解を前提に、本件をはじめ個別のスキーム(案件)においてゲートキーパーとしての役割を期待される関与者がどこまでどのような義務(責任)を負うのかを明確化する必要がある。 また、裏付資産のない詐欺的な商品の販売・勧誘の事案では、スキーム関与者(会計事務所、証券会社)について詐欺的な商品の販売・勧誘を主導した者との間に「幇助(過失)による共同不法行為」の成否が焦点となるところ、本判決はこの点に関する事例判断としての意義を有する。本件レセプト債の取得勧誘は形式的には私募にあたると考えられるが、本件金沢訴訟を含め東京・千葉や地方の地場証券を通じた社債発行残高(三社合計)は全国合計で約二二七億円、投資者数二四七〇名の規模の取引であり(平成二七年一〇月末現在。証券取引等監視委員会「アーツ証券株式会社に対する検査結果に基づく勧告について」(平成二八年一月二九日)参考資料参照)、全体としてみれば文字通り純粋な私募とみるのは躊躇われる事案である。本判決は、後に紹介する名古屋地判令和四・四・一九判例時報二五四九号(以下、②判決)とは異なり、開示規制の適用を受けない趣旨が実質的に妥当せず、投資判断に必要な情報を投資者に提供すべき必要性が高いといった実態に合わせた柔軟な解釈を志向していない。そこで、金融商品取引法(以下、金商法)上の募集・売出しに係る情報開示規制以外の救済方法、すなわち会計事務所の資金管理義務、販売・勧誘を通じて顧客と接点をもつ証券会社の行為規制(説明義務等)や金融商品販売法(現金融サービス提供法)上の説明義務違反とともに(過失による)共同不法行為の成否が問題となる。 以下では、販売証券会社の調査義務(商品審査義務)、事務受任会計事務所の資金管理義務、金融商品販売法(現10法学研究 96 巻 8 号(2023:8)金融サービス提供法)上の説明義務、最後に金商法一六条および一七条の責任をめぐる議論を取り上げ、従来の判例・学説を整理したうえで各論点の分析・検討を行う。このうち、会計事務所および証券会社の義務の内容については、レセプト債のスキームと関与者の位置づけ・役割をどのように理解するかの観点を踏まえて分析する。 なお、本件では、証券会社の行為規制(販売勧誘規制)、すなわち誠実公正義務、断定的判断の提供等、虚偽の表示等、適合性原則等の違反や証券会社・会計事務所の役員の責任、擬似外国会社該当性と代表者の弁済義務(会社八二一条)も争点となっているが、本稿では取り上げない。二 先例・学説1 販売証券会社の責任 本件レセプト債の販売証券会社の責任を考えるにあたり、次の判例が参考となる。まず、①那覇地判平成三〇・七・一三金融・商事判例一五四八号一八頁である。同判例は、SPCの発行する私募債について、公募債に準じた引受審査が行われた場合の販売証券会社の責任が問題となった事案であり、この点で本件とは異なるが、引受審査を実施した証券会社以上に責任を課されることはないという点で参考となる。同判決は、引受審査を行う証券会社には引き受ける商品が販売にふさわしい銘柄であるかを判断することが期待されるが、これが直ちに個々の投資家に対する法的義務を構成するものとまではいえないが、ただ、およそ証券市場に流通させることが不適切な証券について十分な引受審査を行わずに販売した結果投資家に損害を生じさせた場合に不法行為による損害賠償責任を負う余地はあるとした。証券会社の引受審査が投資家に対する直接の義務を生じさせるものではなく、十分な引受審査を行わないことが投資家に対する一般不法行為を構成するものとなりうることを示す点で注目される。また、レセプト債関連訴訟として、②前掲・名古屋地判令和四・四・一九は、形式的には私募に該当するとしながらも、同事案における社債の取得勧誘には開示規制の適用を受けない趣旨が妥当せず、投資判断に必要な情報を各社債の取得者に開示すべき必要性が高いとしたうえで、裏付けとなる診療報酬債権の実在性について疑念を抱いてしかるべき場合に調査すべき信義則上の義務を認め、追加資料の提供を受け、合理的な説明がなされるまで私募の取扱いを中止すべきとした。同判決では、一定の時点で、各社債が真実診療報酬債権を裏付けとするものであるかについて販売証券会社が注意を払うべき立場判例研究11にあり、信義則上の調査義務を認めた点で注目される。さらに、③最判令和二・一二・二二判例時報二四九四号四二頁(FOI事件判決)は、東証マザーズ上場会社の株式を募集・売出しによって取得した投資家が会計監査を経た財務情報(有価証券届出書の財務計算部分)に虚偽記載があったとして同社と元引受契約を締結した主幹事証券会社に対する損害賠償責任(金商法二一条四項一号)を追及した事案において、金融商品取引業者等は、引受審査に際して監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接した場合には、当該疑義の内容等に応じて、監査が信頼性の基礎を欠くものでないことにつき調査確認を行うことが求められるというべきであって、調査確認を行うことなく元引受契約を締結したときは免責(金商法二一条二項三号)の前提を欠くとの判断が示された。2 会計事務所の責任(1)裁判例 レセプト債関連訴訟で会計事務所の責任に関する裁判例として次のものがある。まず、④東京地判令和四・三・三一先物取引裁判例集八五巻一頁、LEX/DB07730948(幇助による共同不法行為責任(民法七一九条))は、業務委託契約において、会計事務所が第三者から診療報酬債権等を購入する契約を締結し、同債権の取得および支払を監視するとされる場合、関係者の利益相反や権限濫用を防止するための牽制機能を果たすことが期待され、本件業務委託契約の採用する権限の分化と相互牽制の仕組みが順守されるところ、この機能を果たさないことは、不法行為を可能としまたは助長するものとなるとした。また、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)は、診療報酬債権の約九割が「QCL口」を使用していたこと(Y2)、M社の預金口座からSAL社・QCL社の社債購入資金の支払(M社の資産の約半分)がなされたこと(Y3)、L社の社債購入資金として合計一五億円の支払(Y2)があり、診療報酬債権の買取り以外の目的での支出を容易に認識できたことを認め、過失により不法行為を幇助したとして共同不法行為の責任を肯定した。(2)学 説 証券化スキームに関する明確な定義は存在しないこともあり、スキーム関与者の果たす役割について見解の違いがある。一般的な証券化関連のスキームを想定したものであるが、SPVの運営受任者は、事務だけ請け負っている存在であり、運営委託契約に違反する事務ミス等があった場12法学研究 96 巻 8 号(2023:8)合は別だが、例えば資産に何かあってSPVに一切収入が入ってこないといった場合について、投資家に対して責任は負わないとの見解が有力である(神田秀樹・神作裕之・みずほフィナンシャルグループ編著『金融法講義[新版]』(岩波書店、二〇一七)四九四頁)。しかし、金沢訴訟をはじめ本件レセプト債のスキームについてより批判的な見方がある。アレンジャーと事業主体の責任があいまいであるがゆえに手仕舞いができなかったこと、関係者の役割と責任の明確化を含め、適切な措置が講じられていれば、採算が合わない公算が高まった段階で早めに手仕舞いすることで、スキーム全体として、ひいては社債投資家が負担する損失を限定することも可能であったかもしれないこと、さらに管理業務に信託を用いないのであれば、導管体として用いるSPC等の運営を誰かが担わねばならないが、金銭の出納業務だけを会計事務所等に委託したところで資金の目的外流用を防げるかどうかは定かではないと指摘される(大塚=江川・前掲八頁、一一頁)。3 金融商品の販売等に関する法律(以下、金販法。現金融サービス提供法)上の説明義務 二〇〇六(平成一八)年の金販法改正(同年法律第六六号)では、説明義務の対象に市場リスクと信用リスクを生じさせる「取引の仕組みのうちの重要な部分」が追加され、説明義務の拡充が図られた(金販法三条一項)。ただ、商品の勧誘・販売を適正に行うためには商品の仕組み・内容を説明すべきは当然であり、これを怠れば民法上の信義則違反を問われる(効力は否定され、不法行為の損害賠償責任を負う)ことは同年の金販法改正前から指摘されていた(松本恒雄=上柳敏郎『金商法・消契法 逐条解説と金融商品販売法の実際』(BSIエデュケーション、二〇〇一)四三頁―四四頁等)。そして、金販法上の説明義務は、一般不法行為の特則(①重要事項を法定、違反について無過失責任(五条(現六条))、②損害・因果関係の推定(六条(現七条))と位置づけられるが、実際の訴訟では、金販法上の説明義務が硬直的で使い勝手が悪いことから、金販法五条(現六条)ではなく一般不法行為だけが訴訟物として選択される例が多いことが指摘されていた(司法研修所編『デリバティブ(金融派生商品)の仕組み及び関係訴訟の諸問題』(法曹会、二〇一七)一二四頁―一二五頁)。 本件では、レセプト債の裏付資産の実在性をめぐる関与者の義務・責任について、金販法との関係では、説明義務の対象となる「取引の仕組みのうちの重要な部分」が何で判例研究13あるか、果たして裏付資産の実在性に関する内容が同法上の説明義務の対象となるかが問題となる。本判決は、Y1証券会社がレセプト債を販売するにあたり、提案書等を用いて商品性概要(レセプト債のスキーム)や発行会社二社の信用状況の悪化等により利金・償還金の支払遅延・不能等が生じ、元利金の一部またはすべてが失われる可能性があることなどの説明をもって金販法三条一項三号所定の重要事項の説明があったものと認めている。すなわち、説明の対象となるのはスキーム一般と抽象的なリスクであって、裏付資産の実在性がその対象となるとは考えていない。また、本判決の直前の前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)も、各社債について「裏付資産の実在性につき、客観性の高い資料により確認されたものか否か」は、取引の仕組みの問題ではないとして原告らの主張を採用しなかった。 これに対し、債券の裏付資産である債権ないし事業の実態(やそれがいかなる要因で毀損される可能性があるかという点)は投資判断にとって重要な事項であり、裏付資産の内実は、金販法の定める「取引の仕組みのうちの重要な部分」として説明義務の対象となるとの見解(津田顕一郎「判批」金融・商事判例一五一一号一一四頁。村上裕「レセプト債における販売証券会社等の責任について」法学八六巻四号一七六頁、二〇二頁(二〇二三)も同旨)もある。ただ、この見解が想定するのは、SPCの融資債権が二重の保険でリスクヘッジされているはずのところ、実際には無保険であって管理会社の業務・財産状態によって元本欠損が生じうる仕組みであり、「取引の仕組みのうちの重要な部分」について虚偽の説明がされたといえる事案であった。むしろ、裏付資産の実在性に関する説明義務を考える場合、社債の抽象的信用リスクまたは具体的信用リスクの説明義務に関する議論が参考になる。裁判例には、社債の仕組み等の説明を受けていたが、顧客の属性等に応じて、信義則上、重大な客観的事情の変化があれば発行体の財務情報、依頼格付以外の(低い)勝手格付の存在および流通利回りの上昇(信用リスク)の情報提供・説明義務があるとしたものがある(大阪高判平成二〇・一一・二〇判例時報二〇四一号五〇頁(二段階アプローチ))。他方、学説上、具体的信用リスク(社債の価値判断にとって重要な情報)の説明義務は、金販法上の説明義務が適用されない事項(投資判断資料)に係る説明義務であり、その違反に同法上の請求権を利用できないとする見解がある(黒沼悦郎「判批」金融・商事判例一三四一号五頁―七頁)。14法学研究 96 巻 8 号(2023:8)4 私募と金商法一六条・一七条の適用の有無(1)「私募」の概念 本判決をはじめ裁判例は、シリーズごとに募集期間、発行日、償還日等の発行概要を決定し、一つのシリーズあたりの勧誘対象者が五〇名未満となる(シリーズが異なるものは同一種類の有価証券(金商法二条、定義府令一〇条の二第一項)に該当しない)ように発行されれば、各社債の取得勧誘は有価証券の私募(金商法二条三項二号ハ)に該当することを認める(本判決(筆者注:ただし、発行日は「社債の種類」を構成するものではない)、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決))。ただ、従来、過去三カ月以内(金商法施行令一条の六(令和四年改正(政令第四五号))に同一種類の有価証券を募集するものと実質的にみるべき場合がないかについて議論がある(そもそも私募の要件を「被勧誘者の数」で決定することに対する立法論的な批判として、拙稿「金融商品取引法における投資家保護に関する予備的考察」『金融商品取引法の新潮流』(法政大学出版局、二〇一六)八頁、二八頁参照)。前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)は、各社債の発行が有価証券の私募に該当するとしながらも、M債は、一〇年以上にわたり六〇七ものシリーズに分けて、N債も四年以上にわたり二五三ものシリーズに分けて、いずれも不特定多数の者に取得勧誘されたことを受けて、少人数私募に係る有価証家の発行者が開示規制の適用を受けない趣旨が妥当しないことを指摘する。 私募要件について過度に実質的な判断をすることは、企業活動における行為の予見可能性や罪刑法定主義の観点から疑義も示されたが、平成二二年改正当時の金融庁は、利率や償還期限等の条件が実質的に同一と認められる社債等を六カ月以内(現在、三カ月以内)に四九名以下に分けて勧誘する場合は、規制の趣旨に鑑み、少人数向け勧誘にはあたらないと考えられることもありうることを明確化したもので過度に実質的な判断を行うものではないと回答している(金融庁「『企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)の一部改正(案)』等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」(二〇一六年六月四日)五頁No.26)。実際、取得勧誘に際して、顧客らに対し、一定の幅をもったおおよその利率を示すのみで、具体的な回号や回号に対する具体的な利率を示すことなく、四種類の償還期間のある社債の取得勧誘を同時に行っていたもので、実際に発行された社債券の各回号の利率もわずか〇・〇〇一%ずつしか異な判例研究15らなかった事案について、取得勧誘に係る社債券は、各回号の利率が異なっており、四九口以下の発行口数で発行されており、実際に発行された社債券の回号ごとに、別個の取得勧誘があったとして、有価証券の募集に該当しないとの弁解も考えられるとしながらも、結論としては別個の勧誘があったとは見ることはできないと結論づけた(金融庁「ワールド・リソースコミュニケーション株式会社による無届社債券募集に対する課徴金納付命令の決定について」(平成二三年九月二二日)(以下、ワールド・リソースコミュニケーション課徴金事例))。また、最近の学説でも、投資候補者を二つのグループに分けて、近接した時期にそれぞれについて利率がわずかに異なる社債を発行することとし、個別に勧誘した場合、社債を二種類に分ける合理的な理由が認められない限りは、「同一種類の有価証券」に該当し、その取得勧誘について有価証券届出書の提出の必要があると判断される可能性があることが指摘される(峯岸健太郎「同一種類の有価証券の勧誘」飯田秀総監修『実務問答 金商法』(商事法務、二〇二二)五一頁参照)。(2)金商法一六条・一七条の適用の有無 投資による損害を被った投資家は、金融商品取引業者に対して不法行為(民法七〇九条等)による損害賠償を請求することもできるが、行為規制を遵守することを促すため、有価証券の募集・売出しに関して、法一五条の定める行為規制に違反して有価証券を販売した者の賠償責任(金商法一六条)、さらに私募を除く発行市場において虚偽記載のある目論見書等を使用して有価証券を取得させた者の賠償責任(法一七条)が定められている。このうち後者の適用範囲は募集・売出しが行われる勧誘行為の際に不実の情報表示がなされること一般を広く規制対象とするが、平成一六年証券取引法の改正により、法一七条の冒頭に「募集・売出し」の場合にのみ適用される旨の文言が追加されたため(現金商法一七条)、私募の場合には一七条の適用はないと一般に解されている。また、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)も、各社債の取得勧誘は「有価証券の私募」に該当するから金商法一六条に違反しないとする。これに対し、たとえ私募債であっても虚偽の勧誘資料が用いられた場合に金商法一七条の類推適用を肯定すべきとする見解もある(津田・前掲「判批」一一五頁。また、立法論的な批判として、黒沼悦郎「判批」私法判例リマークス三八号[二〇〇九上]八四頁、岸田雅雄「判批」判例判評六一三号(判例時報二〇六三号)二八頁)。16法学研究 96 巻 8 号(2023:8)三 分析・検討1 本件レセプト債のスキームと会計事務所・販売証券会社の位置づけ(役割) 本件におけるY1・Y2・Y3がレセプト債の販売に関与する者としていかなる義務・責任を負うかについて考えるには、レセプト債のスキームに関与する者の位置づけ・役割をどう理解するかが問題となる。しかし、この問題について必ずしも共通の理解が得られるわけではない。まず、販売証券会社との関係について、レセプト債は開示規制の対象外であること、L社がY1社に対して債権の買取先やL社の財務諸表を開示せず、Y1社はM社・N社の業務および財産の状況について調査権限はないことからレセプト債のトレーサビリティ(追跡可能性)に一定の限界があることを認める。他方、損失の原因は、アレンジャーであるL社において、M社・N社が大幅な債務超過に陥ったにもかかわらず、投資家・Y1に対して公表せず、本件レセプト債の虚像に基づく発行会社二社の決算報告書および運用実績報告書を作成するなど、巧みに隠匿していたことを挙げている。また、会計事務所との関係について、事務委託契約に基づいて定められたM社の国内口座の管理、L社の指示に基づく出金手続、M社の日本における代表者の派遣業等の業務のほかに、条理上の義務として、購入者に対する資金管理義務を負っていたとは認め難いとしている。このような理解は、従来の学説の立場に近く、契約の文言の消極的な解釈を基礎とする。これと対照的な理解を示したのが前掲・東京地判令和四・三・三一(④判決)である。すなわち、同じく管理契約上の義務について、Y2・Y3が診療報酬債権等の取得および支払を監視することにより、関係者の利益相反や権限濫用を防止し、権限分化と相互牽制により、SPCの管理がスキームに沿って忠実に行われていることを担保するための仕組みと解することで、スキームにおいて想定された牽制機能を強調するものとなっている。このようなスキーム関与者の位置づけ・役割についての認識の違いが、販売証券会社・会計事務所に期待される役割や義務違反の有無の判断に影響を与えたのではないかと思われる。2 会計事務所の資金管理義務、販売証券会社の商品審査義務 Xらの主張は、本件レセプト債が詐欺的投資商品であるという実態を認識すべきであったという点にある。証券化スキームにおけるゲートキーパーである会計事務所あるいは販売証券会社の観点から調達資金の目的外支出を調査・判例研究17発見・認識すべき義務を考えるとき、それぞれ条理上の資金管理義務あるいは商品審査義務が問題となる。(1)資金管理義務(条理上の義務) 投資家に対する会計事務所の責任を基礎づける法律構成として、条理上の資金管理義務(本判決)、あるいは(共同)不法行為責任(前掲・東京地判令和四・三・三一(④判決)、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決))が問題となる。本判決は、事務受任者の義務を定める管理契約は、義務の履行にあたり発行会社の指示に従って義務を行う立場にある、すなわち、支払指示書の送付を受けて口座から出金手続、仕訳・記帳し、決算報告書の開示を行うものとされ、また、国内一口座のみで海外口座の管理はなく、口座全体の出入金状況や趣旨を把握できる地位・権限はないことから、「条理上の義務」として資金管理義務はなく、さらに、Y2・Y3は専門知識等を有するものではないうえに、資金管理義務を肯定することはL社の裁量とぶつかり、S&P合意に基づく監視も会計監査業務のような出金の実質的理由の有無や正当性を監視することを義務付けるものではないとして条理上の資金管理義務を否定した。また、不法行為責任については、目的外支出であることを認識して、あるいは容易に認識し得たとは認められないとして、不法行為法上違法となる行為はないとした。これに対し、前掲・東京地判令和四・三・三一(④判決)は、投資家保護の仕組みとして業務委託契約の採用する権限の分化と相互牽制の仕組みを理解し、会計事務所(担当者)において牽制機能を果たさないときは幇助による共同不法行為責任を免れないとした。前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)は、調達資金を診療報酬債権の買取り以外の目的で支出していることを容易に認識できたあるいは疑念を抱くべきであったとし、L社が虚偽の事実を告げ顧客を誤信させて社債を取得させる不法行為を容易ならしめるものであり、過失により不法行為を幇助したものとして共同不法行為の責任を肯定した。 類似の事案にもかかわらず、投資家に対する義務違反の評価、とりわけレセプト債の実態を認識すべきであったか否かについて判断が分かれる結果となっている。法律構成としては、発行者との業務委託・管理契約等にある「債権の取得及び支配を監視する」との記載のうち、「監視する」にどの程度実質的な内容を読み込むかに差異がみられる。文字通り、監視する役目があると理解する(前掲・東京地判例令和四・三・三一(④判決))か、それともアレンジャーの指示に従うとされ、調査権限がないという実態を18法学研究 96 巻 8 号(2023:8)重視する(文言を重視しない)か(本判決)である。前者では、相対的に共同不法行為の成立が認められやすくなると考えられるが、「監視する」という文言を文字通り解釈する(実質的な監視義務を肯定する)としても、当事者間の契約がそのまま第三者効(投資家に対する義務)を有する構成となる点で疑問が残る。やはり、「信義則」を媒介にして(投資家の期待?)、商品の実態(販売に適しないこと)の認識を前提に何らかの調査義務を基礎づける解釈、あるいは共同不法行為の成否を検討するのが妥当ではないか(前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決))。いずれも事実の法的評価として、「疑念を抱くべき事情(調査の端緒)」があったか否かの問題に帰着すると考えられる(後掲3参照)。(2)商品審査義務 Xらは証券会社の責任を基礎づける主張の一つとして商品審査義務違反を挙げるが、その内容は必ずしも明確ではなく、その法的根拠は何かが問題となる。法令等には商品審査義務なる概念は見当たらないものの、同概念が主張される理由がないわけではない。日本証券業協会「私募債等の商品審査及び販売体制等のあり方に関するワーキンググループ」(二〇一六年七月)」(私募債規則(二〇一七年制定))では、商品の不十分な審査、投資家への不適切な情報提供による販売といった問題を受け、商品審査と顧客への適切な情報提供を含む販売体制のあり方が議論され、二〇二二年に設置された同ワーキンググループでは、裏付資産の実質的な審査について議論されている。しかし、本判決は、金融商品取引法、自主規制にも商品審査義務の定めはなく(金融庁も同様の見解)、私募債については、法令上、証券会社に調査権限もないことから、専門知識を有することや行為規制(適合性原則、虚偽表示の禁止等)の存在を考慮しても商品審査義務はないと判断した。前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)は、各社債が真実報酬債権を裏付けるものであるかについて注意を払うべき(「疑念を抱くべき」)事情があったことを前提に信義則上の調査義務を肯定したが、投資家に対する情報提供の必要性が高い場合で、かつ裏付資産の真実性に疑念を抱いてしかるべき事情がある場合に認められるものであり、Xらの主張する商品審査義務とは性質を異にすると考えられる。 Xらの主張の根拠は、一つには、各種行為規制が商品審査義務を前提とするとの理解にあるが、それは原則として一般的・抽象的なリスクを説明するためのものであり、本件で問題となるような実態として裏付資産のない詐欺的な判例研究19商品であることを説明するためのものではない。また、商品審査義務を基礎づけるのに、一般の投資家は証券会社が細心の注意を払って商品を審査等していると信頼しており、その信頼を保護すべきというゲートキーパー機能を根拠とすることが考えられる(控訴理由書)。しかし、商品審査義務の根拠をゲートキーパー機能に求めるとしても、いかなる場合にどのような内容の義務を負うのかが明確になるわけではない。前掲・那覇地判平成三〇・七・一三(①判決)が指摘するように、証券会社に期待される役割ゆえに直ちに個々の投資家に対する何らかの法的義務が基礎づけられるわけではなく、投資家に対して一般不法行為の要件を満たすか否かの観点から引受審査のあり方が問われるとしても、募集規制に適合しない場合にそれが直ちに不法行為責任を負うことに直結するわけではない。募集・売出しの場面での引受人の責任も、財務計算部分については監査の信頼性の基礎に重大な疑義を生じさせる情報に接したか否か(最判令和二・一二・二二(FOI事件判決(③判決)。なお、目論見書使用者の責任も相当な注意を用いても知ることができなかったことを証明すれば免れる(法一七条但書))、財務計算部分以外の部分については相当な注意を用いたか(法二一条二項三号)が問題となる。(3)問題の本質 スキーム関与者としての会計事務所や販売証券会社が投資家に対して負う資金管理義務や商品審査義務は、個別の事案における評価とは独立した一般的な義務となりうるため、投資家保護の観点からは魅力的な概念と考えられる。しかし、募集・売出しの場面での引受証券会社の義務のような法令上の根拠がある場合はともかく、一般的な資金管理義務や商品審査義務の根拠を法令上見出すことは難しい。最近の学説には、適合性原則・説明義務を履行する前提として調査義務・商品熟知義務を基礎づけようとする見解(村上・前掲一九七頁―二〇〇頁)も見られるが、証券化商品に関する一般的・抽象的なスキーム・商品を理解するための調査義務・商品熟知義務を越えて、個別具体的なリスク(裏付資産の実在性)まで対象とするものであるかは疑問である(後掲「4 金販法上の説明義務」参照)。また、スキーム関与者のゲートキーパーとしての役割を重視し、文字通り牽制機能を果たすべきである(事務受託契約を厳格に解釈する)としても、発行者と会計事務所・販売証券会社との間の受託契約の内容がそのまま投資家に対する義務を直接基礎づける(第三者効を有する)ものとはならない。やはり、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②20法学研究 96 巻 8 号(2023:8)判決)あるいは前掲・那覇地判平成三〇・七・一三(①判決)のように、投資家に対する義務違反の基礎づけは、条理もしくは信義則を媒介にした解釈または幇助による(共同)不法行為の成否(後掲3)を検討すべきであろう。商品審査義務の実質的な意味は、目的外支出などの疑念を抱くべき場面(調査の端緒)を見逃さず、必要な場合には適当な調査をする義務と解される。3 幇助(過失)による共同不法行為の成否 レセプト債訴訟における肝心の問題は、個別の事案において、法令上の調査権限をもたない関係者が巧妙な措置をどこまで見抜けるか(スキーム上の問題)、また目的外支出や債務超過について「容易に認識することができるか」あるいは「疑念を抱くべき事情」が認められるかにある。もし、疑念を抱くべき場合にスキーム関与者が漫然とこれを放置すれば、少なくとも過失による幇助に基づく共同不法行為(民七一九)が成立することになる。この点について、本判決を含む下級審裁判例の評価は分かれる。 まず、東京地判令和四・三・三一(④判決)は、Y2が「業務委託契約に定められた」牽制機能を果たしていたと評価できるかを問題とし、本件レセプト債の実態を発生させ又は拡大させ、さらには実態の発覚を防ぎ、L社が実態を秘匿したまま発行を継続することを可能にしたことで共同不法行為の成立を認めた。具体的には、L社に従属する等として牽制機能を担うことを否定したこと、L社の指示に従わねばならないとの認識のもとに業務が行われたこと、S&P合意を締結したこともなかったこと、QCL社等における診療報酬債権等の実際の取得の有無等を監視しなかったこと(平成一七年一二月時点でM社においてQCL口が診療報酬債権残高の八割以上を占めた)等の事実を指摘し、発行会社以外のSPCに投資資金を分散して購入を進めているとの説明を聴取し、QCL社等の社債要綱を受領したことを越えて、何らの実在性の確認のための手段を講じていない(牽制機能を果たしていない)とした。また、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)では、販売証券会社について、平成二五年夏には債務超過額が発行残高の一〇%を上回っていたこと、競争激化で債権の買取期間が伸長されたこと、各社債の利率・販売手数料が引き下げられたこと(平成二六年一月二三日)を捉え、遅くともこの時点で本件各社債が診療報酬債権を裏付けとするものであるといえるかに注意を払うべき(疑念を抱いてしかるべき)立場にあったとし、さらに会計事務所について、診判例研究21療報酬債権の九割がQCL口、SAL社・QCL社の社債購入資金の支払(M社の資産の約半分)やL社の社債購入資金(合計一五億円)支払に充てられており、診療報酬債権の買取り以外の目的の支出を容易に認識できたと評価した。 他方、本判決は、Y1(販売証券会社)がレセプト債の実態を認識できたとXらが主張する事実、すなわち、①発行会社二社は注意喚起のあった英領ヴァージン諸島の外国法人であり、税理士法人でない事務所が監査していたこと、②M社の運用実績報告書の買取先件数と金額が公表された統計情報と整合しないこと、③M社の決算報告書における繰越欠損金額が連続しないこと、④平成二六年一月頃、発行会社二社は債務超過の状態にありY1は販売手数料等の引き下げの申入れを受け(L社の財務諸表等の開示を求めたが拒否された)、検証報告書中の保険医療機関名も伏せられたままであったとの指摘に対し、証券会社に求められる相応の調査を尽くすことにより、本件レセプト債等の実態を認識し得たとは認められないとし、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)が疑念を抱いてしかるべきとした事実(④)を「同説明が明らかに不自然不合理なものであったとは認め難い」とする。前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)は、平成二六年一月頃を各報酬債権が真実報酬債権を裏付けとするものであるか疑念を抱いてしかるべき時点と認定するから、この時点の事実評価は極めて重要である。本判決は、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)の指摘する事実を認めながらも、本件レセプト債の販売停止まで償還や利払いが遅滞したことはないこと、本件レセプト債販売の当時、証券取引等監視委員会において本件のようなケースでの注意喚起を行っていなかったこと、Y2・Y3は相応の実績を有する会計事務所であったことを併せ考慮して、レセプト債等の実態を認識し得たとは認められないとした。確かに発行会社二社が債務超過の状態にあり、各社債の利率および販売手数料が引き下げられることをもって疑念を抱くべき事情(前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決))といえるかは疑問も残るが、外部環境(監視委員会の注意喚起がなく、相応の実績を有する会計事務所の存在等)からスキーム関与者の消極的な役割・位置づけを導くことも妥当ではないように思われる。 また、本判決は、Y2(会計事務所)について、①スキーム構築に関与していないこと(一般的な助言のみ)、②Y2が組成したファンドへの流出資金の投資の経緯等は不明で22法学研究 96 巻 8 号(2023:8)あること、③L社の関連会社の社債をM社の資産として計上し、売掛金の内訳として未収利息金の会計処理が行われたが、買取り以外の使途について説明を受けたことはなく、また管理契約上、資金使途に関する報告を求め、調査したりする権限はなく、容易に認識することはできないこと、他に資金を分散して購入する旨の説明があり、資金移動の態様が有価証券取引に基づくものと認識していたことを指摘し、レセプト債等の実態を認識し、目的外支出を認識しながらの出金とはいえないとした(会計事務所Y3についても、L社の指示を受けて出金したこと、債権の買取り以外の使途に充てられることについて説明はなかったこと、資金使途に関する報告や調査権限は定められていないこと、スキーム全体で運用することとされ買取先を開示できないこと、社債の計上は他のSPCを通じて債権を購入する手段であったことを指摘し、目的外支出を認識・容易に認識し得たにもかかわらず、出金手続を行っていたとは認められないとした)。これに対し、前掲・名古屋地判令和四・四・一九は、①発行会社は専ら社債を発行して診療報酬債権を流動化するため設立されたのに、発行会社の預金口座から診療報酬債権の買取り以外の目的で支出したこと、②発行会社との管理契約を締結した時点で、発行会社は診療報酬債権の約九割に使用した補助科目の表記が不自然であることから、L社の不法行為を容易ならしめる不法行為を継続し、過失により不法行為を助長したと判断した。 下級審の判断は分かれるが、レセプト債の実態あるいは目的外の支出に関する「疑念を抱くべき事情(調査の端緒となる事実)」(決算書上の「QCL口」の存在、有価証券(社債)の買取債権口座への振替等)の有無に関する評価が重要となる。本件レセプト債の償還や利払いが遅滞したことはなく、また財務局等からも問題の指摘がない中で、いかなる事実をもってYらが認識すべき調査の端緒(いわゆるred-flag)とみるべきか。詐欺的な商品の販売となっていることを基礎づける具体的な事実(目的外の支出、報酬債権を裏付けとするものではない等)と考えるのは調査の端緒としては緩(遅)すぎるであろう。本判決が調査の端緒について「本件レセプト債の実態」について具体的な認識を求めるものであるとしたら妥当ではない。むしろ、レセプト債の実態に関する調査の必要性を基礎づける事実の認識可能性があれば足りると解すべきであろう(前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決))。最終的に、この問題については、スキーム関与者の位置づけ・役割(前掲1の分析を参照)をどこまで積極的なものと理解するかが判例研究23影響しているように思われる。法的な調査権限がなく、あくまでスキーム関与者としてアレンジャーの指示に従って事務処理を行うものと理解するなら、疑念を抱くべきと評価されるハードルはかなり下がると考えられる。4 金融商品販売法(現金融サービス提供法)上の説明義務違反の有無 Xらは、金販法三条一項三号および同条二項に基づき、調達の金額・機関等にミスマッチが生じた場合に備えた加速度償還条項等が欠けており、元本欠損が生じるリスクがあることを説明すべきであったと主張した。つまり、大規模な目的外流用は、加速度償還条項を欠いて調達資金に余剰が発生したことに端を発するものであり、調達資金と運用資産のミスマッチが生じうることは投資判断に重大な影響を及ぼす事情である旨を指摘する。加速度償還条項は、「標準情報レポーティングパッケージ(SIRP)ガイドブック(平成二七年九月改訂)」において、証券化商品のリスクとリターンを理解するために有益と考えられる項目のうち、トリガーの仕組み(リスク発現時に優先トランシェの償還スピードを早めたりする等)の一つとして挙げられている。本判決でも、Y1はN債についてSIRPに準じた審査を行ったことが認定されている。 金販法上の説明義務違反の有無については、本件レセプト債を販売するにあたり、提案書を用いて、本件レセプト債の商品性概要(本件レセプト債等のスキーム)や、発行会社二社の信用状況等の悪化により利金・償還金の支払遅延・不能等が生じ、元利金の一部またはすべてが失われる可能性があること等を説明しており、金販法上の重要事項を説明したと結論づけた。問題は、金販法上の説明義務の対象となる「仕組み」にどこまでの内容が含まれるかである。この点、裏付資産の内実は、金販法の定める「取引の仕組みのうちの重要な部分」として説明義務の対象となるとの見解(津田・前掲一一四頁、村上・前掲二〇二頁も同旨)には疑問がある。(控訴理由書でも指摘の通り)そもそも債務超過である、裏付資産のないことが説明義務の対象となるのは奇妙であり、それは説明義務の問題ではなく、当然に販売を中止すべきか否かの問題であると考えられる。本件で問題となる詐欺的商品である(債務超過、目的外支出のために裏付資産なし)ことは説明義務の対象となる仕組み上の問題ではなく、実態について疑念を抱くべきか否かの問題として理解すべきである。では、SIRPガイドブックでもリスクの一つとして言及されている加速度償還24法学研究 96 巻 8 号(2023:8)条項の不存在の事実は「仕組み性」として説明対象となるか。本判決は、本件レセプト債の仕組みのなかで元本欠損が生じる要因は様々であり、加速度償還条項等が欠けていることのみが要因となるものではないと指摘する。スキームに関する一般的な説明を越えて、スキームに含まれる具体的なリスク要因(理想的なスキームにあるべき仕組みの不存在を含めて)すべてを網羅的に説明することまで要求されることにはならないであろう。本件のような裏付資産のない詐欺的商品の販売については、適合性原則や説明義務との関係ではなく、信義則上の説明義務違反あるいは共同不法行為の成否という法律構成を検討すべきであろう。5 少人数私募該当性 本判決は、判旨四の通り、本件レセプト債の取得勧誘が少人数私募に該当することを認めた。形式的にみれば判旨の述べる通りであるが、より実質的に募集とみるべき場合に該当しないか検討の余地がある。まず、すでに取り上げたワールド・リソースコミュニケーション課徴金事例(前掲二4(1)参照)と同じように、結論的にそれぞれ別個の勧誘(私募に該当しない)とみることはできないかが問題となる。同課徴金事例は、結果的に各回号の利率を異ならせながら各回四九口以下で発行していた点では本件と類似するが、各回号の利率が〇・〇〇一%しか異なっておらず、また、取得勧誘の段階では幅のある形で曖昧な勧誘を行っていた事案であり、当初から各回号の利率(三・八%、後に三%)を決定し償還期限等を異なるものとして勧誘した本件とは異なる。それゆえ、同課徴金事例をそのまま本件に当てはめることには無理がある。さらに、近接した時期に利率がわずかに異なる社債の勧誘をすることに「合理的な理由」がない限り「同一種類の有価証券」に該当するとの見解(前掲二4(1)参照)によれば、何が「合理的な理由」に該当すると考えるかが問題となる。本件において、同一の利率で償還日の異なる社債の取得勧誘が一カ月ごとに四九名になされたことは、専ら私募に該当することを目的とする不合理なものと考えるならば、「同一種類の有価証券」の勧誘が六カ月以内に五〇名以上になされ、結果的に募集に該当すると解することになろう。このように募集該当性を模索する(有価証券届出書の提出を要する)以外の法律構成として、前掲・名古屋地判令和四・四・一九(②判決)は、法的には私募に該当するとしながらも、取得勧誘の実態を踏まえ、開示規制の適用を受けない趣旨が実質的に妥当しないため、投資判断に必要な情報を取得判例研究25者に提供する必要が高いことを指摘し、「疑念を抱くべき場合」であることを前提に、信義則上の調査義務を通してより実質的な解釈を志向する点で注目される。 ただ、右に見たような実質的な解釈を採り、「募集」に準じた規制に服させる、あるいは調査義務を肯定するとしても、自動的にY1の責任が認められることにはなるわけではない。例えば、目論見書責任について、Y1が虚偽等の事実を知らず、かつ相当の注意を用いても知ることができなかったことを証明すれば責任を免れる(金商法一七条ただし書)。改めて「相当の注意」を尽くしたか否か、因果関係の有無(期待可能性、知ることはできなかったか)が問題となる。また、最判令和二・一二・二二(③判決(FOI事件))が示すように、販売証券会社の義務違反による投資家に対する損害賠償責任が当然に認められるわけではなく、積極的に組成に関与する(認識がある)場合を別とすれば、詐欺的商品である(裏付資産を欠く等)ことを認識すべき場合であるか否かが問題となる。いずれにしても、調査の必要性を基礎づける事実の認識可能性(会計事務所は目的外の支出について、証券会社は真実報酬債権を裏付けとするかについて疑義を抱くべき場合)が問題となり、この点こそ重要な問題であると考えられる。6 研究のまとめ 本件は、レセプト債の私募が問題となる事案であり、立法論としては疑問の余地があるが、募集・売出しの場面に適用される金商法上の開示規制の適用は問題とならない。本件のように、裏付資産の実在性が問題となる詐欺的な商品の販売において、金販法上の説明義務の対象とはならず、本判決も採用する、信義則・条理上の義務(資金管理義務、調査義務)あるいは過失による共同不法行為の成否を検討すべきである。業務委託契約上の義務(資金管理義務など)から投資家に対する義務を直接基礎づけるのは難しい(追加の論理を要する)。レセプト債の実態あるいは目的外支出について疑念を抱くべき場合・容易に認識することができる場合に販売を継続すれば、過失により幇助したことが共同不法行為に該当する。柳 明昌